近年の地政学的な激変に伴い、世界中の国々が自国の半導体サプライチェーンの育成・強化を進めることで、半導体供給の安定性強化を図りつつある。
そうした状況を踏まえ、台湾の半導体市場動向調査会社であるTrendForceは、日本も失われた40年間とも言われる半導体産業の復権を目指し、業界再編の機会に向けて動きを進めていると指摘している。
それによると、日本の地理的特徴に基づいて考えると、九州、東北、北海道という3つ半導体ハブが構築される可能性があるという。
シリコンアイランド「九州」
昔からシリコンアイランドと称される九州地方は、TSMCの進出(JASM)に伴い、一気に注目度が上がることとなった。これまでもソニーがCMOSイメージセンサの生産を行うなど、多数の半導体ファブの設置・稼働がなされてきたが、建設が進む12~28nmプロセスを採用するJASMの工場が稼働すれば、一気に日本で生産可能な半導体プロセスノードが先端に近づくことになる。TSMC側も将来的にはさらなる微細プロセスに対応する意思も示している。
また、JASMの工場はソニーの既存CMOSイメージセンサ工場の隣接地という戦略的な立地であり、JASMへのソニーの出資や人材の派遣を考慮すれば、前工程・後工程ともに両社の協力関係が強化されるという相乗効果も期待される。
半導体材料産業の重要地域「東北」
日本が半導体の原材料生産の世界的なハブであると考える場合、東北地方こそがその中心に位置すると考えられる。宮城県や福島県にSUMCOや同じく大手シリコンウェハサプライヤの信越半導体が拠点を構えているほか、東北大学の半導体材料研究における高い研究力と豊富な人材が存在感を示している。
10月31日には、台PSMCとSBIホールディングスが仙台に300mmウェハ工場の建設計画を発表。当初は40nmプロセスに焦点を当てているが、ロードマップには先端プロセスも含まれている。車載半導体が生産の優先分野となっており、東北の半導体産業の重要性がさらに高まることになる。
新たな集積地として期待される「北海道」
2nmプロセス以降の量産確立を目指す日本のRapidusが北海道を本拠地として選ぶことで、これまで大規模な300mmウェハに対応する半導体工場がなかった同地を、日本における3番目の半導体ハブに押し上げようとしている。政府の思惑を踏まえれば、Rapidusは上流の製造装置や材料サプライヤを北海道に引き寄せる磁石のような役割を担い、当該地域での半導体コミュニティの形成を推進する可能性がある。空港に近いことも、人材とリソースのシームレスな流れを加速させる役割が期待される。すでに工場は建設を開始しており、2024年末の完成ならびに2027年の量産開始が予定されている。また、研究開発の多くはIBMと協業して進められており、先進的な半導体製造の先頭に立つという日本の野心を具現化しようとしている。
なお、TrendForceでは、経済産業省(経産省)が民間企業の多方面にわたる協力を後押しする取り組みが日本の半導体産業の復活につながる可能性を指摘しているほか、工場建設や投資支援を有利にする為替政策を背景に輸出が促進されることで将来の見通しが明るいことを指摘している。また、日本における半導体人材の不足が懸念されることを踏まえた人材育成に向けた補助金制度を中心とした取り組みも進めている点などにも触れ、日本が半導体業界でかつての栄光を取り戻す戦略的な取り組みを進めているとしている。