「辰年」に新しい時代を切り拓いて【私の雑記帳】

時代が大きく動く辰年

 時代が大きく動く年─。2024年(令和6年)は辰(タツ)年。辰年は大きな出来事が起こる年といわれる。

 日本の近代化が始まる戊辰戦争は1868年の辰年に起きた。明治維新により、日本は幕藩体制に終わりを告げ、近代国家としての道を歩き始めた。

 それから2回り後の1904年の日露戦争で日本は勝利し、国力を付けていく。

 しかしその後、太平洋戦争で敗れ、焼土となった日本は、国民をあげての復興へ向けた努力が始まった。その中で、混乱や争い事も発生。〝血のメーデー〟では、デモ隊と警官隊が衝突し、約1500人の死傷者を出した。

 辰年には、政変、政治的事件も多い。ロッキード事件(1976)、リクルート事件(1988)は当時の政界を揺るがした。

 負の出来事ばかりではなく、人々を前向きにさせるプロジェクトや祭典もある。

 第1回東京五輪開催、東海道新幹線の開通は1964年(昭和39年)で、敗戦から19年後の事であった。

 その4年後には、日本は西ドイツ(当時、現ドイツ)を抜いて、自由世界第2位の経済大国になり、国民も自信を付けていった。

 世界最長のトンネル、青函トンネル(全長53.85キロメートル)が開通したのも1988年。工事期間は約24年にわたり、延べ1400万人もの人たちが建設に携わった。

 2012年(平成24年)には山中伸弥博士(京都大学)がiPS細胞(多能性幹細胞)の研究でノーベル医学生理学賞を受賞。再生医療への道を開拓したことの意義は大きい。時代が動く辰年だ。

日本の存在感を!

 タツ(龍)は十二支の中で、唯一の空想上の生き物。目の前の制約にとらわれず、自由に伸び伸びと発想、行動して、新しい時代を切り拓いていきたいものだ。

 ウクライナ危機に加え、パレスチナ危機で貴い人の命が失われている。国と国の対立、民族と民族の争いはいつまで続くのか?

 今は、いつ自分たちの国の周りで争い事が起き、当事者として、それに巻き込まれるか分からない状況。

 米中対立が深まる中で、中国とロシアの連携が進み、それに北朝鮮が加わり、東アジアでの緊張感も高まる。

 経済と安全保障が結び付く『経済安全保障』という考えが増々意識される時代である。

 米中対立の時代ではあるが、米中2強だけで国際政治・経済は動かせない。G7(先進7か国)に加え、インド、中国なども参加するG20の枠組みや、APEC(アジア太平洋経済協議会)、IPEF(インド太平洋経済枠組み)といった提携・枠組みづくりが活発なのも、現在の危機を直視し、衝突のリスクを何とか回避したい─という思いの表れであろう。

 日本も、インドなど友好国と協力して、国際秩序の安定へ向けて行動する時である。

日本は『安い』との声に……

 しかるに、日本国内は、与野党の足の引っ張り合い。また、政権党・自由民主党内も岸田文雄首相の支持率低下で浮足立ち、大きな国の基本軸を創ることができていない。

 確かに、企業業績は良くなり、株主配当も良くなり、賃上げ機運も高まる。インバウンド(訪日観光)客も増えて、観光業・飲食業界も潤ってきた。一見、経済は順調だが、何か日本全体の腰が定まらない。

 コロナ禍の4年を経験した今、われわれはどのような社会を築いていくべきなのか?

 インバウンド客からは、日本を旅行していて、「楽しい」とか「居心地がいい」といった感想が聞かれる。

 もっと言えば、日本は、『おいしい』、『安い』というインバウンド客の反応である。

 1ドル・150円前後という近年にはない〝円安〟に象徴される日本経済の実態をどう直視し、どう行動していくべきか。

 〝タツ年〟を迎えるにあたって、考えさせられる日本の現状だ。

日中間で真摯な対話を

 社会の各領域が混然として、様々な問題が発生しているが、お隣・中国との関係をどう再構築していくのかも最重要課題の1つ。

 1972年(昭和47年)の日中国交正常化から51年余。また日中平和友好条約(1978年=昭和53年)から45年余が経つ。

 コロナ禍で対面によるフォーラムが中断していた『東京―北京フォーラム』(第19回)が2023年10月、北京で開催された。

 日中双方で、真摯に議論、対話をして、相互理解を深めようと始められた同フォーラム。

 しかし、現実には日中関係は厳しさを増している。東京電力・福島第一原発の『処理水』問題もその1つ。かねてからの尖閣問題なども抱える中で、関係者の間でも、「日中平和友好条約の精神が生かされていないじゃないか」として、お互いに条約を尊重するところから対話をやり直そうという空気が出始めている。こうした対話実現への努力が必要だ。

武藤敏郎さんの言葉に

「お互いによく言うんだけど、日中両国は引っ越しができない隣人だと。戦争をするわけにはいかない」と言うのは、同フォーラムに参加してきた武藤敏郎さん(大和総研名誉理事、元財務事務次官)。

 今回のフォーラムでは、政治、経済、外交、核問題、安全保障、メディア、デジタルの7つの分野で議論というか、対話を行った。

「政府間対話、核の問題、ウクライナやパレスチナ問題、そして日中の経済協力、デジタル社会での共通原則など5点について、共同宣言を出しました」と武藤さんは対話の成果を語る。

『人を大事にする経営』で

「人を大事にする経営に徹していく」─。キヤノン会長兼社長CEOの御手洗冨士夫さん(1935年=昭和10年生まれ)は、この経営思想をさらに進化させようとしておられる。

 医療機械、商業印刷、イメージング(監視カメラ)などの領域でM&A(合併・買収)を行い、成長事業を構築してきたキヤノン。コロナ禍でも成長し続け、2023年12月期は3期連続の増収増益を果たす見通し。

 世界全体に不透明感が漂い、混沌とした状況だが、その中を生き抜くために、「人を大事にする経営」で臨みたいと言う。

「創業(1937年=昭和12年)以来、わたしたちは、健康第一主義、実力主義、そして家族主義を社是にしてきました」と御手洗さん。

 同社はまた、行動様式に、『自発、自治、自覚』を掲げ、人の潜在力開発を大事にしてきた。「基本は、人づくりにあります」という御手洗さんの思いである。

 海外売上は全体の約8割。グローバル企業であるが、その国や地域の歴史的背景、風土に合わせた経営を展開。「人を大事にする」という根本論は世界に通用するとして、「普遍性のある経営」と強調する御手洗さん。人の潜在力を掘り起こす経営である。