海洋研究開発機構(JAMSTEC)、九州大学(九大)、産業技術総合研究所(産総研)、北海道大学(北大)、サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループ、堀場アドバンスドテクノ、堀場テクノサービス、東京工業大学(東工大)、東京大学の9者は9月18日、小惑星リュウグウの表面から採取されたサンプルを複数種類の溶媒で抽出して可溶成分を分析したところ、最も溶解しやすい成分を反映する熱水抽出物には、ナトリウムイオンが非常に多く含まれていることを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、JAMSTEC 海洋機能利用部門 生物地球化学センターの吉村寿紘副主任研究員、同・高野淑識上席研究員、九大大学院 理学研究院の奈良岡浩教授、東大大学院 理学系研究科、産総研、堀場アドバンスドテクノ、堀場テクノサービス、サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループ、北大、東工大の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
リュウグウは、小惑星帯で最も代表的な炭素を多く含む「C型」に属する始原的な小惑星だ。小惑星探査機「はやぶさ2」によりサンプルが地球に届けられて以来、これまで、複数の初期研究チームによりさまざまな性状や含有物、履歴などが明らかにされてきた。しかし、リュウグウの可溶性成分の含有量や組成、化学的な性質はまだわかっていなかった。
リュウグウの化学進化を明らかにする上で重要なキーワードは、「水、有機物、鉱物、そしてヒストリー(熱史)」だという。研究チームは、初期状態の炭素、水素、窒素、酸素、硫黄など、有機物を構成する元素組成に物理・化学的な作用が加わった場合、初生的な有機物や分子進化の姿、水質変成による「始原的な塩(えん)」を観測できると予測していたとする。
今回の研究では、サンプルの可溶性成分を熱水、有機溶媒、弱酸(ギ酸)、強酸(塩酸)の各溶媒を用いて段階的に抽出し、得られた成分をイオンクロマトグラフィーと超高分解能質量分析法により、陽イオン、陰イオン、イオン性有機物についての精密な解析を行うことにしたという。
分析の結果、最も溶解しやすい成分の化学組成を反映する熱水抽出物は、ナトリウムイオンに富むことが判明。ナトリウムイオンは、鉱物や有機物の表面電荷を安定化させる電解質として働き、また一部は、揮発性の低分子有機物などとイオン結合を介したナトリウム塩を形成していることが考えられるとした。
さらに、今回の分析で検出された硫黄の分子種は、幅広い価数を持つイオン種や析出する無機塩と共存していることが確認された。リュウグウには元々、還元的な鉄やニッケルの硫化物が存在するが、水質変成を受けることで化学状態が変化し、親水性や両親媒性を持つ、さまざまな硫黄を含む有機分子へと化学進化を遂げたことが考えられるという。また、難溶性の硫黄同素体へ変化する準安定な親水性硫黄分子群も新たに発見され、多様な化学反応の痕跡が記録されていることが明らかにされた。
今回の研究成果は、地球が誕生する以前の太陽系において、初生的な物質はどのように存在していたのか、また、それが初期太陽系でどのように進化してきたのかを紐解くものであると同時に、地球や海、そして地球上の生命を構成する物質の化学進化の道筋を探求する上でも重要な知見となり得るとする。
NASA主導の小惑星サンプルリターン計画「OSIRIS-REx」もいよいよ佳境で、小惑星ベンヌから採取されたサンプルを収めたカプセルが、日本時間9月24日に大気圏へと再突入する予定だ。また、日本のJAXAが主導する火星衛星サンプルリターン計画「MMX」を含め、新たな地球外サンプルリターンプロジェクトも進行中である。こうした他天体からのサンプルリターンが増えることで、今後、地球が誕生する前の太陽系物質科学として、塩を含めた可溶性成分の組成や新しく発見された有機硫黄分子群の性状を含め、分子進化の統合的な理解を深めることが期待されるとしている。