NTTでは、イーサネット標準の波長帯域であるO帯(1320nm)において、1レーンあたり毎秒400ギガビット(400Gbps)を超えるIM-DD(強度変調直接検波)光信号の送受信に成功したと発表した。

また、同技術を活用することで、フィールドに敷設した4コアファイバーを用いて、ファイバー1心で、毎秒1.6テラビット(1.6Tbps)を超える超高速IM-DD信号を、10kmの距離で伝送できることを世界で初めて実証したという。

NTT独自の超広帯域ベースバンド増幅器ICモジュールと、超高精度なデジタル信号処理技術、マルチコアファイバーを用いた空間多重伝送技術の高度な融合によって達成したもので、従来の実用レベルの4倍以上となる大容量化を実証。これを活用することで、大規模データセンターネットワークのさらなるスケーラビリティの向上が見込まれるほか、次世代イーサネットのコア技術としても期待できるという。

データセンターネットワークのトラフィックは、データセンター内部やデータセンター間に集中。とくに、データセンター内でのスイッチング容量拡大に向けた需要が高まっている。

NTT未来ねっと研究所 イノベイティブフォトニックネットワークプロジェクトの谷口寛樹氏は、「データセンター内やデータセンター間の接続には、経済的なイーサネットが主に使われており、現在、標準化されている400GbEに加えて、次期標準規格として、800GbEや1.6TbEの検討に注目が集まっている。だが、1.6TbEを実現するには、200GbEを8レーン束ねることが前提となっており、さらなる低コスト化を図るには、1レーンあたりの容量の高速化および並列伝送数(レーン数)の削減が必要になる。今回の技術は、標準化団体では議論が行われていない新たな将来技術として提案するものであり、1レーンあたり400GbEを4レーン束ねる構成で、1.6TbEを実現できる」という。

  • NTTの谷口寛樹氏

    NTT未来ねっと研究所 イノベイティブフォトニックネットワークプロジェクトの谷口寛樹氏

  • 今回の研究成果の概要

    今回の研究成果の概要と、その背景 (資料提供:NTT)

これまでの方式では、複数の波長チャネルを用いて信号を並列伝送する「WDM(Wavelength Division Multiplexing)」、複数の光ファイバーを用いて信号を並列伝送する「PSM(Parallel Single Mode)」が活用されていたが、今回の技術では、これまでのイーサネットには採用されてこなかったSDM(Space Division Multiplexing=空間分割多重)方式を採用。マルチコアファイバーを使用して、コアのひとつひとつに波長チャンネルを入射し、並列伝送するという。SDMの活用は、イーサネットの標準化に向けても課題はないと見ている。

今回の実証では、3つの技術を用いている。

1つめは、送信側の技術として、独自に開発した超広帯域ベースバンド増幅器ICモジュールがあげられる。

光送信回路内の光変調器駆動用ドライバーアンプとして、超広帯域ベースバンド増幅器ICモジュールを適用し、高速光信号を生成。毎秒400ギガビットの超高速IM-DD信号を送信する。送信光スペクトルは155Gbaudとしており、PAM8により、8つの強度レベルで符号化されている。「実験では、155GHzに渡る広い帯域において、きれいな形で信号が生成できている」という。

  • 1レーンあたり400Gbpsの高速IM-DD信号の送受信を実現した技術

    1レーンあたり400Gbpsの高速IM-DD信号の送受信を実現した技術 (資料提供:NTT)

もう1つは、光受信機側の技術として、デジタル信号処理技術を開発した点だ。非線形最尤系列推定技術を適用することで、光送受信機内や伝送路で歪んでしまった信号を、高精度な非線形演算によって模擬し、受信信号と模擬信号を比較することで、受信信号のビット誤り率を低減し、毎秒400ギガビットの超高速信号を受信するという。

「一般的な歪み方や、複雑な歪み方でも、歪みを推定できる。この非線形最尤系列推定技術を活用することで、光送受信回路の歪み耐性に優れ、超高速光信号の特性を改善することができた。実証実験では、ビット誤り率で0.02を下回ることを目指した。非線形最尤系列推定技術による信号技術を用いた伝送性能では、4つのコアのすべてで、その条件を下回りながら、毎秒1.6テラビットの10km伝送を実現できた」という。

そして、3つめがマルチコアファイバーを用いた空間多重伝送技術である。

「IM-DD光信号では、波長分散を抑えなくてはならず、同様に、高速信号になるほどに波長分散を抑える必要がある。今回の空間多重伝送では、4コア間の波長分散特性が均一なため、各コアの毎秒400ギガビット信号の波長分散による信号劣化が小さい1305nmの波長での伝送を可能にしている。また、シングルモードファイバーと同じ太さのものを採用しており、コア間のクロストークが信号劣化しないという特徴もある」とした。

  • クロストーク信号劣化を抑えることもできている

    4コア間の波長分散特性が均一なマルチコアファイバの活用などによりクロストーク信号劣化を抑えることもできている (資料提供:NTT)

実証実験は、神奈川県横須賀市のNTT研究所の地下設備に、4コアファイバーケーブルを敷設することで、実際のケーブル敷設環境を模擬して、信号伝送を実施したという。1kmの洞道を折り返して10kmとした。ここでは、屈折率の分布が簡単に構成でき、低コストで製造できるステップインデックス 4コアファイバーを用いたという。

  • 10kmのマルチコアファイバ伝送実証実験の結果と概要
  • 10kmのマルチコアファイバ伝送実証実験の概要
  • 10kmのマルチコアファイバ伝送実証実験の概要 (資料提供:NTT)

1レーンあたり毎秒400ギガビットを超えるIM-DD(強度変調直接検波)光信号の送受信を実現。O帯はC帯と比べて波長が短く、コア間クロストークが約10万分の1という極めて低いという条件で、個別ファイバーと同様の伝送が可能になる。これにより、4コアファイバーの適用性も確認できたという。

NTTでは、今回の技術を活用することで、従来の実用レベルの4倍以上となる大容量化を実現するとともに、「将来の大規模データセンターネットワークで利用される1ファイバーあたり毎秒1.6テラビットを超えるイーサネット信号を高信頼に伝送することが期待される。また、マルチファイバーの低コスト化にも貢献できる」とコメント。さらに、2030年代のIOWN/6Gにおけるオールフォトニクス・ネットワークの実現に向けて、独自のデバイス技術、デジタル信号処理技術、光伝送技術の融合を深化させて、研究開発を進めていく考えも示した。

  • 研究成果を踏まえた今後の方向性

    今回の研究成果を踏まえた今後の方向性 (資料提供:NTT)

なお、同技術は、10月1日から、英国グラスゴーで開催された国際会議「ECOC2023(European Conference on Optical Communications)」の伝送部門において、査読委員から最も高く評価されたトップスコア論文として採択されたという。