特許庁と工業所有権情報・研修館(INPIT、東京都千代田区)は1月27日、「グローバル知財戦略フォーラム2023」)を東京都千代田区で開催した中で、パネルディスカッション「世界に羽ばたくスタートアップ! 成長に伴う知財戦略の軌跡」を実施した。このパネルディスカッションには、大阪大学(阪大)発ベンチャー企業のマイクロ波化学(大阪府豊中市)の吉野巌代表取締役社長(図1)が登壇し、強い知財戦略を築くことによって成長戦略を確立した経緯などを解説した。

  • 登壇したマイクロ波化学の吉野巌代表取締役社長

    図1:登壇したマイクロ波化学の吉野巌代表取締役社長

2007年に創業したマイクロ波化学は、2022年6月24日に、東京証券取引所グロース市場に上場し、ベンチャー企業としての大きな関門を通過した勢いのある企業に成長しつつあり、注目を集めている。

吉野社長と共同で同社を創業した、CSO(最高科学責任者)を務めている塚原保徳氏は、当時は阪大大学院工学研究科のマイクロ波利用の“博士”研究者だった。その塚原氏は、ベンチャー企業の創業を模索していた吉野氏と出会い、マイクロ波による化学反応を利用した化学製品事業を目指すという独創的な視点に基づくベンチャー企業を始める企画を議論した。その中身は、化学工場の工程の中で起きる化学反応を進めるエネルギーを、従来の熱伝導による方法からマイクロ波に置き換えることによって革新性が高い化学反応を実現することだった。

2007年8月15日に、吉野氏と塚原氏は2人で新会社のマイクロ波化学を創業した。通常ならば塚原氏は「CTO(最高技術責任者)」と名乗るところを、科学的知見を基に、新しい化学反応利用を模索するという視点から、わざわざ“CSO”と名乗って、科学に基づく新しい化学反応を利用する事業を起こすことを強調した。

創業当初の2人は、操業資金もなくマンションの1部屋に、化学実験装置を並べた環境だったために、ベンチャー企業創業の支援を行う公的機関に資金援助を申請する際には「マンションの1室での化学反応実験で、新し化学産業の事業化を目指せるものか」とのきつい指摘を受け、創業環境の整備に追われる事態に遭遇した。この難題は、幸いにも阪大のインキュベーション施設に入居することによって、実験装置を並べる環境を確保できたことから解消できた。

このマイクロ波化学のユニークな視点に気付いたのは、東京大学のVC(ベンチャーキャピタル)である株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ(東京大学UTEC、東京都文京区)の黒川尚徳パートナーだった。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が開催した「ビジネスマッチング会」に設けられたマイクロ波化学ブースに立ち寄った黒川パートナーは、化学反応を革新的に変える可能性を感じ取り、投資対象として考え始めた。実際には、東京大学UTECは2011年1月に総額1億2000万円の増資を実施した(米国的な視点から「シリーズA」の増資と呼んでいる)。代表的なベンチャーキャピタルから投資を受けられたことは、ベンチャー企業としての事業計画に、ある程度のお墨付きを与えたといえる事態だった。

吉野社長が率いるマイクロ波化学は、例えば2014年10月にドイツ化学大手のBASFと「ポリマー製品の製造工程においてエネルギーの効率化を目指した」マイクロ波化学技術を適用するパイロットスケールでの共同開発契約を締結したことから、その契約金を得て事業資金を得るなるなどによって、ベンチャー企業としての事業活動を持続する資金を確保した。

こうした大手企業との共同研究成果として得られた特許などを、自社で特許群として整備し、総合的な解決能力を高めて行った。大学の研究室が企業と共同研究して生まれた特許などは、その研究資金を提供した企業が所有するケースが一般的な慣習になっている。こうした慣習に対して、マイクロ波化学は、こうして生まれた特許群を自社所有の特許群として整備していった。時には、こうした方針に異を唱える共同研究相手の企業も当然あった。この場合は、相手企業との話し合いによって、マイクロ波化学の社内にこうした特許群を整備した方が、優れた特許網とノウハウ網を蓄積し強い特許網を構築できる。これが、結果的に優れた解決手段になると、相手企業に伝えて、何とか自社内に関連特許網を築いて行った。「これが、マイクロ波化学の強みになり始めている」と、吉野社長は講演時に語った。

同時に、NEDOが進める「戦略的省エネルギー技術革新プログラム/実用化開発フェーズ」に採択され、2022年11月には同社大阪事業所(大阪市住之江区)内に、1日当たり1tの処理能力を持つマイクロ波を用いた汎用実証設備(図2)を完成させて、工業化の基礎基盤も前進させている。

  • マイクロ波化学の大阪事業所内に完成した1日当たり1tの処理能力を持つマイクロ波利用の汎用実証設備

    図2:マイクロ波化学の大阪事業所内に完成した1日当たり1tの処理能力を持つマイクロ波利用の汎用実証設備 (出所:マイクロ波化学プレスリリース)

ベンチャー企業として、独創的な技術基盤を築き、かつ独創的な特許網・ノウハウ網を築き、実証設備の大型化を着実に進めている事業戦略について、今回のパネルディスカッションで聴衆に語り、日本でのベンチャー企業の起業が進むことを願っていると締めくくった。