鹿児島大学、神戸大学、国立天文台(NAOJ)の3者は11月14日、独自の理論モデルを用いて、天の川銀河における主要な元素の循環過程を調査した結果、太陽系が約46億年前に現在の位置よりも1万光年ほど銀河中心に近い領域で誕生し、長い年月をかけて現在の位置まで移動しながら進化してきたことが示唆されたと共同で発表した。

また、天の川銀河全体における惑星材料物質の分布の予測にも成功し、同銀河の内側では大型の惑星が形成されやすい一方で、外側では水を豊富に含む小さな岩石惑星が多数できる可能性が示唆されたことも併せて発表された。

  • 今回の研究の概念図

    今回の研究の概念図。太陽系は現在、天の川銀河の中心から約2万7000光年(2万5000光年前後、2万6000光年弱など、複数の説があるが今回のリリースではこの値が採用されている)の位置にあるが、誕生時には1万光年ほど銀河中心に近かった可能性が高いという。(c)NAOJ(出所:神戸大Webサイト)

同成果は、鹿児島大 天の川銀河研究センターの馬場淳一特任准教授、神戸大大学院 理学研究科の斎藤貴之准教授、NAOJ 科学研究部の辻本拓司助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する天文学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載された。

軽い元素である水素やヘリウム、リチウムなど以外の元素は、恒星内の核融合や超新星爆発、中性子星同士の合体などで合成されてきた。これらの元素は星が生まれ変わるごとに増加していくことから、こうした銀河内での元素の循環は「銀河化学進化」と呼ばれる。

諸説あるが、太陽系は天の川銀河の中心からおよそ2万4000光年~2万7000光年離れた“郊外”を、ほぼ円運動で公転しているとされるが、誕生時から現在の位置だったのかというと、そうではないという。太陽系の重元素(天文学ではリチウム以降の元素を重元素または金属と呼ぶ)の量が、約46億年前に現在の位置で誕生したにしては多いことが理由だ。元素の量は銀河の内側に行くほど多くなることから、近年、太陽系はもっと銀河中心に近い領域で誕生し、その後、今の領域にまで移動してきたのではないかと考えられている。

そこで研究チームは今回、天の川銀河の化学進化の理論モデルを作り、太陽系が生まれた領域の解明を目指したという。そして同時に、天の川銀河のさまざまな場所で、どのような惑星系が誕生する可能性があるのかも予測したとする。

酸素、マグネシウム、ケイ素の一部は、太陽よりも10倍以上の大質量星の内部で合成された後、一生の最期の重力崩壊型超新星爆発(II型超新星爆発)を通じて宇宙空間にばらまかれる。また炭素の大部分は、太陽よりもやや重い星が「漸近巨星分枝星」(AGB星)の段階に進化した際に生じる恒星風によって、宇宙空間に供給される。さらに、ケイ素の一部や大部分の鉄は、太陽と同程度の質量の星の末期に残る白色矮星が、伴星からのガスの降着や、白色矮星同士の合体を経て生じるIa型超新星爆発により、宇宙空間に放出されると考えられている。つまり、銀河内の重元素の供給過程は、どれだけの質量の星が、どの数だけ、そしてどれだけのペースで誕生したかで変わってくることになる。

星形成の歴史によって、宇宙空間に存在する元素の組成が異なることから、同じ銀河内でも領域によって元素の種類と量に差異が生じる。特に、天の川銀河の中心部では重い元素が多く、活発な星形成が行われていることが示唆されている。そこで今回の研究では、このような異なる星の進化プロセス(II型超新星、Ia型超新星、AGB星)を考慮した銀河化学進化モデルを構築し、約46億年前における太陽系の重元素組成に到達可能な領域を探査したという。

その結果、46億年までに太陽系の重元素組成に達するのは、銀河系中心から約1万6千光年の領域と判明。つまり、太陽系は現在よりも約1万光年ほど内側で形成された可能性が示唆されたとしている。

  • (左)今回の天の川銀河の化学進化の理論モデル。(右)銀河系中心からのさまざまな距離における重元素(鉄と水素の割合)の時間変化の様子

    (左)今回の天の川銀河の化学進化の理論モデル。(右)銀河系中心からのさまざまな距離における重元素(鉄と水素の割合)の時間変化の様子。天の川銀河は内側ほど早い時期に星形成活動が活発になり、重元素量が早い段階で増加した。重元素量の変化の様子を各距離ごとに計算して、太陽系が誕生した46億年前に太陽系の重元素量に到達する距離は、銀河系中心から1.3万光年~2万光年の間であることが見出された。現在、太陽系は中心から約2.7万光年の距離に存在するため、太陽系は誕生から46億年の間に約1万光年ほど外側に移動してきたと予測される(出所:神戸大Webサイト)

天の川銀河の内側領域は星形成活動が活発で、超新星爆発も頻発し、巨大なガス雲も多く存在する。もし太陽系が現在よりも中心の近くで生まれて留まり続けていた場合は、今よりも頻繁に巨大ガス雲と遭遇したり、近隣の超新星爆発からの強力な宇宙線にさらされ、生命の誕生や進化に影響があった可能性があるとのことで、このような危険領域から脱出したことで、地球の生命は安全な環境で生存できるようになったことも考えられるという。

さらに、天の川銀河の化学進化から、同銀河内で形成される惑星系の多様性の予測も得られたとしており、銀河系の内側ほど惑星の材料物質が豊富なことから、鉄コアの大きな岩石惑星が形成される可能性がある一方、外側では水の豊富な惑星系が誕生する可能性があるとする。もし太陽系がまったく異なる場所で誕生していた場合、含まれる重元素の組成もまったく異なることが予想され、それに応じて惑星系の形成や生命の発生も異なっていたかもしれないとのことだ。

  • 今回の天の川銀河の化学進化の理論モデルに基づく、惑星材料物質の空間分布の時間変化の様子

    今回の天の川銀河の化学進化の理論モデルに基づく、惑星材料物質の空間分布の時間変化の様子。(左)銀河系の内側ほど惑星材料物質の総量が多く、巨大ガス惑星を持つ惑星系が誕生しやすい可能性がある。(中)同じく内側ほど鉄の相対含有量が高く、大きな鉄コアを持つ岩石惑星が誕生しやすい可能性がある。(右)外側ほど鉄に対する酸素の相対含有量が高く、水を豊富に含む惑星が形成されやすい可能性があるという(出所:神戸大Webサイト)

研究チームでは、太陽系の大移動には、天の川銀河の渦状腕構造や棒状構造の性質が密接に関わっていると考えているとする。そして今後、天の川銀河の詳しい構造や成り立ちが解明されることで、太陽系の大移動についての手がかりや疑問に対する答えが得られることが期待されるとしている。