東海大学と東京工業大学(東工大)の両者は10月25日、健常者を対象に風景、人物、動物などの画像を見せた時の脳波反応を計測した結果、抑うつの症状が重いほど画像提示に対する脳波反応の振幅が小さいことを発見したと共同で発表した。
同成果は、東海大 情報通信学部 情報通信学科の中谷裕教講師、東工大 工学院 機械系の八木透教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
うつ病は誰でも患う可能性のある一般的な病気だが、自殺につながる危険性もある深刻な病だ。早期発見と治療のためには、まず健常者の抑うつの症状を定量的に評価する手法が求められるが、これまでそのような評価方法は開発されていなかったという。
うつ病は脳に起因する病であり、認知機能にも影響を及ぼすことから、研究チームは今回、健常者であっても認知処理に関わる脳活動に抑うつの症状が反映される可能性を考察し、脳波計測実験による検証を行うことにしたという。
今回の研究では、日常生活を送る43人の健常者が被験者とされた。まず、それぞれの被験者の抑うつの症状を評価するため、自己記入式のアンケート「日本版BDI-IIベック抑うつ質問票」が用いられ、被験者全員が回答。なお同質問票は、21個のアンケート項目から構成されており、それぞれの項目を4択の選択肢で回答することで、最近2週間の症状を0点から63点のスコアで評価するというものだ。スコア(0~63点)が高いほど抑うつの症状が重いことを意味し、今回の被験者のスコアは20点以下で、症状の重い人はいなかったという。
次に、認知処理に関わる脳活動を評価するため、感情や注意の研究を行うために米・フロリダ大学で開発された画像集「The International Affective Picture System」から取得された風景・人物・動物など、さまざまな画像を提示した時の脳波反応の計測が行われた。
抑うつの症状と脳波反応の関係を評価するため、被験者を抑うつ質問票のスコアに基づき、症状が「低」「中」「高」の3グループに分けられた。画像提示に対する頭頂葉の脳波反応は、抑うつ症状によって異なった。たとえば、画像を提示してから200ms後に脳波反応の振幅に正のピークが現れるが、抑うつ症状が高いとその脳波反応の振幅は小さくなる傾向があったという。
また、画像が提示されてから300ms以降にも脳波反応の振幅に正のピークが存在し(この成分は「後期陽性電位」と呼ばれる)、抑うつ症状が高いと後期陽性電位の反応が遅くなる傾向があったとした。これらの結果から、健常者の抑うつの症状が画像提示に対する脳波反応に現れていることが示唆されたという。
なお今回の研究では、抑うつの症状に基づいて被験者を3グループに分け、グループ間での脳波反応の違いが評価されたが、抑うつの症状を評価するためには、被験者ごとに脳波反応から抑うつのスコアを推定する必要があるとする。研究チームは、このような推定手法を確立し、今後、抑うつの評価や診断につなげることが研究目標となるとしている。