ミクシィのエンジニアにゲーム作りを教わろう

GIGAスクール構想の下、児童および生徒に1人1台のPC端末やタブレット端末の配布が進められている。2022年度からは高校の授業でプログラミングを学習する「情報I」が必修科目となるなど、学校教育の現場でITに触れる機会は以前と比較できないほど増加している。

そうした中で、10数年前から部活動としてコンピュータ科学に取り組んでいるのは、全国有数の進学校である渋谷教育学園渋谷中学校高等学校(東京都渋谷区)だ。同校のコンピュータ部には、中学生から高校生まで30余名が所属しているという。

このほど、同じく渋谷に本社を構えるミクシィが、同校のコンピュータ部の活動を支援する全4回の特別なカリキュラムを用意したというので、その様子を取材した。

今回は、同社の新卒社員研修で実際に使用しているカリキュラムを応用し、コンピュータ部のために内容の厚みを増して教材を用意したとのことだ。UnityでC#を記述しながらゲーム開発を学ぶ、高度な内容である。

  • ミクシィ社員に教わる生徒の様子

    ミクシィ社員に教わる生徒の様子

今回ミクシィが用意したカリキュラムは、1回あたり約2時間の講義を計4回実施するものだ。部員は、第1回でプログラミングの魅力を学んだうえでUnityの基本を教わった。オンライン上で実際に稼働するアクションゲームを体験しながらUnityの仕組みを習得した。第2回では、ゲーム開発に必要な考え方を知り、実際にUnity上での実装方法を学んだ。

第3回ではUnity開発に必要なC#言語の記述方法など、より実践的な内容を学習した。最後となる第4回はUnityやC#のより発展的な要素や技術を学んだ。さらには、Gitによるプロジェクト管理の手法など、本格的なゲーム開発の現場の一部を垣間見ることができるような内容だった。

今回参加した中学1年生の部員は「自分が書いたC#のコードに対応してゲームの中のキャラクターが動くのがとても楽しい。ゼロから自分で記述するのではなく、講師が用意した教材の一部を変更するだけでゲームを動かせるようになっていたのでわかりやすかった。エラーが出たときに、エラーの原因を探すのが大変だったかな」と笑顔を見せていた。

こちらの生徒は普段からゲームが好きで、小学生のころからプログラミングを学んでいたという。もともとはScratchのようなブロック型のビジュアルプログラミングで遊んでいたのだが、より自由度の高いことに挑戦したいと思い、Unityを学び始めたとのことだ。

  • 作業中の生徒の様子。PC端末の操作も慣れたもの

    作業中の生徒の様子。PC端末の操作も慣れたもの

なぜ、ミクシィがプログラミング教育に携わるのか?

ミクシィは2019年度から渋谷区立の中学校におけるプログラミング教育の支援を開始した。2021年度には中学校の新学習指導要領にも対応した支援を提供している。

今回、渋谷教育学園渋谷中学高等で実施したカリキュラムは、区が取り組む「シブヤ『部活動改革』プロジェクト」の活動を通じて、同校の校長先生が同社の活動を知ったことに端を発する。私立の学校の部活動を支援するのは、同社にとって今回が初めての試みだ。学校とは2021年の秋ごろから打ち合わせを始めたとのこと。

全4回のカリキュラムで講師を務めたのは、ミクシィの開発本部CTO室の田那辺輝氏。

  • ミクシィ 開発本部CTO室 田那辺輝氏

    ミクシィ 開発本部CTO室 田那辺輝氏

「事前のアンケートの回答から、部員が作りたいものが明確になっていたのが印象的だった。カリキュラムは新卒社員研修のものを応用できたのだが、コンテンツは今回のために新しく用意したので準備が大変だった」と、今回の取り組みを振り返っていた。

同氏の当初の想定では、3分の1ほどの部員がすべてのカリキュラムを完遂できれば十分といったレベルだったという。しかし、第4回の講義を終えてみると、約8割ほどの生徒がカリキュラムを成し遂げ、さらに発展的な作業に挑戦していた。

もちろん、4回すべてのカリキュラムがうまくいったわけではない。回によって進捗に差が出るうえ、毎回出席できる部員も限られるため、各段階のデータを個別に用意するなど、途中から参加した人でも一緒に学習できるような工夫を施したという。

「当社は渋谷を拠点にエンターテインメントを提供する企業であり、フットワークの軽さも特徴だと思う。コンピュータを使って作ったデジタルコンテンツが、身の回りの楽しい世界を作っているんだということを知ってもらえる機会になれば、当社としてもうれしい」と、田那辺氏は笑顔で語っていた。

  • 教壇に立つ田那辺氏

    教壇に立つ田那辺氏

「調べながら成長できる子になってほしい」顧問の思い

同校のコンピュータ部は10数年前に、コンピュータ科学に詳しい有志の生徒が集まって同好会として発足した。当時は、プログラミングが得意な生徒や自作PCの構築が得意な生徒など、さまざまな生徒が所属していたという。のちに同好会が部に昇格してからも、専門性の高い知識や技術は先輩から後輩へ連綿と受け継がれてきた。

現在でも、情報オリンピックやパソコン甲子園などで好成績を収める部員が在籍しているし、後輩へ知識を継承する文化も受け継がれているという。しかし近年は、部活動への参加が自由であるために、技術に詳しい生徒が来ていない日に部活動へ参加したことで、質問のタイミングを失ってしまい手を止めてしまう生徒が増えてきたようだ。

一方で、興味を持って自ら学習を続けられる生徒はさらなる知識を自身で身に付けるため、専門性の高い生徒と、そうでない生徒の二極化が進んでいたという。

「部員が互いに教え合う雰囲気をもう一度作りたかった。そのためには基礎知識が必要になるので、ゲーム作りを通じて部として共通の課題に取り組める今回の機会はうってつけだった」と話したのは、コンピュータ部の顧問を務める野口浩一先生だ。

実際、ミクシィのカリキュラムを学習する中で隣の席の生徒に教わっている場面は目立っていた。また、部員に話を聞くと、普段の部活動よりも参加人数は多かったようだ。

  • 同じ画面を見ながら相談する部員たち

    同じ画面を見ながら相談する部員たち

部活動としての当面の目標は、9月の第2週に予定されている学習発表会「飛龍祭」でのゲーム展示。コロナ禍を経て、約3年ぶりに校外へ自分たちの作品を披露する機会となる。これまでの飛龍祭でもコンピュータ部は自作ゲームを展示していたが、過去の先輩が作成した作品を何度か再利用していたという。

「この部はもともとゲームやコンピュータが好きな子たちが集まっている部です。今回のカリキュラムを通して、ぜひ簡単でも良いので自分でゲームを作ってみてほしい。わからないからと手を止めるのではなく、難しい部分は調べながらでも成長できる子になってほしいですね」と、野口先生は期待を語っていた。

8月には部の合宿も予定されているそうだ。2泊3日でプログラミングなど好きな技術に熱中できるめったにない機会となる。ぜひ、今回のカリキュラムで多くの生徒が経験したであろう「互いに教え合う雰囲気」を合宿ではさらに醸成してほしい。9月の飛龍祭に展示されるコンピュータ部の作品が楽しみだ。