米AMDは米国時間の9月18日、「EPYC 8004シリーズプロセッサ」を発表した。事前資料を基に、こちらの詳細を説明したい。
EPYC 8004シリーズは元々「Siena」というコード名で2022年6月のFinancial Analyst Dayで初めて発表された(それまでは4th Gen EPYCはGenoa/Genoa-X/Bergamoの3種類だった)もので、今年6月に開催されたData Center and AI Technology Premiereにおけるスライドでは“Telco/Edge Computing(通信/エッジ)向け”と分類されている(Photo01)。
もっともTelco/Edge向けだからといって、何か通信関連のアクセラレータをてんこ盛りにしているという訳では無い。将来的にはそういう方向もあり得る(旧Xilinx系のAdaptive SoCとかPensando由来のSmartNIC SoCをワンパッケージ化する可能性は否定できない)が、とりあえずは確実なソリューションとしてTelco/Edge向けに向いた汎用製品をリリースするという形に収まった(Photo02)。
ベースとなるのはBergamoであるが、コア数は最大64、DDR5も6ch止まりであり、またPCIeも48 Laneに削減されている。当然ながら1P Onlyであり、ただしその分消費電力は70W~225Wと大幅に削減されている。ただCCDそのものはBergamoと同じZen 4cが16コアのものだし、IODはGenoa/Bergamoと共通で、ただし外部へのI/Fを減らした形での実装となっている。この結果として、例えばGenoaと比較した場合には絶対性能は明らかに及ばない訳だが、性能/消費電力比は50%以上向上、そしてTCOは3倍近く改善される、とする(Photo04)。
Telco向けとなるとどうしても数が出る(下手をすると基地局ごとに1セット以上という場合もあり得る)からTCOの削減は至上命題だし、先に書いたように処理の重い部分を外部のアクセラレータに任せるのであれば、絶対性能はそれほど要らないと割り切ることは可能である。そうした思い切りの良い構成という訳だ。提供されるSKUは8/16/24/32/48/64コアの6種類12製品となる(Photo05)。消費電力も下は80W、上も200Wというあたりである。
このモデルナンバーの内訳がPhoto06となる。
ここでNの“NEBS friendly”だが、これはNEBS(Network Equipment Building System)に準拠しやすい事を意味している。NEBSは元々アメリカのBell Labが開発した「電話局に設置する機器に対するガイドライン」であり、アメリカではこれが必須要件とされる事も多いし、各国もこれに準拠したものになっている。NEBSは複数の要件が定義されており、中でもGR-63-COREは地震に対する耐震試験規格の基準として広く利用されていたりするのだが、他にも消費電力に関する基準なども含まれる。最終的にNEBSが議論する対象は機器全体の消費電力であって、CPU単体ではない訳で、それもあって「NEBSに準拠しやすい」プロセッサをラインナップする形になっている。消費電力は10~25W低めで、またcTDPをサポートしないのは設計が面倒になるからだろう。また動作温度範囲が-5℃~85℃と標準品より広めになっているのも特徴だ。価格が標準品とは大きく変わらないのは、恐らく選別品のためだろう。
すでにこのEPYC 8004シリーズを搭載する製品が幾つかラインナップされている(Photo07)。
また性能に関しては、SPECpower_sjj 2008の結果(Photo08)やFFmpegを使っての処理性能比較(Photo09)、SPECrate 2017_int_baseの比較(Photo10)、Apache IoTDBの比較(Photo11)などが示された。
今回のEPYC 8004シリーズは、これまでTelco/Edge向けに使われてきたWhitebox Serverマーケットに本格的に進出するためのまず第一歩である。従来ここはXeonが非常に強かった部分であるわけだが、とりあえずはここでXeonを上回る性能/消費電力比や性能/価格比を持つプロセッサを提供するところまではこれで揃った。ただ現状のXeonの強みはそこよりも、むしろそうしたWhitebox Server上で動くソフトウェアがXeonに向けて作られてきたことにあり、こうしたソフトウェアを今後どこまで充実できるかが鍵になる。とは言えまずはハードを用意しないとソフトの移植も進まない訳で、その意味では大きな一歩と言えるだろう。