プログラミングを行うことなくデジタルサービスを構築できる「ノーコード開発」が注目されている。ノーコード開発は、専用のノーコードツールを使ってプログラミング言語を記述せずに、サービスの実装を進めることができ、開発時だけでなく改善スピードも向上することからさまざまな業界で注目を集めている。IT調査会社のITRは、ノーコード・ローコード開発市場の2026年度の規模は1300億円を超えると予測している。

  • ローコード/ノーコード開発市場規模推移および予測(2020~2026年度予測) 出典:ITR

    ローコード/ノーコード開発市場規模推移および予測(2020~2026年度予測) 出典:ITR

しかし、直感的な開発を支援するノーコードツールを活用したとしても、専門知識やスキルは欠かせない。企業内に専門人材をそろえるための課題は少なくないだろう。本稿では、ノーコード開発に興味はあるが、どのようにしてノーコード開発を進めればよいか分からないといった方向けに、ジェイアール東日本都市開発の事例を紹介しよう。

ノーコード×支援で開発した健康促進アプリ

ショッピングセンター「Shapo(シャポー)」の運営などを行うデベロッパーのジェイアール東日本都市開発は、社外の支援を受けながら、ノーコードでお客向けのデジタルアプリを開発。電通デジタルが、DX(デジタルトランスフォーメーション)ビジョン・目的の策定から、具体施策の企画・開発まで一貫して支援した。

具体的にどのような流れでアプリを開発したのだろうか。ノーコード開発、そしてそれを支援してもらうことのメリットはどのようなものなのだろうか。担当者のジェイアール東日本都市開発 デジタル・コミュニケーション共創グループ 課長の谷陽子氏に話を聞いた。

ジェイアール東日本都市開発がノーコードで開発したアプリの名称は「シャポウェル」。来客の健康習慣を後押しするアプリだ。「シャポー内の階段で1階から2階まで上がる」「食事の際は野菜から食べる」といった気軽にできるミッションを選択してクリアすると、お得なクーポンが配布されるもの。

  • 「シャポウェル」サービス概要

    「シャポウェル」サービス概要

「地域の皆さんの生活が健やかであってほしいという思いから生まれた健康サービスです」と、谷氏はシャポウェルについて説明する。

  • ジェイアール東日本都市開発 デジタル・コミュニケーション共創グループ 課長 谷陽子氏

    ジェイアール東日本都市開発 デジタル・コミュニケーション共創グループ 課長 谷陽子氏

同アプリはまだ正式にローンチされていない段階だが、2023年1月~3月まで実施した実証実験では、アプリユーザー1人あたり週5回以上使用した。また、半数以上が「アプリをきっかけに初めて購入した商品があった」と回答し、6割が「今後もアプリを使いたい」と好感触を見せたという。

「毎朝起きたらアプリを開いてミッションを確認するのが習慣化した方もいました。来客の層も広がり、お店の回遊率も上がりましたね」(谷氏)

DXへの苦手意識から脱却へ

一方で、このアプリの開発には「DXへの苦手意識から脱却する」という目的もあった。

歴史ある企業がゆえに、DXどころかITに苦手意識を示す人は少なくなかったという。独自でDX施策を考えてみたがうまくいかず、DX担当者も兼務で、時間も予算もない状況だった。そこでたどり着いたのがノーコードで新サービスを開発するという選択だった。

「会社としてDXへの取り組みを始めなければならないという気持ちがありました。コツコツと地道に仕事を積み重ねる人が多い会社で、DXを推進するためには早く実績を見せる必要があります。そこで、スピード感をもって、かつ低コストで開発できるノーコードを選択しました」と谷氏は振り返る。

その上で、「とはいえ、いきなりDXを進めるといっても、何から始めればよいのか、今後どのようなビジョンを掲げて推進していけばいいのか戸惑いました。それらを整理するために、電通デジタルにジョインしてもらいました」と谷氏は説明する。

電通デジタルを中心に、同社が抱えるノーコードによる新規サービス開発支援の専門チーム「NoCode Orchestra(ノーコードオーケストラ)」や電通コンサルティングが開発を支援。構想から実装、PoC(Proof of Concept:概念実証)、提供開始までをトータルにサポートできる専門メンバーをアサインし、全体のディレクションから要件定義、設計、カスタマーサクセスなどを支援した。

ただ理想の未来図を描くだけでなく、DXに苦手意識のある企業文化もくみ取りつつ、そこに合わせた提案を行いアウトプットまで持っていた。ノーコード開発は不確実性の高い新規の取り組みと相性が良く、DXに懐疑的な組織でもすぐにアウトプットが出せるということが分かった。

低コストかつ短期間でのアプリ開発を実現

こうした流れでアプリの開発を進めた結果、開発にかかる費用は3分の1以下、時間は約半分に削減できたという。また、ジェイアール東日本都市開発は、低コストかつ短期間でのアプリ開発を実現させたことを契機として、DX専門のチームを新設した。

現在、地域密着型の健康サービスとして改善を検討しているといい、今回の取り組みだけでなく、地域課題と向き合った新しいサービスも開発しているとのことだ。

「今後は対象者の範囲を広げたり、より運動が継続できるような施策を考えたりして、さらに健康習慣化につなげていきたいです。配送サービスの実現や、マルシェの開催など、地域住民にとって生活が充実する取り組みをしていきたいと考えています」

なかなか踏み出せなかった「第一歩目」を“ノーコード開発”で踏み出せたジェイアール東日本都市開発。今回の取材で「IT」や「DX」という英字二文字に圧倒されることなく、人の手も借りながらでも、新たに事業を生み出していくことが重要ということを学べた。

  • シャポーの外観(市川東口店)

    シャポーの外観(市川東口店)