名古屋大学(名大)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東京大学(東大)、大阪大学(阪大)の4者は10月31日、これまで「宇宙嵐(スペースストーム)」は、主に太陽風起源のプラズマによるものと考えられてきたが、その定説を覆し、地球起源のプラズマの方が主要因であることを発見したと共同で発表した。
同成果は、名大 宇宙地球環境研究所のリン・キスラー教授(米・ニューハンプシャー大学教授兼任)、同・三好由純教授、同・堀智昭特任准教授、JAXA 宇宙科学研究所の浅村和史准教授、同・篠原育教授、東大大学院 理学系研究科の笠原慧准教授、同・桂華邦裕助教、阪大大学院 理学研究科の横田勝一郎准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
地球磁場の勢力圏内である磁気圏を含む地球周囲の宇宙空間は「ジオスペース」と呼ばれ、そこにはプラズマ(荷電粒子)が存在している。そのプラズマの起源の1つは太陽からやって来る太陽風だ。太陽風には、主に水素イオン(H+)と電子、そしてわずかながら2価の電荷を持つヘリウムイオンであるアルファ粒子(α粒子)が含まれている。これらのプラズマは、「プラズマシート」と呼ばれる地球の夜側の領域に侵入した後、「内部磁気圏」と呼ばれる地球近傍まで運ばれてくる。一方、地球の超高層大気の電離圏(磁気圏より下に位置する)にもプラズマが存在しており、H+や酸素イオン(O2-)が宇宙空間へと流出していることがわかっている。
フレアなどの太陽の爆発に伴って、太陽風の密度や速さ、また磁場の強さは大きく変動する。太陽風が特に激しくなるとジオスペースは宇宙嵐の状態となり、荷電粒子の増加に伴って激しいオーロラ活動が極域の外側でも観測されたり、また超高層を強い電流が流れたりする。特に強い宇宙嵐の場合は、人工衛星の故障、地上での停電など日常生活にも大きな影響が及ぶ。そのため、宇宙嵐を含めた宇宙天気の研究は現代社会にとって重要な課題となっている。
これまで宇宙嵐の発達には、太陽風に含まれるH+が、内部磁気圏で大きく増えることで発生すると考えられてきた。一方、地球起源のプラズマに含まれるH+との分別ができないため、地球起源のプラズマが宇宙嵐に及ぼす影響は不明だったという。そこで研究チームは今回、2017年9月7~10日に発生した宇宙嵐について、JAXAのジオスペース探査衛星「あらせ」、NASAの科学衛星「MMS」、太陽風観測衛星「Wind」、ESA(欧州宇宙機関)の科学衛星「Cluster」の4衛星を組み合わせて解析をすることにしたという。
今回の研究では、太陽起源と地球起源のイオンを区別するため、太陽風の中にのみ含まれているα粒子が注目された。太陽風とジオスペースの中で、H+とα粒子の割合を計測することで、H+を区別した議論が可能となるからである。そのため、太陽風中はWind、高度4万~8万km付近はMMS、高度4万km以下はあらせにより、H+、O2-、α粒子の比較が行われた。ここでは特に、宇宙嵐の発達にとって重要となる高度4万km以下の内部磁気圏領域でのあらせの観測が要となったという。
宇宙嵐の発達、あらせにより内部磁気圏でのH+・O2-・α粒子の密度、Wind・MMS・あらせが観測したH+とα粒子の割合がグラフ化され比較された。あらせによるH+とα粒子の割合がWindのものに近ければ、あらせが観測したH+は太陽風起源、逆に大きく異なる場合は地球起源といえるという。そして、今回の観測期間の初日である9月7日の20時までは、あらせが観測していたH+は太陽風起源だったとした。
しかし21時以降、宇宙嵐の発達と共に、Windとあらせが観測した割合が大きくずれはじめ、あらせが観測したH+は地球起源であることが判明。宇宙嵐を起こしているプラズマは、これまで考えられてきた太陽風起源ではなく、地球起源のH+が主成分だったのである。
さらに宇宙嵐が進んでいくと、地球起源のO2-の量が増え始めてH+の量を上回って主成分となり、宇宙嵐の発達に主に寄与していることも明らかにされた。
これまで太陽風の影響に対し、地球は主に受動的に応答すると考えられてきたとする。しかし今回の結果は、地球起源のイオンが宇宙嵐発達の主要因を担っていることを示すものであり、従来の太陽地球系結合過程の概念に変革を迫る新たな知見とした。
また宇宙嵐の予測は宇宙天気研究の中でも最重要課題だが、これまでは太陽風の影響を予測することが重要視されてきた。今回の結果は、宇宙嵐の発達過程の理解には地球起源のイオンの影響も評価することが必要であることを示すものであり、宇宙嵐の予測研究においても太陽風だけではなく、地球大気の影響を組み込む必要があることを示唆するものとした。