いまから171年前の1852年、イタリアの天文学者アンニーバレ・デ・ガスパリスは、とある大きな小惑星を発見した。彼はこの小惑星に、ギリシア神話に登場する女神にちなみ、「プシューケー(プシュケとも)」と名付けた。

その後の観測と研究で、このプシューケーは金属でできている、あるいは金属を比較的多く含む珍しい小惑星だということがわかり、地球のような惑星の中心部にある「核」が露出した状態で残っている天体だと考えられている。

そんなプシューケーに向けて、米国航空宇宙局(NASA)は2023年10月13日、探査機「サイキ(Psyche)」を打ち上げた。順調に行けば、2029年にはプシューケーに到着し、私たち人類は初めて“金属の世界”を目の当たりにすることになる。

  • 小惑星プシューケーを探査する「サイキ」の想像図

    小惑星プシューケーを探査する「サイキ」の想像図 (C) NASA/JPL-Caltech/ASU

小惑星「プシューケー」とは?

プシューケーは火星と木星の間の小惑星帯(メインベルト)にある小惑星で、太陽から約3億7800万kmから4億9700万kmの距離で周回している。これは2.5~3.3天文単位(AU)に相当し、地球と太陽の間の距離(1AU)の倍以上となる。プシューケーが太陽を一周するには地球の時間で約5年かかり、自転は4時間強とされる。

プシューケーは1852年にイタリアの天文学者アンニーバレ・デ・ガスパリスによって発見された。小惑星番号は16で、これは史上16番目に発見された小惑星を意味する。プシューケーという名前も彼がつけたもので、ギリシア神話に登場する、人間として生まれ、愛の神エロースと結婚した女神にちなんでいる。

その後の観測と研究により、プシューケーはじゃがいものような形をしており、赤道部分の幅は約280km、長さは232kmもあることがわかった。小惑星と呼ばれる天体は、数百mから大きいものでも数十km程度のものが大半で、300km近い大きさをもつものは稀である。また、近年の高性能な光学望遠鏡やレーダーによる観測からは、表面に2つのクレーター(くぼみ)がある可能性も示唆されている。

そしてプシューケーの最大の特徴が、その大部分が鉄やニッケルなどの金属で構成されているかもしれないということである。より最近の研究では、金属だけでなくケイ酸塩(ガラスや砂に含まれるのと同じ物質)岩石との混合物であり、金属は体積の30%から60%を占めていると考えられている。このような金属を多く含む小惑星――「M型小惑星」と呼ばれる――はほかにもいくつか見つかってはいるが、その中ではプシューケーが最大である。

プシューケーのような天体が存在する理由として、最も受け入れられている理論は、太陽系が誕生した際に形成された、惑星のもとになった「原始惑星」の核(コア)がむき出しになった状態で生き残っているのでは? というものである。

太陽系はいまから約46億年前に誕生し、長い年月をかけていまの姿へ形づくられていった。そのなかで、私たちが住む地球などの惑星は、もとは小さな塵から始まり、それらが徐々に集まっていき、大きな天体へ形成されていったと考えられているが、その過程で天体内部の熱によってドロドロに溶け、金属、とくに鉄やニッケルなどの重い元素は内部に沈み込んでいき、地球にもあるような核となった。

プシューケーもそのまま何事もなく進化していけば、表面が岩石で覆われた天体になったかもしれないが、その後ほかの天体が衝突するなどした結果、外側の岩石の多くが剥ぎ取られ、金属の核が露出したというシナリオである。

もしそうなら、直接探査ができない地球の核に代わって、プシューケーが地球のような惑星の核がどのようにしてできたのかを教えてくれるかもしれない。

もっとも、この説では説明がつかないこともある。そのため、たとえばプシューケーはもともといまより太陽に近いところで形成され、その熱によって外側の岩石が剥がれ、その後現在の場所へと移動したという説や、鉄が地上へ噴出する“鉄の火山活動”によって、鉄が地表に露出したという説もある。

また、地球や火星、金星の岩石には酸化鉄が多く含まれているが、プシューケーの表面ではそれほど多くは確認されていない。このことは、プシューケーの歴史が惑星形成に関する標準的なモデルとは異なることを示唆している。もし、プシューケーが原始惑星の核が露出した姿であることが証明されれば、その歴史が、他の岩石惑星の歴史とどのように似ているか、あるいはどのように異なっているかを知ることになるだろう。

さらに、核が露出しているわけではなく、他の多くの小惑星と同じように形成され、しかし形成後の姿はなぜか大きく異なるものになったという可能性も残されている。その場合、現在の小惑星の進化モデルでは説明がつかないため、これまでに見たことのない種類の原始太陽系天体であることが判明するかもしれない。

M型小惑星はまた、貴金属やレアアースなどの重元素も大量に含まれている可能性があることから、将来的に宇宙の鉱山として資源の採掘ができるかもしれないという期待も集まっている。

  • 小惑星プシューケーの想像図

    小惑星プシューケーの想像図 (C) NASA/JPL-Caltech/ASU