中国が粒子加速器を活用した巨大な半導体工場の建設を計画していると、香港の英字新聞「South China Morning Post」が報じている。
それによると、中国の科学者らは、米国が音頭を取る対中半導体規制に対抗するため、EUVリソグラフィの光源となる巨大な粒子加速器を半導体工場内に設置することを検討しているという。具体的には、中国トップクラスの大学である清華大学の研究チームが河北省の雄安新区地方政府と粒子加速器による巨大半導体チップ工場建設用地の選定に向け活発な話し合いを進めているとのことで、1台の巨大な粒子加速器の周囲に複数のEUV露光装置を配置した工場を建設することにより、先端半導体チップの国産化、ならびに大量生産を実現しようという取り組みのようである。
研究チームが進めているのは定常状態マイクロバンチング(SSMB=Steady-state microbunching)と呼ばれる新しい発光メカニズムで、SSMB理論は加速過程で放出される荷電粒子のエネルギーを光源として利用するもの。現在のASMLのEUV技術と比べてより望ましい光源であるという。実用化されれば大量かつ低コストのチップ製造が容易になり、中国が2nm以下の先端半導体チップ生産で主導的立場に躍り出る可能性があるとしている。
2021年、NatureにEUV露光への応用示唆する論文を掲載
SSMBは、粒子加速器の研究で有名な米国スタンフォード大学の趙午(ジャオ・ウー)教授らによって2010年に初めて提唱され、2017年に清華大学の唐伝祥(タン・チュワンシアン)教授がこの技術をさらに探求するための専門研究チームを結成、2019年に実験に成功し、その成果が2021年に「Nature」に掲載されていた。
清華大学工学部物理学科のChuanxiang Tang教授の研究グループは、ドイツ研究センターヘルムホルツ協会の材料・エネルギー研究センター(HZB)と物理工学研究所(PTB)の共同研究チームとともにSSMBの原理実証実験に4年前に成功している。自由電子レーザーに用いられる通常はシングルショットの電子マイクロバンチングを、電子蓄積リングにおいて連続的に行えるようにすることで、定常状態の電子マイクロバンチングを実現した。
SSMBの原理に基づき、高出力・繰り返し周波数の高い、狭線幅のコヒーレント放射光が得られ、波長はテラヘルツからEUVリソグラフィまでカバーできると論文は主張しており、将来的には、EUVリソグラフィの光源への新たな技術的な道のりを提供する可能性があることを示唆していた。
加速器の直径は数十mほどもあり、建設には巨額を要するが、中国は、国の威信をかけて米国に対抗するために実現させる可能性がでてきた。現在、オランダ政府は、米国政府の要請により、世界で唯一、EUV露光装置を手掛けるASMLに中国への輸出を許可していない。