ソフトバンクとLQUOMは9月21日、量子インターネットの実現に向け、実際に東京都心部に敷設されている光ファイバを使って量子もつれを伝送する実験を開始したことを発表した。
近年では、量子コンピュータをはじめとする量子技術の開発が世界中で加速している。またそれに伴い、量子技術の社会実装を支えるためには現在のインターネット技術だけでは実現できない機能があることから、量子インターネット技術に関する研究開発も進んでいるという。
量子インターネットとは、2拠点にある量子デバイス(量子コンピュータや量子メモリなど)をつなぎ、量子もつれ状態を共有することで、量子状態をそのまま配送することが可能な大規模通信ネットワークを指す。もし量子インターネットが実現すれば、量子コンピュータの分散処理や、情報理論的に安全な量子暗号通信、量子テレポーテーション、遠く離れた2地点の正確な時刻同期など、現在のインターネット技術だけでは実現できない機能の実用化につながることが期待されている。
そうした中でソフトバンクは、将来の量子社会を支えるインフラとして、既存のインターネット技術と量子インターネット技術を融合したハイブリッドネットワークを実用化することを目指し、取り組みを進めている。一方、横浜国立大学発スタートアップのLQUOMは、量子インターネットの実現に向け、量子通信システムや関連技術の開発に取り組んでいる。
量子インターネット実現のための基礎技術の1つに、量子もつれがある。2つ以上の量子が特殊な条件下でペアになることで発生する量子もつれは、量子力学的な考え方を用いないと説明できない、量子間の強い相関である。この量子もつれを用いることで、量子テレポーテーションや量子中継といった量子通信を実装することが可能になるという。
この量子もつれを発生させる方法はいくつか存在するが、その中でも光(光子)を使って量子もつれを起こした場合には、その量子もつれ光を、光ファイバを通して遠くまで届けることができ、その光をさまざまな地点に共有するネットワークが、量子インターネットとなる。
その量子インターネットの実現には、量子もつれ光を生み出す技術、量子もつれ光を光ファイバで伝送する技術、量子もつれ光を中継する技術が必要となる。しかし、非常に特殊で不安定な量子もつれ状態は、そのままでは長距離の伝送ができないため、通信経路の途中で専用の量子中継器を活用する研究開発が行われている。
昨今通信用として用いられている光ファイバは、電柱の上や地下を通っているため、地下鉄や通行車両による振動、風雨、季節や昼夜の温度変化など、さまざまな環境の変化にさらされている。そのため量子インターネットの実用化に向けては、こうした環境変化が量子もつれの状態・品質にどのように影響するのかを確かめる必要がある。
2社による今回の実験では、ソフトバンクの本社と、都内にある同社のデータセンタを結ぶ光ファイバ(ファイバ距離約16km)に、LQUOMが開発を進める量子通信システムを組み合わせることで、大都市部の実用環境における量子通信技術の検証を行うとのこと。具体的には、実際のネットワーク環境における量子もつれ状態の振る舞い(安定度や位相変化など)に関するデータを取得・解析し、量子通信技術の実用化に向けた課題の洗い出しと整理を行うとする。さらに将来的には、LQUOMが開発した量子通信システムを使って、ソフトバンクのネットワーク上で量子通信の長距離伝送試験を行う予定だという。
両社は今後、量子インターネットの実現に必要な基礎技術の検証を行い、量子インターネットのユースケースを見極めながら社会実装を進めるとともに、将来のネットワークインフラの高度化に寄与していくとしている。