ソフトバンクは、10月3日~6日の4日間、東京のホテル会場とオンラインのハイブリッド形式で「SoftBank World 2023」を開催。2日目の10月4日には、ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏が登壇。「AI共存社会に向けて ~ソフトバンクが目指す次世代に必要なインフラとは~」と題して講演を行った。

  • ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 宮川 潤一氏

    ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 宮川 潤一氏

2年後にはシンギュラリティになる

宮川氏は講演の中で、第1次産業革命の蒸気機関、第2次産業革命の電気、第3次産業革命のコンピュータ・インターネットに続き、AI(人工知能)が第4次産業革命の中心技術になると語った。

「これからのキーテクノロジーは、間違いなくAIです。AIがもたらすのは自律化、最適化です。AI自らが判断して最適化する時代です。第4次産業革命はAIとともに生きることを本当に真剣に考えないといけないということだと思います。超人類の知能が常にある世界が、このAIによって実現されていくことになります。この人の知能を超えたAIによって、AIが自ら学習して、自ら進化していくわけです。AI自身が、人間が介在することなく生産活動を自律的に行い、進化させていくということが始まります。そんな世の中がもう本当にすぐそこまで来ていると思います。これがAIによる自律化であり、最適化であるということです。この自律化、最適化される世界の突入を意味するのが第4次産業革命だと思います」(宮川氏)

超人類の知能が常にある世界、人の知能を超えたAIがある世界を同氏は、「シンギュラリティ(Singularity)」と表現した。

シンギュラリティとは、技術の進歩が急激に加速し、技術の進化や人工知能の発展が急速に進行し、人類の歴史や文明に革命的な変化をもたらすこと。同氏は講演の中で、2025年には「シンギュラリティ」の世界になると指摘した。

また、宮川氏の前に行われた特別講演では、ソフトバンクグループ 代表取締役 会長兼社長執行役員 ソフトバンク 創業者 取締役の孫正義氏は、10年以内にAGI(Artificial General Intelligence)の世界になると語っている。

AGIは、「汎用人工知能」とも訳され、特定のタスクだけでなく、あらゆるタスクが人間と同等のレベルで行える人工知能を指す。孫氏は、全人類の叡知の10倍を持つAIが10年以内に登場すると語っている。

  • ソフトバンクグループ 代表取締役 会長兼社長執行役員 ソフトバンク 創業者 取締役の孫正義氏は10年以内にAGI(Artificial General Intelligence)の世界になると語っている

    ソフトバンクグループ 代表取締役 会長兼社長執行役員 ソフトバンク 創業者 取締役の孫正義氏は10年以内にAGI(Artificial General Intelligence)の世界になると語っている(出典:ソフトバンク)

宮川氏によれば、以前はムーアの法則により人間の脳レベルに到達するのは、2045年と予想されていたが、GPUの登場により、2025年には人間の脳をAIが超えると予想されているという。

「あと2年でシンギュラリティが訪れて、AIは人の叡知を超越する存在になります。それによってAGIの世界に向かっていく。自動車を例にすると、設計から製造販売までのすべてをAIが行う時代が、本当に近くに来ていると思います。そして、このシンギュラリティが来た時には、確実にこの世界観が広がってくる。たった2年後に、シンギュラリティが来るわけです」(宮川氏)

  • 宮川氏は2025年には、「シンギュラリティ(Singularity)」の世界になると指摘

    宮川氏は2025年には、「シンギュラリティ(Singularity)」の世界になると指摘(出典:ソフトバンク)

2030年に向け、何をするべきか

宮川氏によると、2020年に国内で必要とされるコンピュータの計算能力は6 EFLOPS(エクサフロップス)だったが、2030年には1.6 ZFLOPS(ゼタフロップス)の計算能力が必要だという。6 EFLOPSは、富士通のスーパーコンピュータ「富岳」の14システム分だが、1.6 ZFLOPSになると、富岳が3800システム分必要になるという。

また、これらの計算能力を支えるためには大量の電力も必要になり、1.6 ZFLOPSの計算能力を賄うためには、大型の火力発電所が580基必要になるという。そのため、計算基盤のエネルギー効率を少なくとも現在の数十倍にする必要があり、自然エネルギーの開発も行い、都市圏に集中するデータセンターを地方に分散させていかなければならないと指摘。ソフトバンクも分散処理を積極的に推進しているとアピールした。

