「日本におけるレノボのサーバやストレージの認知度をもっと高め、最も信頼されるインフラストラクチャパートナーになることを目指す」――。レノボ エグゼクティブバイスプレジデント兼インフラストラクチャソリューショングループ(ISG)プレジデントのカーク・スコーゲン氏は、こう切り出した。
2014年に、IBMのx86サーバ事業を買収してから、来年は10年目の節目を迎えるISGの売上高は年間100億ドルを初めて突破し、成長戦略に拍車がかかっているところだ。そして、注目を集めるAI分野において、レノボのサーバ事業が大きく貢献できるとする。日本およびグローバルでのISGに取り組みついて、スコーゲン氏に聞いた。
なお、インタビューには、レノボ ISG アジアパシフィック担当プレジデントのスミア・バティア氏と、2023年7月にレノボ・エンタープライズ・ソリューションズの社長に就任した多田直哉氏も同席した。
2022年度の売上高が初の100億ドルを突破
--レノボのインフラストラクチャソリューショングループ(ISG)の現状を教えてください。
スコーゲン氏(以下、敬称略):レノボ ISGは、エッジからクラウドまでをも網羅する最大の企業であり、最も信頼されるインフラストラクチャのパートナーになることを目指しています。
その目標の実現に向けて、着実に成長を遂げているというのが、現在の状況だといえます。2022年度(2023年3月期)の売上高は100億ドルを初めて突破し、前年比37%増という力強い成長を見せており、サーバでは世界第3位のシェア、ストレージは世界第8位であったものが第5位へと順位をあげています。
そして、AIハードウェアインフラの市場ランキングでは、世界第3位のポジションとなっています。もう1つ、重要な点は顧客満足度が着実な高まっているということです。実は、この背景には、数年前から顧客満足度を高めるとボーナスがあがるという仕組みを採用したことが影響している部分もありますが(笑)、社員が満足度を重視する姿勢が浸透しています。
レノボはナンバーワンのPCカンパニーということが多くの人に知られていますが、サーバやストレージをはじめとしたインフラストラクチャソリューションやサービス、ソフトウェアビジネスなど、ノンPC分野の成長が堅調であり、すでに、売上高の41%をノンPCが占めています。
--レノボのサーバが選ばれる理由はどこにあると、自己分析していますか。
スコーゲン:ITICの調査によると、Lenovo ThinkSystemサーバは、x86ベースのすべての製品のなかで、最も高い信頼性、稼働率であると評価され、この評価は9年連続となっています。
そこからもわかるように、業界で最も品質が高く、かつ信頼性が高いサーバである点が、レノボが選ばれている理由です。さらに、スマホやPC、タブレット、サーバ、ストレージ、ソフトウェア、プロフェッショナルサービスまで、さまざまなものを提供でき、さまざまなソリューションをシンプルに展開できる点も強みです。
また、サプライチェーンランキングにおいても世界8位となり、特にアジアパシフィックでは2年連続でナンバーワンとなっています。最新テクノロジーを活用することで、安定した供給体制を確立していることもレノボの強みです。現在、全世界で1秒あたり4台のペースでデバイスを出荷し、顧客企業へのリードタイムは10日以上も短縮しました。
そして、昨今ではサステナビリティに対する関心が高まっており、そこでもレノボに対する期待があります。レノボは、いち早く、バリューチェーン全体におけるGHG(Green House Gas:温室効果ガスの排出量)排出量実質ゼロの目標を打ち出し、それに向けた取り組みをしています。
また、ハンガリーの新たな製品拠点では工場の屋根にソーラーパネルを設置し、2.5MWの発電ができ、ネットゼロ工場を実現していますし、サーバをラックに組み込んだ状態で工場から出荷して、梱包材の削減にも取り組んでいます。さらに、CO2オフセットサービスを用意しており、これを購入すればカーボンクレジットの証明書を発行し、レノボ製品によるCO2排出量のオフセットができます。
