内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)と海洋研究開発機構(JAMSTEC)の両者は9月6日、SIP「海洋安全保障プラットフォームの構築」(SIP海洋)において、JAMSTECの海底広域研究船「かいめい」による南鳥島周辺海域での自律型無人探査機(AUV)による水深5600mの「レアアース泥調査航海」を実施し、従来の洋上の船舶からの探査に比べて数十倍も詳細なデータを得られたことを共同で発表した。
同成果は、SIP海洋統括プロジェクトチーム レアアース生産技術開発プロジェクトチームの川村善久プロジェクト長らのプロジェクトチームによるもの。
船舶を用いた海底調査を補完する技術として、有線接続で人が操縦する遠隔操縦ロボット(ROV)と、AUVがある。それぞれ一長一短であるが、自律型ロボットの一種であるAUVの場合は、単体での探査を行えるためケーブルによる行動範囲の制限がなく、また界面の波浪やうねり、海流などの影響を受けにくいため、安定した観測を行いやすいという利点がある。AUVを用いた高解像度の海底地形調査技術の開発は、海底資源探査などを目的として、世界中で行われている。
日本においてもJAMSTECなどがAUVの開発を行っており、これまで同機関のAUVとしての最大潜航深度では、「じんべい」が3000m、「うらしま」が3500mを達成している。しかしこれまで、レアアースを高濃度(総レアアース濃度400ppm以上)で含む深海堆積物であるレアアース泥が存在する南鳥島周辺海域の5500m以深の水深には対応できていなかった(現在「うらしま」は8000m級への改造計画が進められている)。
それに対し、海外メーカーのAUVはカタログ上では水深6000mまで潜航可能としたものがラインナップされている。ただし、5000m以深での運用例が少ないのが実状であり、今回の探査では、米・HIIが開発した6000m級AUV「NGR6000」を用いて、マルチビーム音響測深機(MBES)による海底地形データ、サブボトムプロファイラー(SBP)による海底下浅部地層構造データ、サイドスキャンソナー(SSS)を使った海底面音響画像データの同時取得に加え、運用ノウハウの蓄積も見据えた調査航海を行ったとする。
2023年7月25日から8月11日にかけて実施された今回の調査は、台風7号の影響による計画の変更はあったものの、深海曳航体やROVとは異なり、ケーブルによる行動制限を受けないAUVの強みを活かし、海面のうねりや風浪による影響をほとんど受けることなく、調査の主目的である水深5600mの海底下の鮮明な構造データを得ることに成功したという。
今回の航海では、AUVは海底面から20mの一定高度で安定して潜航。水深5600mの海底を洋上から探査する船舶の観測結果と比べて、数十倍ほど高い解像度が得られることが確認された。JAMSTECによると、この水深の海域でこれほどまでに高解像度・高精度の海底下地質構造のデータが取得された例は過去にないとのことだ。
このような連続した高解像度の地層構造は、レアアース泥を含む堆積層の空間分布を把握するために必要不可欠な情報だとする。また、今回収集された幅100mオーダーの凹凸地形を示す複雑な音響基盤などのデータは、南鳥島周辺海域における深海底の構造発達史などの科学的な考察を行う上でも重要な情報になるとする。
AUVを用いた高解像度音響探査は、広範囲の海域から大水深に存在する海底資源の有望域を特定するために欠かせない技術である。今回の6000m級AUVによる調査を端緒とする深海鉱物資源探査手法の確立によって、精緻な地層構造データとコアサンプルの分析結果との比較・統合が可能となり、今後の南鳥島周辺海域におけるレアアース泥の分布・資源量の精査が飛躍的に加速されることが期待されるといい、またこの調査技術はレアアース泥に限らず、ほかの深海資源探査などへ応用できる可能性も高いと考えられるという。
さらに、AUVの観測によってもたらされる微細地形や海底面の状況の正確な把握は、2025年から予定されているレアアース採鉱における安全性の向上や作業効率の高度化に役立つことが大いに期待されるとしている。