  • 宮川氏は2030年には富岳3,800システム分の計算能力と、それを賄うための大型の火力発電所580基が必要になる指摘(出典:ソフトバンク)

すなわち、これから訪れるAIと共存する社会においては、今後増加し続けるデータ処理のために、計算基盤の分散配置と、それを安定稼働させるための再生可能エネルギーの開発が必要であるということだ。

「この構造なくして、日本のAIとの共存社会は語れないと考えています」(宮川氏)

  • 宮川氏は、2030年に向け、データセンターの地方分散と階層構造による分散処理が必要で、ソフトバンクはそれに向けて動いているとアピールした(出典:ソフトバンク)

第4次産業革命でもたらされる変化

宮川氏によれば、新たなテクノロジーが社会実装され、それが革命になっていく流れが、第1次産業革命、第2次産業革命、第3次産業革命のいずれでも起こっており、時代ごとに社会実装されたものは、人々の生活を変革してきたという。

具体的には、第2次産業革命では電気のインフラの整備によって家電が普及し生活スタイルが大きく変わり、第3次産業革命のパソコンやインターネット、スマートフォンの登場によって、コンピュータによる生産の自動化が進んできた。

  • 産業革命により時代ごとに社会実装されたテクノロジーは、人々の生活を変革してきた

    産業革命により時代ごとに社会実装されたテクノロジーは、人々の生活を変革してきた(出典:ソフトバンク)

そして、第4次産業革命によるAIの普及では、全産業のあらゆる領域をAI自身が担って自律化していくことになり、エネルギー分野では、消費側の需要を予想し、発電側の供給とマッチングして、自律最適化されていく。

「これまで人が働くことで対価が得られるといった労働という概念が変わり、人が車を運転するといった移動という概念が変わります。また、人から学ぶといった教育という概念が変わり、人が健康であり続けるための医療という概念が変わります。AIがスーパードクターの代わりをやってくれるわけですから、どこにでも配置できるAIが治療することになると、治らなかった病気も治るようになると思います」(宮川氏)

企業が生き残れるかどうかの分岐点

AIの普及によりTesla(テスラ)やNVIDIAといった時価総額が100兆円を超える企業も誕生しているが、宮川氏は日本企業にもそのチャンスがあると語った。

「第4次産業革命は、今、始まったところです。Tesla(テスラ)1社だけで日本の10個分ぐらい100エクサフロップスの計算基盤を持っているわけです、Teslaは自分で運転することも開放していますが、裏側で自動運転プログラムを常に走らせており、事故が起こったときには差分を全部計算して、何が原因だったのかを全部理解しようとしています。それが世界中で売れたTeslaの車、全部でやっているわけです。彼らはAIというものを理解して使っています。一抜け(いちぬけ)するには、やはり理由があるということをわれわれも学んでチャレンジしていかないと、日本企業の明日はないと思います。第4次産業革命の入り口でも、この2つの企業が飛び抜けて出てきましたが、第4次産業革命は始まったばかりですし、AIというものが、まだほとんどの方が理解しきれていないところだと思うので、まだまだみんなにチャンスがあると思います」(宮川氏)

  • AIにより、時価総額が100兆円を超える企業も誕生

    AIにより、時価総額が100兆円を超える企業も誕生(出典:ソフトバンク)

そして同氏は、今後、企業が生き残れるかどうかは、AIに対する向き合い方が分岐点で、想像力が必要だと語り、講演を終了した。

「AIとの共存する社会、秒単位で成長するAIと向き合わなくちゃいけない社会で、AIを牽引する側になるのか、それを傍観する側になるのかで大きく変わると思います。まだ間に合うと思います。結局は、想像力こそが未来の常識を作っていくのだと思います。AIを恐れてはダメです。どの道(その世界は)来ますから。本当にAIは優れていますから、優れたAIと共に暮らす、一緒に仕事をするということはどういうことなのかということを思い描けた企業だけが、この時代の牽引役になると思います」(宮川氏)

  • 宮川氏はAIによる価値創造は、これまでの産業革命を大きく上回ると指摘

    宮川氏はAIによる価値創造は、これまでの産業革命を大きく上回ると指摘(出典:ソフトバンク)