AIの発展などもあり産業分野でのカメラの活用範囲が近年、急速に拡大している。こうした市場の変化を敏感にとらえたリンクスは、2023年2月に海外2社の産業用カメラメーカーと代理店契約を締結した。この取り組みにはどういった狙いがあるのか? 同社の代表取締役である村上慶氏に話を聞いた。
元々リンクスは産業用カメラでトップクラスのシェアを有する独Baslerと代理店契約を結んでおり、半導体検査や自動光学検査、電子部品検査などの自動化に向けて提供してきた経緯がある。そうした中、2023年に入って、中国最大級の産業用カメラメーカー「HuaRay Technology」との間に、同社が提供している「iRAYPLE」ブランドの産業用カメラ、産業用コードリーダ、AGVソリューション製品に関する代理店契約を締結したほか、大手計測器メーカーの米Teledyne Technologies傘下の産業用カメラブランドである、Teledyne DALSA、Teledyne PhotometricsおよびFLIR Integrated Imaging Solutionの産業用カメラ製品の代理店契約も締結した。
独自技術による高性能カメラの取り扱い開始で市場カバー範囲を拡大
取り扱う産業用カメラメーカーの数を一気に増やした背景を村上氏は「産業機器向けカメラで用いられるCMOSイメージセンサがソニーセミコンダクタソリューションズやonsemiといった大手のものが大半となり、メーカー間の差別化が難しくなってきた。そのため標準カメラ市場は2025年にはコスト競争力で有利な中国勢が先行する日米欧メーカーを猛追し、市場獲得競争が激しくなることが予想される」と近い将来、市場が大きく変化することが予想されることを強調。そうした中でも自社で独自にCMOSイメージセンサを製造しているTeledyneグループはX線やガンマ線、マイクロ波、ラジオ波など全波長領域の撮像を可能とする技術力を有しているほか、宇宙用の超大型イメージセンサや超高感度、超高速、超低ノイズといった宇宙や深海、遺伝子解析といった特殊用途で利用可能なCMOSイメージセンサを手掛け、そうした分野では他社の追随を許さない強さを発揮していることから、2025年以降もそうした特殊カメラ市場を中心に存在感を発揮するであろうという判断から代理店契約を結ぶに至ったとする。
また村上氏は、「Teledyneとのパートナーシップにより、今までリンクスはラインセンサや工業用エリアカメラをメインとしていたが、そのほかの分野、例えばサイエンティフィックカメラや低ノイズカメラ、工業用赤外線カメラなども取り扱えるようになる。それにより、提供できる産業分野もライフサイエンスにおける細胞組織の観察であったり、微細なプロセスで半導体素子が製造されたウェハを観察したりといった新たな分野に進出することができるようになる。ものづくりに携わる企業の多くが見えないものが見えるようになる分野には資金を投入していく傾向がある。我々のこのパートナーシップは、そうした装置を実現することの手助けとなり、装置メーカーの付加価値を高めることにもつながる」と、Teledyneのカメラ製品ラインアップがもたらす価値を説明する。
海外戦略が実を結んだ新たな産業用カメラメーカーとの提携
一方のiRAYPLEブランドで産業用カメラを手掛けるHuaRayは、マシンビジョンのトップメーカークラスの年間65万台規模の産業用カメラ出荷実績を有する中国の大手企業。その親会社であるDahua Technologyが手掛ける監視カメラは年間5000万台出荷されており、Dahuaから産業用カメラ事業を切り出したのがHuaRayと言える。
産業用カメラ市場は2020年代に入ると、低コストを武器に中国メーカーが台頭。韓国をはじめとして、東南アジアなどで一気に導入が進んだ結果、日本でもそうした状況を受け入れる下地が出来上がりつつあるという。
「マシンビジョンの市場は年間50万台。そこに年間5000万台を手掛ける監視カメラメーカーが参入してくるという時代に危惧を抱いた。彼らが本格的に市場に入ってくれば、それまでのリンクスでは価格を重視する顧客に対する提案が難しくなると判断し、同社との提携に至った。提携の話を進める中で分かったのは、かなり自動化が進んだ東京ドーム7-8個分の広さを持つ工場で、検査データも最低2年間は保管するなど、高い品質も備えた産業用カメラが製造されているということ。Teledyne、iRAYPLE、Baslerとそろえることで、産業用カメラの幅広い領域からのニーズに対応できるようになった」と、HuaRayと提携に至った背景と、Teledyne含め、3社の代理店となったことのメリットを説明する。