ThinkPadをはじめとしたPCでスタートしたサービスですが、サーバにも対象を広げています。加えて、アセットリカバリーサービスを通じて、使用を終了したハードウェア資産の処分を、データセキュリティに配慮して実施し、リサイクルやリユースし、資産価値を最大化することができます。このサービスは、他社のサーバでも利用することができます。
--エッジサーバに対する注目が集まっています。手応えはどうですか。
スコーゲン:レノボのエッジサーバは、9四半期連続で2倍以上の成長を遂げています。ISGにおいては、ビジネスの半分がパブリッククラウドであり、残りがオンプレミスになっています。つまり、これは、レノボにとって、ハイブリッドクラウド戦略が重要になることを示しています。そこにエッジは重要に役割を果たしています。
日本では、ハワイアンカジュアルレストランのEggs 'n Thingsが、エッジサーバである「ThinkSystem SE350」を導入し、来店客の座る位置をリアルタイムで可視化し、スタッフがアプリケーション上で座席の位置を確認し、出来立ての料理を迷うことなく届けることができます。
また、病院や小売店、ファーストフードチェーン、オフィスにエッジサーバを設置しても、それがジェットエンジンのような音がしていては、会議になりませんし、お客さまにも迷惑になります。レノボのエッジサーバでは、競合他社に比べて、ノイズを50%削減したり、壁に据え付けたり、棚に設置したりといった使い方が可能です。
この結果、現場への導入では、圧倒的な優位性が発揮できています。また、ユニークなのは、エッジサーバのUSBポートにスマホを接続すれば、すぐに充電ができるといった機能を追加した点です。これも利用者の声を反映し、追加した機能の1つです。
サーバを10拠点や20拠点に展開することは管理上でもそれほど難しくはありませんが、エッジサーバは、数1000カ所に設置したり、場合によってはその数が数万カ所に及んだりすることもあります。タイムリーに設置し、セキュアに運用・管理できることがレノボのエッジサーバの特徴の1つでもあります。
また、エッジサーバには堅牢性が求められます。夏の高温な環境でも、雪が降るような寒さのなかでも動作でき、海水が近い環境で利用しても、塩水や湿度に対応でき、さらには、防塵性も高めています。エッジサーバが物理的に動いたり、本体のカバーが取り外されたことを検知した場合、データにアクセスできないように制御する機能も搭載しています。
--レノボでは、液体冷却のLenovo Neptune技術を採用したサーバをラインアップしていますね。
スコーゲン:Lenovo Neptune技術を採用したサーバは消費電力を40%削減でき、スーパーコンピュータの世界でも、この技術が多く使われています。
米ドリームワークス・アニメーションやハーバード大学、イェール大学でも、Lenovo Neptune技術を採用したHPCソリューションが稼働しており、半導体業界や自動車業界でも活用が広がっています。今後、日本の企業においても採用が進むことを期待しています。
レノボのAIに対する姿勢
--レノボ ISGでは、AIに対してどのような姿勢で取り組んでいきますか。
スコーゲン:AIは重要なトレンドであり、最も大きな成長分野と捉えています。しかし、レノボにとって、AIは決して新しいものではありません。この分野には5年前から積極的な投資を進めています。すでに12億ドルの投資を行い、4つのAIイノベーションセンターを設置し、AI向けに最適化したサーバを65製品以上投入しています。
さらに、今後3年間で10億ドルの追加投資を行うことも発表しました。AIハードウェアインフラの成長率は、市場全体では37%増ですが、レノボは137%増の成長となっています。市場全体を100%上回る成長率となっており、ここからもレノボの成長の高さがわかります。
また、レノボのAIエッジサーバは単にNVIDIAを搭載し、高い性能を発揮するというだけでなく、さまざまな工夫が凝らされているという点が特徴です。ThinkEdge SE455 V3は、AMD 8004 EPYCプロセッサを搭載し、より迅速なインサイトを、AIやアナリティクス、クリティカルなワークロードに提供します。
