茨城県鹿嶋市にある「茨城県立カシマサッカースタジアム」(以下、カシマスタジアム)は、Jリーグ「鹿島アントラーズ」のホームスタジアムだ。同スタジアムでは 高密度Wi-Fi環境を整備するなど、さまざまなICTを導入することで、スポーツ観戦における新たなファン・サポーターの体験価値を提供する、国内最先端のスマートスタジアムを目指している。
490のアクセスポイントを設置し、快適なWi-Fi環境を整備
同スタジアムは2017年、約460のアクセスポイント(AP)による高密度Wi-Fi「ANTLERS Wi-Fi」を整備した(現在のAPの数は約490)。設計・施工したのは、NTTブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)だ。これにより、観客はカシマスタジアムに来場し、「ANTLERS Wi-Fi」に接続すると、快適なWi-Fi環境を利用できる。
Wi-Fiを導入した背景について、鹿島アントラーズFC 取締役副社長 鈴木秀樹氏は、次のように語る。
「近年、Jリーグ中継がDAZN配信に変わった影響からか、試合観戦をしながら中継を楽しむお客さまが増えてきました。カシマスタジアムへは東京など遠方からも訪れる人々が多く、その観戦体験をより充実させるため、高品質な通信環境の提供が必要不可欠となっています。現代社会ではホテルの予約からSNSの利用に至るまで、自宅だけでなくどこでもインターネット接続が可能であることが当然になりつつあります。カシマスタジアムでもこの潮流に乗り遅れることなく、自宅と変わらない速度と安定性を備えたWi-Fi環境を提供しています。こうした当たり前のサービスをしっかりと提供することが、私たちのサービスへのこだわりでもあります」
カシマスタジアムや国立競技場のように、NTTBPが設計している高密度Wi-Fiは、1つのAPで同時に利用できる最大人数をあえて絞り、電波の出力強度や角度を狭めて、より多くのAPを設置。より高品質なWi-Fiを使ってもらうため、こまかくエリアカバーする置局設計を行っている。
その際、最も重要になるのが、APに対して、どれくらいの人数がどの範囲で接続し、どういった用途で利用して、どれくらいの品質が求められるのかといった概念設計だと、構築を行ったNTTBP プラットフォーム アライアンス営業部 パートナー営業推進室 鹿島アントラーズユニット ユニット長 清水俊彦氏は話す。この概念設計をもとに、設置するAPの位置や数、種類を決定していくという。
一方、高密度Wi-Fiで課題となるのは、設置するAPが多くなると、使用するチャネルが重複することだ。これを回避するため、カシマスタジアムはチャネルのオート設定は使用せず、隣接するAPのチャネルをすべて重ならないように1台1台設定しているという。
同スタジアムのWi-Fiは、ホスピタリティの観点で、場外でも利用可能になっている。
その理由について、鹿島アントラーズFC 地域社会連携ディビジョン ファシリティマネージメントグループ マネージャー 兼 茨城県立カシマサッカースタジアム所長 スポーツセンター施設長 萩原智行氏は、次のように説明した。
「多くのスタジアムはキックオフの2時間前ですが、私たちは3時間前から開場しています。それは、私たちのチームは、首都圏等の遠方からいらっしゃるサポーターも多く、移動時間に余裕をもって行動される方が多いからです。そのため、早くにスタジアムに到着されたとしても、Wi-Fiをご活用いただくことで気兼ねなくインターネットを使っていただけますし、私たちとしても、待ち時間を、情報発信の場に変えられるのです。例えば、試合が始まる前にECサイトを見てもらったり、当日販売しているグッズをチェックしてもらったりすることができます。場外でのWi-Fiは、こうした情報提供の場にもつながります」
ワールドカップ、五輪に続き、ドローンレースの会場に
カシマスタジアムはさまざまな国際大会で利用されることを目指しており、実際、日韓で開催された「2002 FIFAワールドカップ」や東京五輪の会場としても利用された。五輪においては、求められる通信環境のレギュレーションが細かく、設定に苦労したと清水氏は語る。
「このスタジアムには現在490のAPが備え付けられていますが、五輪開催時は、どれを止めて、どれを止めてはいけないのか。また、どの種類のアンテナは電波を吹いてはいけないのかなど、国際的な規格が決まっており、設計に数カ月かかりました」(清水氏)
今年の12月16日には、スタジアムとしては初のドローンレース「KASHIMA STADIUM DRONE RACE 2023(U99)」も開催された。この大会でも、飛行に影響しないように、電波環境を整備する必要があった。
スタジアムのWi-Fiだけでなく、観客が持ち込むWi-Fiルーターも飛行に影響する。NTTBPでは、大会に向けたプロジェクトチームを編成し、クリーンな電波環境を構築。同社では、NHK学生ロボコンや高専ロボコンでもWi-Fi環境の構築を担当しており、この経験を競技に影響を与えないクリーンな電波環境構築に役立てている。
「もっとドローンのアジア大会、世界大会を誘致するためにはどうすべきかといったら、ドローンを飛ばす無線環境を安定的にすることです。NTTBPさんは、Wi-Fiの電波を吹かすこともできますが、止めることもできます。これは、ずっと一社でやってきているからできることです。ドローン飛ばすために切るところは切ってもらいます。電波のクリーンなスタジアムを作ることによって、競技が成立するわけです」(鈴木氏)