また、「ここまでパートナーの数を一気に増やせた背景には、売り上げが伸び、グループ全体で200名を超す事業規模にまで育ってきたことがある。また、オフィスも日本のみならず、台湾、タイ、マレーシア、シンガポールとアジア各国に広がっている。グローバルに対してアピールできるようになったことで、TeledyneやHuaRayといった海外メーカーとも企業同士での付き合いができるようになった。数年前から積極的に海外展開を図ってきたが、今回の提携は、そうした取り組みの成果が結実した結果だ」と、これまで積み重ねてきたリンクスとしての事業成長があってこその今回の業務提携であるとし、「今年の前半はドラスティックな動きとなったが、これからのビジネスの種はできた。これからはこれを実らせていくという段階に入ってくる」と、この提携が、同社を次のステップに引き上げる一歩となるとする。
日本のものづくりの在り方を根本的に変える可能性がある工場内物流革命
さらにHuaRayは産業用カメラのみならず、AGV(Automated Guided Vehicle)/AMR(Autonomous Mobile Robot)を手掛けていることから、今回の代理店契約ではこちらの販売も可能となった。
「工場内物流は、オートメーションの唯一残された未開拓地、“最後のフロンティア”と言える。特に人と協働することを念頭としているAMRはイノベーションを生み出すという点では大きな可能性を持つ」と、AMRが日本のものづくりに対する姿勢そのものを変える可能性を強調する。ものづくり産業は、これまでの少品種大量生産から、個々の趣味嗜好の多様化に伴う少量多品種生産へとシフトしつつある。そのためのさまざまな製造現場の工夫がこれまでも行われてきたが、生産工程の柔軟さが、そうしたニーズの実現には求められることとなる。
製造ラインを設置しないアドレスフリー・ロケーションフリーの工場というアイデアが提唱されているが、日本ではまだまだ浸透しきっているとは言えない。村上氏は、「リンクスとしては、多様な少量多品種のオーダーに応えられる柔軟な工場を実現していくためにAMRが重要な役割を果たすと思っており、その実現のために工場の思想そのものを、上位階層から作りこんでいく必要性を訴えている。例えば、Dahuaの工場を見せてもらったが、ITとOTがうまく組み合わされてシステムが構築されていた。オーダーがERPに入ってくると、その中からSCP(サプライチェーンプラットフォーム)を介して、どの工場でそれを作るのかを決定し、WMS(在庫管理システム)やAPS(スケジュール管理システム)が情報のやり取りを行う形で相談し、MESがどの工場のどのラインで作るという指令をOT側に流していくといった仕組みであった。生産ラインも、それぞれのラインごとにプロセスを柔軟にコントロール可能で、その実現のためにITの力を最大限に引き出す取り組みをしていた」とするほか、「人がものを運ぶという作業は価値を生まないという定義づけを最初からする必要がある。ものはAMRが運ぶ。人は人がやるからこそ価値を生む作業に集中させるべきである」と高い付加価値を生み出す部分に労働力を集中させる必要性があることを指摘する。
とはいえ、日本の工場の多くは建てられてから時間が経つものも多く、そうした既設の改修をする必要がある場合が多々でてくるのが実情である。そうした課題に対し村上氏は、「既設の工場の場合、AMRを走らせて良いゾーンを作らなくてはとか、効率がどれくらい高まるのかとか、そういったことを言う人も居るが、すでに名の通った企業もこうした動きへの対応を進めている。工場の思想は、なにも新設する際にフルスクラッチで実装するだけではないということを、我々の活動を通して、日本でそこをどう変えていくかが1つのポイントになると思っている」と、既設であってもAMRの活用に向けた取り組みが各所で加速していると説明。「リンクスのAMRへの取り組みはこれまでソフトウェアだけであり、誰かがハードウェアを構築する必要があった。今回の提携でiRAYPLEのカメラを扱えるようになったので、ハードを作る力がない企業などにiRAYPLEを使ってもらったり、カスタマイズニーズにも対応しやすくなる」と、自社の事業範囲も拡大を続けていくとするほか、そうした取り組みを通じて、「工場から人を消すことを目指した支援を進めていくことで、あらゆる産業界の人手不足を解決する一助になりたい。今年前半の取り組みを通して、その実現に向けた姿が見えてきた」と、これからの自社の発展の方向性がすでに見えていることを語っていた。