加賀市教育委員会(石川県)は12月16日、STEAM教育に関するテクノロジーイベント「STEAM FES KAGA」を開催した。

  • 「STEAM FES KAGA」が開催された「かが交流プラザさくら」 撮影:丸山篤

STEAMは科学(Science)、技術(Technology)、工学・ものづくり(Engineering)、数学(Mathematics)、芸術(Art)の頭文字をとったもの。この5つの領域を横断的に学ぶことで、テクノロジーの進化に対応可能になるだけでなく、自発性や創造性、論理的思考力や問題解決能力といった能力を育む教育をSTEAM教育という。

小中学校20チームがSTEAM教育の成果を発表

加賀市は、小学校のプログラミング教育が必修化される2020年の3年前の2017年よりプログラミング教育に力を入れており、現在は小中9年間一貫型の「加賀STEAM 」推進している。これにより、問題解決する力、教科横断的に探究する姿勢、問い続ける姿勢の育成を行っている。

「STEAM FES KAGA」では、市内中学校6校の代表チーム(1校あたり2チーム)、小学校のSTEAM先行実施校6校の8チームが、それぞれがこれまでSTEAM教育により取り組んだ課題解決やそれを通して学んだことについての成果を発表した。

  • 勅使小学校は、テレビ番組の「逃走中」を参考に、ファミリー活動としての「ハンター」をより楽しく、安全に行えるようにプログラミングをしながら試行錯誤する活動を発表 撮影:丸山篤

  • 片山津中学校はSDGsの観点でSTEAMを生かしてアイデアを具現化し、地元を活性化させる取り組みを発表 撮影:丸山篤

成果発表会、加賀市 教育長 島谷千春氏は「テクノロジーを使うとやれることが広がることを感じてほしいので、加賀市ではSTEAM教育をやっています。『みんながこれやったほうがいいよね」と思っているだけでは、1mmも世の中は変わりません。だから、人に伝えて、自分たちはこういうことをやっていきたいということを、周りの大人たちに伝えてほしいと思います」と挨拶した。

  • 加賀市 教育長 島谷千春氏は「テクノロジーを使うとやれることが広がることを感じてほしいので、加賀市ではSTEAM教育を実施している」と語っていた 撮影:丸山篤

また、加賀市教育委員会 寺西望氏は、今回のイベントの目的について、語っていた。

「多く人にテクノロジーに触れてもらい、興味をもった子供たちがそれを深堀りする時間を設け、STEAM教育を身近に感じてもらいたいです。こういったことがきっかけで、地元でテクノロジーを使った仕事をしたり、起業したりすることにつながっていけばと思います」

  • 加賀市教育委員会 寺西望氏は「STEAM教育がきっかけで、地元でテクノロジーを使った仕事につながれば」と語っていた 撮影:丸山篤

さまざまな体験コーナーを設け、文化祭のような雰囲気を醸成

昨年は中学校による成果発表会だけを行っていたが、今回の「STEAM FES KAGA」では小学生の発表のほか、ドローン、VR、ロボット作成、iPadを使った塗り絵などの体験コーナーも設けたほか、キッチンカーによる飲食コーナーも用意され、より多くの人が楽しめる文化祭のような雰囲気で行われた。

  • iPadによる塗り絵体験コーナー 撮影:丸山篤

  • 3Dプリンタを利用したロボット作成コーナー 撮影:丸山篤

  • VR体験コーナー 撮影:丸山篤

  • キッチンカーも出店し、飲食コーナーも設けられた 撮影:丸山篤

なぜ、加賀市はSTEAM教育に力を入れるのか

このように加賀市がSTEAM教育に力を入れる背景には、2014年に日本創生会議が指摘した「消滅可能性都市」に、加賀市が含まれたことがある。「消滅可能性都市」とは、2040年に向けて20-39歳の女性の数が半分以上減少し、消滅する可能性のある都市を指定したもの。

「消滅可能性都市」への対策の一つがデジタル化の推進であり、その一環として、未来の加賀市を背負う子供たちへのテクノロジー教育に注力している。

  • 「消滅可能性都市」からの逆転を目指すポスター 撮影:丸山篤

その施策の一つが、「STEAM FES KAGA」開催された「かが交流プラザさくら」の中にある「コンピュータクラブハウス加賀」の運営である。「コンピュータクラブハウス加賀」は、世界20カ国100カ所に設置されてる「コンピュータークラブハウス」の国内第1号となる。

「コンピュータクラブハウス加賀」では、プログラミング、ロボット、VR、デジタルイラスト、アニメーション、楽曲制作、レコーディング、生産、3Dプリント、動画編集などが放課後等の時間を使って無料で体験できる。年間1,000名を超える子どもたちが、放課後や休日に訪れ、学校や家庭以外でテクノロジーに触れることのできる貴重な機会として利用されている。

運営は、特定非営利活動法人であるみんなのコードが加賀市教育委員会の委託を受け、2019年から展開している。みんなのコード 広報担当 森田亜矢子氏はコンピュータクラブハウスの役割について、次のように語っていた。

「今の子供たちは、動画を見るなど情報消費者になっている。ただ、自分がプログラミングをやりたいと思っていても、『教えてくれる人がいない』『機材がない』など、消費者から生産者になることが難しくなっています。コンピュータクラブハウスが、そうした課題を解決するきっかけを作れたらいいと思っています」

新たに“Be the Player”というビジョンを掲げ、STEAM教育を刷新

加賀市教育委員会は2023年4月、スローガンとして“Be the Player”を掲げた学校教育ビジョンを新たに発表し、「自分で考え 動く 生み出す そして社会を変える」子どもたちの育成に向けて、新体制を始動した

そして、このビジョンを構造化・具体化し、実現までの道筋をつけるための役割として、新たに政策官を設置。また、学びの改革に挑戦する学校を支援し、授業改善に取り組む教師の皆さんに伴走する役割として、1名だった教育推進プロジェクトマネージャーを3名に増員した。

政策官は、小中学校における STEAM 教育、プログラミング教育のカリキュラム設計、企業や大学、地域など市内小中学校とのSTEAM 教育等に関する連携先の確保、学校での授業展開に必要な条件整備の検討・交渉、デジタルシティズンシップ教育、コンピュータサイエンス教育に関するカリキュラム設計、学習 e ポータルやMEXCBT(文部科学省CBTシステム)の活用を含む学びのDX(デジタルトランスフォーメーション)、教育データ利活用・データ連携などを行いう。

教育推進プロジェクトマネージャーは、個別最適な学び・協働的な学びの一体的な充実に向けた市内小中学校伴走支援、研修会の企画立案・実施、STEAM教育をはじめとする探究的な学びを実現するための学校伴走支援、研修会の実施などを行う。

  • 2023年度、新体制を始動 出典:加賀市

また、「加賀STEAM」のリニューアルや加賀STEAM官民連携コンソーシアムを結成。「STEAM FES KAGA」のような成果発表の場の提供、プログラミン教育の低学年への前倒しなどを行い、来年度から実施していく計画だ。

  • 成果発表の場の提供、プログラミン教育の低学年への前倒しを実施 出典:加賀市