エッジに最適化されたパフォーマンスと、大容量のオールフラッシュストレージの搭載、静音性の最適化、堅牢なセキュリティにより、エッジにおいてもクリティカルなワークロードの実行が可能になりす。パフォーマンスは2倍だが、静音性は半分という点にこだわったことも、より多くの現場で現場で、AIを活用してもらいたいという狙いが背景にあります。
ただ、AIにも課題があります。その1つがAI分野におけるスタートアップ企業だけでも1万6000社以上あり、お客さまからはどこからAIに手をつけていいのかがわからないという点です。これは、よく聞く声です。
レノボでは、AIイノベータープログラムを立ち上げて、45社のスタートアップ企業に対して、165以上のAIソリューションの開発を支援し、これをデプロイできるようにしています。これらは、as a Serviceでも、CAPEX(Capital Expenditure:資本的支出)モデルでも使うことができ、お客さまの状況にあわせて、迅速に、シンプルに、AIを活用できる環境づくりを支援します。
AIイノベータープログラムの特徴は、すでに1年以上、大企業とともにPoC(Prrof of Concept:概念実証)を行ってきた実績があり、多くの知見を取り入れている点です。
ハードウェアやソフトウェア、ソリューションにおけるさまざまな課題に直面し、それに対応してきたものばかりです。日本のお客様が対しても、自信を持ってお勧めでき、安心して、AIソリューションを導入してもらうことができます。
--AI分野においては、どんな役割を果たすことになりますか。
スコーゲン:先に触れたように、ISGはデータセンターやエンタープライズ分野において、インフラストラクチャソリューションプロバイダーとしての役割を果たすことを目指していますが、これはAIの世界でも同じです。
AIでは、「PPP」が重要になります。1つ目のPは、PCなどで利用するパーソナルAIのPです。個人的な質問をして、AIから回答を得るというものです。2つめPがプライベートエンタープライズです。社内に蓄積したデータを活用し、企業に最適なAIとして活用するものになります。そして、3つめのPがパブリックAIであり、一般に流通しているデータをもとに提供されているAIです。
クラウドプロバイダーのトップ10社中8社が、レノボのサーバを活用していますから、PCでAIを使っても、パブリッククラウドでAIを使っても、その多くには、レノボのコンピュータリソースが使用されているというわけです。
データをAIに活用していくことは大切ですが、今後数年で生成されるデータは、これまでに長年に渡って生成されたデータの2倍になると見込まれています。しかし、これらのデータのうち処理されているのは2%にすぎません。
また、今後、生成されるデータの75%がエッジ上で処理されると言われています。エッジサーバを通じて、データをAIに活用していくことがますます大切になります。そこにレノボは強みを発揮できます。
多田氏(以下、敬称略):先にも触れたように、レノボのエッジサーバは、静音性に優れ、設置面積が小さくて済みますから、AIをあらゆる場所で利用するための環境づくりを支援することができます。
これらは、AIイノベータープログラムや数多くのPoCを通じて学んだことであり、だからこそ、レノボはAIに最適化したエッジサーバを提供できるといえます。
--レノボ自らは、AIをどう利用していますか。
スコーゲン:AIは、レノボ社内のあらゆる場所に入っています。レノボは、全世界で7万7000人の社員が在籍しており、180カ国以上に展開しています。これらの社員がAIを活用して業務の効率性を高めるといったことを行っています。
製品に対して得られた数多くの声をAIで分析し、フィードバックに優先順位をつけて、継続的な改善につなげています。また、コールセンターでもAIを活用し、エンドユーザーへの対応を迅速化したり、全世界に30拠点以上の生産拠点においても、AIを活用した改善を進めています。
品質の検証に活用したり、スマート製造の実績を他社にも展開したりするといった取り組みも進めています。そのほか、ハードドライブの予兆保全にAIを活用し、故障する前にメンテナンスを行うといったことも行っています。
