東北大学は11月7日、ブロッコリーの種を発芽させた「ブロッコリースプラウト」に豊富に含まれ、活性酸素を除去する抗酸化作用や糖尿病予防効果があることで知られる食品成分「スルフォラファン」(SFN)が、必須微量元素のセレンを含むタンパク質「セレノプロテインP」(SeP)の生成を抑制することを、培養肝細胞およびマウス投与モデルで明らかにしたと発表した。
同成果は、東北大大学院 薬学研究科の叶心瑩氏、同・外山喬士講師、同・斎藤芳郎教授らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の生物学を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Biology」に掲載された。
セレンは、反応性が高いことから毒性も高いことで知られるものの、生体に必須な微量元素の1つだ。人体などの生体内ではタンパク質に含まれており、それらの中には、還元・無毒化することで活性酸素から生体を守る抗酸化作用を示すものがあることが知られている。
そうしたセレンを含むタンパク質の1つがSePで、主に肝臓で合成されて血液中に分泌され、各臓器にセレンを運ぶ役割を担っている。しかし糖尿病患者では、肝臓でのSeP産生が増加し、過剰となったSePがインスリンの効果を弱めること(インスリン抵抗性)や、インスリンの分泌を抑制し糖尿病の病態を悪化させることがわかっていた。そのため、この糖尿病の病態を増悪させる“悪玉”であるSePの産生量を抑え一定量に保つことが、健康を維持するのに重要と考えられている。そこで研究チームは今回、培養肝細胞「HepG2」を用いた検討から、SePの産生量を低下させる作用を持つ食品成分を探索したという。
SFNは、アブラナ科の植物、中でもブロッコリースプラウトに多く含まれる成分で、活性酸素を除去する抗酸化作用や、糖尿病予防効果が知られている。研究チームによると今回の研究では、そのSFNが肝細胞のリソソームにおけるSePの分解を促進して、SePの生成を抑制する作用があることが明らかにされたとのこと。HepG2を用いた実験により、SFNはSePの生成を30%ほど有意に減少させたという。さらに同じ効果が、SFN(10mg/kgを12時間ごとに4回腹腔内投与)を投与したマウスでも認められたとしている。
SFNは、抗酸化酵素の発現を制御する転写因子「Nrf2」の活性化剤としてよく知られており、現在ではサプリメントも開発されているほどだ。しかし今回の研究から、SFNによるSePの発現抑制作用は、そのNrf2の活性化とは独立していることも見出されたという。つまりSFNは、Nrf2の活性化を介した健康増進作用だけでなく、別の機構によって糖尿病抑制に寄与している可能性も考えられるとした。
SePは生命維持に必須ではあるが、過剰になると糖尿病を悪化させる悪玉となってしまう二面性を持つ。そして、これまではその発現量を低下させる機構についてはほとんど知られていなかったが、今回の研究によって、SFNが肝臓でのSeP分解を高めることで、その発現を抑制する機構が判明した。これにより研究チームは、食品機能成分を活用した糖尿病の予防法開発への貢献が期待されるとする。
また同時に今回の研究では、SFNがNrf2の活性化作用とは独立した作用も有することが解明されたことから、複合的なメカニズムによって健康増進作用が示されていることが考えられるとしたうえで、今回の成果を受けたSFNの生理機能に基づく新たな糖尿病治療薬・予防戦略が期待されるとしている。