大日本印刷(DNP)とマイクロ波化学は10月3日、マイクロ波化学の有するマイクロ波照射技術を活用して製造された直径11nmの銀ナノワイヤを用いて、高い透明性と導電性を両立した透明導電フィルムを開発したことを発表した。

  • 直径11nm銀ナノワイヤを用いて製造された透明導電フィルム

    直径11nm銀ナノワイヤを用いて製造された透明導電フィルム (写真提供:DNP/マイクロ波化学)

透明で電気を流す技術としてはタッチパネルなどに活用されているITO膜が良く知られているが、真空中での成膜や、高熱での焼結などの製造プロセスが必要で、かつ硬い膜であり、急な温度変化などで導電部にクラックが生じる可能性など、加工性や耐久性の面で課題があった。そのほか、透明導電膜としてCNT(カーボンナノチューブ)や金属メッシュ技術などもあるが、CNTは高抵抗、金属メッシュは透明性に課題があり、高い透明性と導電性を維持しつつ、曲げ性を持たせた技術として、それらの特性をすべて兼ね備えた銀ナノワイヤの活用が期待されれている。

  • 透明導電膜の各技術の比較

    透明導電膜の各技術の比較 (資料提供:DNP/マイクロ波化学)

しかい、これまでの外部加熱による銀ナノワイヤ製造法では、導電性を高めることを目的に長くしようとすると、直径も太くなってしまい、視認性が落ちるという課題があったという。マイクロ波の工業適用を目指しているマイクロ波化学では、金属の先端にマイクロ波が集中しやすい特性を活用することで、銀ナノワイヤを太らせることなく、先端にエネルギーを集中させることで銀を追加していく手法を考案。研究の過程で直径17nmの銀ナノワイヤを形成することに成功。その後、最適化などをはかることで、直径11nmまで細くすることに成功したという。

  • マイクロ波を活用したナノワイヤ製造プロセスの概要

    マイクロ波を活用したナノワイヤ製造プロセスの概要 (資料提供:DNP/マイクロ波化学)

DNPでは、こうして製造された直径11nmの銀ナノワイヤを独自のインキ配合技術とウェット方式による精密塗工技術を組み合わせることでフィルム化することに成功。産業展開のためには均一性も重要となるが、精密な温度制御により、その課題も解決したとしている。

実際に試作された直径11nm銀ナノワイヤを用いた透明電極フィルムの特性は、全光線透過率が90.6%(直径17nmの銀ナノワイヤの場合90.2%、ITOで87.5%)、拡散反射率は0.36%(直径17nmの銀ナノワイヤで0.50%、ITOで0.31%)、シート抵抗は31.9Ω/sq(直径17nmの銀ナノワイヤで33.6Ω/sq、ITOで31.5Ω/sq)としており、いずれも優れた値を達成したという。

  • 直径11nm銀ナノワイヤの様子

    直径11nm銀ナノワイヤの様子 (画像提供:DNP/マイクロ波化学)

DNPでは、2023年12月よりA4サイズのサンプルの提供を開始する予定で、その1年後の2024年12月に量産検討を開始する予定としている。この1年というのは、この透明導電フィルムの主な適用用途として、自動車のLiDARに取り付けることで雪などを溶かすための透明ヒーターを想定しており、自動車(OEM)メーカーやティア1メーカーによる評価にその程度の時間がかかることが予想されているため。透明ヒーターとしての性能としては、約120秒で20℃から120℃まで、面全体に均一に上昇できることを確認済みだという。

  • 透明ヒーターの活用

    寒冷地でのLiDAR利用を推進するためにはLiDARに付着した雪や霜を速やかに除去する透明ヒーターを付ける必要がある (資料提供:DNP/マイクロ波化学)

なお、同社では膜として電気が流れるという特徴を活用し、透明ヒーター以外にも、例えば車載用途としては電子シェードやエレクトロ・クロミックなどを挙げているほか、モディファイが進めば透明性が必要とされるアンテナやスピーカー、電磁波シールドといった分野にも適用できる可能性があるともしている。

  • 透明ヒーター以外の想定用途

    透明ヒーター以外の想定用途 (資料提供:DNP/マイクロ波化学)