国立天文台(NAOJ)は9月15日、アルマ望遠鏡を用いて、くじら座の方向約5140万光年の距離にある活動銀河核(AGN)「NGC 1068」(M77)の中心領域に対し、波長3mm帯(84GHz~116GHz)で星間ガスの二次元分布を網羅的に観測する「イメージング・ラインサーベイ」を実施したことを発表。AGNの化学特性を調べ、それがどのような物理状態を反映したものであるのかを機械学習を利用して解析した結果、超大質量ブラックホール(SMBH)から双極に噴き出すジェットに起因すると思われる分子ガスの「アウトフロー」を発見したことを報告した。

  • M77の中心部。アルマ望遠鏡で検出されたH13CNの分布が黄、CNの分布が赤、一酸化炭素の同位体(13CO)の分布が青で示されている。

    M77の中心部。アルマ望遠鏡で検出されたH13CNの分布が黄、CNの分布が赤、一酸化炭素の同位体(13CO)の分布が青で示されている(背景はハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたM77の中心部)。H13CNが活動銀河核の中心部のみに集中して存在しているのに対し、13COは主に周辺を取りまくリング状のガス雲に分布している。また、CNは中心部とリング状のガス雲の両方に分布しているだけでなく、中心から北東(左上)方向と南西(右下)方向に向かって伸びた構造をしており、これはSMBHからのジェットに起因する構造と考えられるとした。(c)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope, T. Nakajima et al.(出所:NAOJ Webサイト)

同成果は、日本大学 工学部 客員研究員 兼 NAOJ 特任研究員の斉藤俊貴氏(現・NAOJ アルマプロジェクト 特任助教)、名古屋大学の中島拓助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、2本の論文として米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。(論文1本目論文2本目)

銀河中心核のSMBHの活動が、新しい星々の誕生を加速するのか抑制するのかといった周囲の星間物質に及ぼす影響を知ることは、銀河の進化過程を理解する上で重要だ。活発なSMBHをエンジンとして周囲に膨大なエネルギーを放射しているAGNは、多くの場合、その中心部が濃い星間ガスやダストに埋もれてしまっている。そのため、可視光や赤外線の波長帯では、その構造やそこで起きている物理的・化学的現象を直接的に観測することは困難だった。

こうした観測に適しているのが、星間ガスやダストによる吸収を受けにくいミリ波・サブミリ波などを扱う電波望遠鏡だ。そこで研究チームは今回、高い空間分解能を持つアルマ望遠鏡を用いて、M77の中心核付近に対し、波長3mmの帯域を周波数方向に無バイアスに観測し、そこに含まれる分子輝線を網羅的に探すイメージング・ラインサーベイを実施したという。

そして観測の結果、銀河中心にある差し渡し650光年ほどのサイズの「核周円盤」と、その外側の半径3300光年ほどにある爆発的に星が生まれているリング状のガス雲を明瞭に区別でき、特に核周円盤については、その内部構造まで明確に観測できたとする。

その後研究チームは、有意に検出された23の分子輝線のスペクトルデータを詳細に解析。すると、SMBHの影響を直接的に受けていると考えられる核周円盤では、外側のリング状のガス雲の領域と比べて、シアン化水素(HCN/H13CN)分子や一酸化ケイ素(SiO)分子などの存在量が特に多いことが判明したという。その一方で、NAOJ 野辺山45m望遠鏡による過去の観測では存在量が多いと思われていたシアンラジカル(CN)分子の核周円盤での存在度は、それほど高くないことも明らかになった。

CNは強力なX線や紫外線の照射を受けたガス雲で、SiOは強い衝撃波を受けたガス雲でそれぞれ観測されやすいことが知られている。また、HCNやH13CNは高温の分子雲で生成反応が活発になることが化学反応計算から示されていた。それらを考慮すると、核周円盤へのSMBHの影響として、衝撃波を伴うような力学的な機構によって分子ガスが高温に加熱されている様子が見えていることを示唆しているという。