2023年9月、パルコが、esportsチーム「SCARZ(スカーズ)」の運営を行うXENOZ(ゼノス)と共に、新たなesportsエンタテインメントイベント「Hype Up(ハイプアップ)」を発足することが発表された。商業施設の運営を主事業とするパルコはこれを機に、ゲーム業界に本格参入するという。同社はesportsを柱にしたゲーム事業に、どのようなビジョンを描いているのか。パルコ 執行役員 エンタテインメント事業部担当でXENOZ 取締役会長の宇都宮誠樹氏とパルコ エンタテインメント事業部 コンテンツ事業担当 ゲームチーム 業務部長の西澤優一氏に伺った。
ゲームはすでに1つのカルチャーになりつつある
宇都宮氏はパルコについて、収益のメインは商業施設運営による不動産収入だとしながらも、そのコンセプトはエンタテインメントやカルチャーにあると示した。創業当初から同社では、PARCO劇場に代表される演劇、ライブハウス・CLUB QUATTROを筆頭にする音楽、映画館・CINE QUINTOや映画の配給・制作などの実績を持つ映画、渋谷PARCO内にあるGALLERY X BY PARCOを中心とするアートといった、エンタテインメント事業を積極的に行っている。これらのエンタテインメントを楽しむ顧客との接点を持って、「ビジネスをつくっていく」スタイルを続けてきたと宇都宮氏は説明する。
ではなぜ今、ゲーム事業なのか。宇都宮氏は、現在ゲーム人口が5000~7000万人近いと言われていることを挙げ、「ゲームが1つのカルチャーになりつつある」と続けた。
「このようなエンタテインメントカルチャーが好きな方は、ジャンルをクロスして興味を持つ人が多いと考えています。音楽とゲーム、映画とゲームの連動といったかたちですね。また、弊社で運営している体験型カフェやギャラリーにおいても、ゲームのIP(Intellectual Property:知的財産)をベースに二次創作した作品のイベントが成功しているという実績もありました。このような点からも、ゲームを1つのカルチャーとして真正面から捉え、取り組みを進めるべきだと決めたのです」(宇都宮氏)
もちろん、既存事業との相乗効果にも期待をしている。西澤氏は、esportsをきっかけにオンライン上でパルコと接点を持ち、同社の世界観に共感した人が、オフラインである商業施設に足を運んでくれる、あるいはその逆に、商業施設に愛着を持つ人が、パルコのゲーム事業に興味を持ってくれるという展開もあるのではないかと言う。
「弊社が持つネットワークの中で、双方向のコミュニケーションが生まれ、未来のお客さまの積み上げが狙えるという点を、ゲーム事業で担っていきたいと思います」(西澤氏)
esports分野での応援文化の醸成を狙う
今回、パルコがXENOZと共同で立ち上げたesportsエンタテインメントイベント・Hype Upは、その活動の第一弾として、2023年10月から、VALORANT Champions Tour 公式オフシーズンシリーズ「OFF//SEASON」のイベント「Hype Up Tour Japan」を開催している。VALORANTとは、米ライアットゲームズが開発・運営するシューティングゲームで、esportsチーム・SCARZが特に力を入れて取り組んでいるものだ。宇都宮氏はその特徴を「(他のゲームと比べ)若干尖っていて、オシャレ」だと語り、「これがパルコに合っていると、ゲームパブリッシャー側からも評価いただいた」と続けた。
今回、Hype Upが目指しているのは、esportsにおける応援文化の醸成である。野球やサッカーといったリアルなスポーツイベントではファンによる応援文化が成熟しているが、「esportsにおいては“騒いで良いんだ”というコモンセンスが少しずつ出来上がりつつある状態」だと宇都宮氏は言う。西澤氏も「esportsにおける応援文化はもっと伸びていく要素がある」と力を込める。
「熱狂や興奮、仲間とのつながりにフォーカスして、esportsの新しい観戦体験を打ち出していきたいという思いをHype Upに込めました」(西澤氏)
「ゲームと言えばパルコ」と言われる存在に
宇都宮氏によると、日本でもesports市場は世代を問わず、急速に拡大しており、今回のHype Up Tour Japanのチケットもほぼソールドアウトしていると明かす。
「目に見えて成長期に入っている業界は面白いですね。面白い人もたくさんいるので、そこでドラマが生まれるんです。ゲーム事業単体だけでなく、別のエンタメの制作のモチベーションとなる可能性も感じています」(宇都宮氏)
では、今後、パルコは自社のゲーム事業をどのような位置付けにしていきたいのか。その1つとして宇都宮氏が挙げたのが「10年後、会社の収益のポートフォリオとして重要なところにある状態」だ。そしてもう1つは「新しいゲームを発売する時にはパルコに相談をしようというプレゼンスが業界内でできている状態」だと言う。これらを目指していく上では、今までパルコが積み上げてきたエンタテインメント事業の知見が大いに役立つ。
「我々がこれまで取り組んできたパルコのエンタテインメント全体で“お客さまや業界との接地面”を広げる活動は、すでに多くのお取引先の方に評価・ご協力いただけています。今回の取り組みは、ゲーム業界に参入するというよりも、エンタテインメントカルチャーとの接点をしっかりと持っていくという意味で、エンタテインメントの面をゲームで補完したというイメージです。今後も競合他社ではできないような、エンタテインメントを面として展開する活動を続けていきたいと思います」(宇都宮氏)
西澤氏は「今回の事業を通じ、顧客に対しても、ゲームというコンテンツに対しても丁寧に向き合い続けることが大事だと感じた」という。
「コンテンツが持つ魅力を丁寧かつ積極的に、パルコならではの視点を持って発信していくことで、弊社がゲーム事業に取り組む意味合いが少しずつ理解されていくようになればと考えています。それはやがて、パルコ全体にも好影響を生み出していくものになるでしょう」(西澤氏)
同社では今後、テーブルトークRPGの作品「傀逅」をテーマにした展覧会を開催するなど、さまざまなかたちでゲームやesportsを盛り上げる取り組みを行っていくという。エンタテインメントカルチャーの発信地・パルコのゲーム事業の動向から目が離せない。