富士通は、アンモニアの合成手法を開発するアイスランドのベンチャー企業であるAtmoniaとの共同研究において、貴金属に比べて安価に利用できる酸化モリブデン(MoO2)の一部をタングステン(W)で置換した新たな触媒材料の有力候補を発見したことを発表した。

この新触媒材料候補は、2023年5月に発見されたとのこと。同成果の詳細は、Atmonia、富士通、アイスランド大学、東京工業大学の共著論文として、化学や工学なども含めた物理学全般を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「Cell Reports Physical Science」に掲載された。

富士通とAtmoniaは、CO2排出量の削減に寄与するアンモニアのクリーンな合成を実現するため、富士通が開発した量子化学シミュレーション高速化技術および因果発見技術を活用して、アンモニア合成触媒を効率よく探索するための共同研究を開始している。

両社はまず、約2400種類もの大量の触媒条件の組み合わせ候補を選定したのち、それらすべての候補に対して反応過程まで考慮した約1.8万件におよぶ量子科学シミュレーションを高速に実行。効率よくアンモニアを合成できる比較的安価な触媒を網羅的に探索するためのシミュレーションデータを収集したとする。

そしてその後、Atmoniaが有するこれまでの触媒開発の知見に基づき、アンモニア発生反応が起こりやすい窒素を水素よりも優先して吸着しているか、合成時のエネルギーが低いかなど、有望な触媒候補としての選定基準を設定して、シミュレーションデータからの触媒の組み合わせを絞り込んだとのこと。そして、MoO2を基本構造として、その表面部分の一部をWで置き換えることで、非貴金属を組み合わせた材料候補の発見に至ったとしている。

両社によると、今回の新触媒材料候補の発見は、アンモニア生成効率が高く、かつアンモニア生成時に投入する電力エネルギーも低い点で有望な触媒材料候補であり、常温常圧で水・空気・電気からアンモニアを合成する手法の実用化に向けた大きなステップになるという。

また今後は、発電や水素エネルギーの原料となるクリーンなアンモニア合成の実現に向け、実験を通じて新触媒材料候補の有効性を検証するとのこと。さらに富士通は、今回開発した量子化学シミュレーションとAI技術により材料探索を効率化する技術を、先端AI技術を素早く試せるAIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi(code name) - Fujitsu AI Platform」を通じ、10月3日より提供を開始。同技術を、サステナブルな世界の実現を目指す「Fujitsu Uvance」のもと、人と地球が共存し持続可能な成長を支える「Sustainable Manufacturing」のオファリングとして提供を目指すとしている。