東京・渋谷にはサイバーエージェントやDeNAなど多くのIT企業がオフィスを構える。「mixi」がSNSの先駆けとして一世を風靡し、現在もスマホゲーム「モンスターストライク(通称:モンスト)」が人気を集めているMIXIもその一社だ。

渋谷区教育委員会は次世代に必要な資質や能力を備えた人材を渋谷から排出することを目的に、東急やMIXIを含む区内のIT企業4社と「Kids VALLEY 未来の学びプロジェクト」を開始している。このプロジェクトでは小中学校でのプログラミング教育の充実を図っているが、その中でもMIXIは唯一、中学校を対象とした支援を提供する。

同社は昨今新しい学びとして注目される、「課題解決型学習(Project Based Learning)」をテーマとするオリジナルの教材を開発し、渋谷区立渋谷本町学園中学校(以下、渋谷本町学園)で9月から計5回の授業を実施してきた。このほど、その第5回目となる総まとめの発表授業が実施されたので、その様子を見学した。

  • 体育館で作業に取り組む生徒の様子

    体育館で作業に取り組むの生徒の様子

初台駅から徒歩圏内に位置する渋谷本町学園は、渋谷で唯一となる小中一貫校だ。今回の授業に参加したのは同校の8年生と9年生、および特別支援学級の計約130人。一般的には中学2年生および3年生に相当する。

MIXIは昨年度末、原宿外苑中学校の1年生約90人を対象としてオリジナルの教材「MIXI ブロックアイランド」を活用した授業を実施した。この教材は情報学習や探求学習に必要な機能に加え、社会課題の解決手法を学ぶための機能も備える。

具体的には、街づくりを模したシミュレーションゲームのようなイメージ。プログラムを記述するための専門知識を持たなくてもノーコードで操作でき、工場や農地、住宅などをフィールドマップ上に設置すると、さまざまな環境の指標が変動する。SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に示される17ゴールの達成スコアを確認しながら、仮説検証を繰り返す。

今年度はさらにアップデートを加えた。教員や生徒の意見を反映させやすくするために街づくりの表現を広げ、授業の形式もアレンジしているそうだ。渋谷本町学園では4-5人ほどの班に分かれ、社会課題や目指す街の姿を共有しながら解決策を探る。

  • MIXI ブロックアイランドを使った授業のイメージ

    MIXI ブロックアイランドを使った授業のイメージ

ここでは「デザイン思考」が重要となる。生徒たちは解決したい課題に共感し、ニーズを掘り下げて定義しながら、複数の企画を考える。その企画の中から課題の解決につながる手法を試行錯誤しながら見つける過程を繰り返し改善していく。

授業は計5回。1回目は班に分かれて解決したい社会課題について調べるとともに、ブロックアイランドについて学んだ。2回目に各班が取り組む課題を共有し、3回目に仮説を検証。4回目には達成スコアを可視化して成果を確認した。

5回目は総まとめと発表。ある班は、地球温暖化を防ぐために温室効果ガスの排出量低減を狙って、自然が多く工場が少ないアイランドを作成していた。その結果、ごみ処理や教育、収益力が思うように上がらないという新しい課題に直面したそうだ。班の代表の生徒は「人口が増えると電力が不足するが、発電所を作ると土地が足りなくなって人口が減ってしまった」と、課題解決の難しさを語っていた。

  • 授業スケジュール

    授業スケジュール

また別の班では、経済発展と環境悪化の相関を両軸でとらえるために、条件が異なる4つのアイランドを作成して結果を確認していた。1番目のアイランドを基準に、2番目は環境保護だけを目指す、3番目は経済発展だけを目指す、4番目は経済発展と環境保護のどちらも目指す、といった具合だ。複数の条件を比較検討する取り組みと改善プロセスには、正直にとても驚いた。

  • 複数の島を作り比較している班があった

    複数の島を作り比較している班があった

その他、「環境問題を考えるのは難しいけれど、食べることが好きな班員がいるから、食料と飢餓について考えた」とする班もあるなど、どれも工夫されたユニークな発表が見られた。

今回の授業を担当した、渋谷本町学園の第8学年 進路指導主任 ICT担当の福守久子先生は、MIXIと一緒に授業を始めたきっかけについて、「ゲーム感覚で探求学習ができるという授業の内容が魅力的に感じたので、ぜひ本校でも実施したいと手を挙げた。生徒には自分で問いや課題を見つける力を身に付けてほしかった。特定の教科だけでなく、社会科や理科や数学など教科横断の知識を使って参加できる点がよかった」と、振り返った。

また、5回の授業を終えた感想について聞くと「誰か一人だけが一生懸命になるのではなく、班で協力して同じゴールに向かって取り組めたのが素晴らしかったと思う」とのコメントが寄せられた。

その一方で、「5回の授業では少し時間が足りなかった気がする。可能ならゆっくり時間を取って生徒に学んでほしかった。通常の社会科や理科の授業とも並行しながら学習を進めていれば、もう少し理解が深まったはず」とも語るなど、次年度以降につながる改善点も見つかったようだ。

  • 発表を聞く生徒ら

    発表を聞く生徒ら

授業で講師を務めたMIXI 開発本部の田那辺輝氏も「当初想定していたよりも生徒たちの理解が早く、プラスアルファの内容まで伝えることができた」と笑顔で語っていた。

  • MIXI 開発本部CTO室 田那辺輝氏

    MIXI 開発本部CTO室 田那辺輝氏