日本市場における課題と展望
--レノボ ISGにおいて、日本市場での課題はなんでしょうか。
スコーゲン:レノボは、2014年にIBMからx86サーバのビジネスを買収し、それ以降、金融、製造など、全世界で大手企業の顧客を獲得してきました。しかし、その一方で中堅中小企業などでは、PCのトップメーカーということは知られていても、レノボはサーバやストレージで高いシェアを持っているということについては、まだ認知度が低いという課題があります。
日本においても、それは同様です。これをなんとかしたいと考えています。先日、鈴鹿で開催されたF1日本グランプリにおいて、レノボがタイトルスポンサーとなり、「FORMULA 1 LENOVO JAPANESE GRAND PRIX 2023」としたのも、日本においてレノボのビジネスを知ってもらう取り組みの1つです。
F1は、世界各国で約40週間に渡り、23レースを行う過酷なものですが、レノボのデータセンターが、これを裏で支えています。レノボのテクノロジーにより、ドライバーやチームがデータを即座に入手できるようにし、サーバでデータ収集をサポートしたり、サーキットとメディア&テクノロジーセンターを結び、レースを見ているファンのために、リアルタイムでデータを表示できるようにしています。
これもレノボのサーバ、ストレージの高い信頼性や堅牢性の高さを訴えることにつながったと考えています。実は、日本GPでは優勝したマックス・フェルスタッペン選手に、私からトロフィーを授与したのですが、このトロフィーは世界初となる「キス反応型トロフィー」でした。
高性能な接触反応型のマイクロスイッチ技術を搭載し、ドライバーがトロフィーにキスすると、多数の高出力ライトを通じて、トロフィー中心部から優勝ドライバーの国旗が色鮮やかに映し出される仕掛けになっています。私の役割を、これを落とさないように手渡すことだけで(笑)、とにかく緊張しました。
レノボの製品を一度使っていただいたお客さまからは、非常にいい感触を得ています。つまり、まずはレノボを知っていただくことが大切であり、そこに力を注ぐ必要を感じています。全世界に自社工場を持ち、世界規模でビジネスを行い、性能の高さや信頼性の高さ、そして、コストメリットを持った製品であることを感じてもらえると自負しています。
--レノボ ISGは、日本において2023年7月から多田社長による新体制がスタートしています。どのようなことを期待していますか。
バティア氏(以下、敬称略):多田さんは、30年以上に渡り、IT業界での経験を持ち、そのうち、約20年がさまざまな企業において、リーダーシップのポジションに就いています。
新たなテクノロジーに対する理解と深い見識があり、さらに、これまでの経験から得たサステナビリティに対する理解や、日本市場に対する理解も評価しています。
それらのすべてを活用してもらい、日本でのレノボのビジネスを成長させてもらいたいと思っています。多田さんに、日本のISGを率いてくれることをとても喜ばしく思っていますし、レノボが持つ真の価値を日本の市場に届けてくれると期待しています。
--具体的にはどのような目標を掲げていますか。
バティア:1つは、プレミアムマーケットにおいて2桁成長を遂げること、そして、もう1つは日本市場におけるシェアを2桁にすることです。お客さまに提供できるソリューションや、価値を考えると、この目標達成は不可能なことではないと考えていてます。レノボISGの日本における新たな旅路を一緒に進めたいと思っています 。
多田:ISGが目指すところは、最も信頼されるテクノロジーのインフラストラクチャープロバイダーになることです。それは、日本も同じです。
レノボ ISGには、サーバ、ストレージ、ネットワーク、プロフェッショナルサービス、ソフトウェアといった多岐に渡る製品やサービスがあります。お客さまに対して、レノボが提供できる価値はなにかといったことをしっかりと提案したいと考えています。
また、ナンバーワンのPCメーカーであるという強みも生かし、PC事業などとの連携も重要だと思っています。私の経験も生かしながら、日本市場でのビジネスを、世界でも速い成長を遂げるビジネスにしたいですね。