KDDI、KDDI総合研究所、京都大学(京大)の3者は10月18日、光を緻密に制御する「フォトニック結晶レーザー」(PCSEL)を用いた超高感度な「自由空間光通信方式」の実証に成功し、宇宙空間における低軌道(高度2000km以下)と静止軌道(高度約3万6000km)に相当する距離で衛星間通信が可能になったことを共同で発表した。

同成果は、KDDI、KDDI総合研究所、京大大学院 工学研究科の野田進教授、同・森田遼平特定研究員、同・井上卓也助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、スコットランド・グラスゴーで10月1~5日に開催された光通信分野の世界最大規模の国際学術会議「49th The European Conference on Optical Communication(ECOC 2023)」にて発表された。

  • 低軌道~静止軌道の衛星間における光通信のイメージ

    低軌道~静止軌道の衛星間における光通信のイメージ(出所:KDDI総合研究所Webサイト))

PCSELは、人工的な光ナノ構造を2次元状に配置したフォトニック結晶を有する半導体レーザーで、通常の半導体レーザーと比較して、大面積で単一モード発振するため、高出力で狭い拡がり角のビームが得られるのが特徴である。PCSELは、単一の半導体デバイスだけで光ファイバ増幅器などを用いた場合と同等以上の送信パワーを実現できることから、通信システムの大幅な小型化や低消費電力化が期待されている。

そして自由空間光通信とは、大気中や宇宙空間などの自由空間を伝搬する光を利用して、通信のためのデータを無線送信する光通信方式のことで、PCSELを用いた自由空間光通信は、小型・低消費電力などに優れており宇宙空間での利用が想定されている。

衛星間通信での自由空間光通信の活用においては、地上~静止軌道間の約3万6000kmを超える長距離をカバーする必要がある。これまでの実証では、「強度変調・直接検波方式」が用いられていたが、宇宙空間での利用を見据え受信感度がより高い通信方式を適用することで、通信距離を延伸する技術が求められていた。そこで研究チームは今回、PCSELを活用し出力光の強度が1億分の1に減衰しても通信可能な、新たな自由空間光通信方式を実証することにしたという。

通常、半導体レーザーに直接電流が注入されると、その電流に応じて半導体レーザーからの出力光の強度が変調される。また、この過程において、出力光の強度のみならず、周波数も同時に変調されることがわかっている。そこで今回は、その現象を積極的に活用し、送信側ではPCSELを従来の強度変調よりも効率的で大出力な「周波数変調器」として動作させ、さらに受信側ではPCSELの狭線幅性を活かした「コヒーレント受信方式」を取り入れることで、極めて弱い光信号でも受信できる、超高感度な自由空間光通信方式が考案された。

なお周波数変調とは、伝達したい情報に応じて、光の周波数を高くしたり低くしたりする変調方式のことである。またコヒーレント受信方式とは、受信側において、送られてきた光信号に十分に強い光パワーを有する局部発振光を混合することで、強度変調・直接検波技術と比べて受信感度を高められる方式のことをいう。

実験では、0.5Gbaudの「NRZ電気信号」(ビットの1と0を2つの状態で表現し、各ビット間で0状態に復帰しない信号)によってPCSELを直接駆動し、高出力光周波数変調信号が生成された。そしてこの光信号を1億分の1に減衰させ、コヒーレント受信後に復調を行っても、もとのNRZ信号を復元できることが確認された。

研究チームは今後も、PCSELを用いたさらなる長距離かつ大容量な自由空間光通信を実現し、6G時代における宇宙空間での通信を支える光伝送技術の研究開発を推進していくとしている。