産業技術総合研究所(産総研)は9月4日、チタン酸バリウム(BTO)のナノサイズの立方体単結晶(ナノキューブ)単層膜と、多層グラフェン膜の交互積層プロセス技術を開発し、従来の積層セラミックコンデンサ(MLCC)の積層構造に対し、大幅な薄層化を実現したことを発表した。

同成果は、産総研 極限機能材料研究部門の板坂浩樹研究員、同・劉崢上級主任研究員、同・三村憲一主任研究員、同・濱本孝一研究グループ長らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学協会が刊行する応用物理学全般を扱う学術誌「Applied Physics Letters」に掲載された。

  • 開発した積層構造の模式図

    開発した積層構造の模式図(出所:産総研Webサイト)

MLCCは小型電子機器に内蔵される重要な電子部品の1つで、現在のスマートフォンなら1台あたりに約1000個もの同部品が使用されている。MLCCの内部は、誘電層と電極層が交互に積層した構造となっており、小型化と性能の向上のためには各層を薄くして積層数を増やす必要がある。現在のBTOを誘電層とするMLCCは、誘電層の原料となるBTO粉末と電極層の原料となる金属粉末を交互に積層し、1000℃を超える高温で焼き固めるというプロセスで積層構造が形成されている。

しかし、誘電層と電極層が1μmを切る薄さにまで達しており、原料粉末粒子のサイズ(数百nm)に近づいていることや、薄層化による誘電層の絶縁性の低下などの問題もあり、現行の原料粉末および積層プロセスによるさらなる薄層化は限界に近づきつつあるという。そのため、BTO粉末の微細化を進めると共に、MLCCの信頼性を保ちつつ、誘電層と電極層をナノスケールの厚みに薄層化する新規積層プロセス技術が求められていた。

そのような背景の下、MLCCの誘電体層の主要な原料であるBTOの微小粉末の合成技術と、合成した粉末を薄膜化する成膜技術の開発に関する研究に取り組んでいるのが産総研だ。これまで、水熱法によりBTOのナノキューブの合成技術を開発済みで、その上で分散液の溶媒の蒸発に伴う自己組織化を利用することで、BTOナノキューブを二次元的に規則的に配列させた厚み約20nmの単層膜を作製する成膜技術の開発にも成功しているという。

BTOナノキューブは一般的なBTOナノ粒子に比べて結晶性が高く、1000℃未満の比較的低い処理温度でも優れた誘電性を示すことが期待できる材料だ。また、従来のBTO粉末を用いて緻密な膜を作製するためには高温での熱処理を必要としていたが、サイズと形状の均一なBTOナノキューブを規則的に配列させることで、熱処理をすることなく緻密な膜が得られることも確かめられている。今回は、これらの技術により得られるBTOナノキューブ単層膜をMLCC内部の誘電層として応用することを目指し、電極層との交互積層化技術を開発することにしたとする。

今回の研究ではグラフェンの優れた導電性が着目され、電極としてBTOナノキューブ単層膜と組み合わせることで、極めて薄い電極層と誘電層の交互積層構造を作製する方法が考案された。上述の成膜技術により作製されたBTOナノキューブ単層膜を下部電極基板に転写し、その上にシート状の多層グラフェンを転写する工程を交互に繰り返すことで積層構造が作製された。

  • 今回の研究で作製されたグラフェン/BTOナノキューブ単層膜交互積層構造の断面観察画像

    今回の研究で作製されたグラフェン/BTOナノキューブ単層膜交互積層構造の断面観察画像(出所:産総研Webサイト)

作製された積層構造の断面を走査型透過電子顕微鏡で観察したところ、約20nmの均一な厚みのBTOナノキューブ誘電層が形成され、その上に厚み2~3nmの多層グラフェンが積層されているのが確認できたという。従来のBTOを誘電層とするMLCC内部の積層構造(誘電層、電極層ともに最小で数百nm程度)に比べ、誘電層と電極層の厚みをそれぞれ10分の1以下、100分の1以下の薄層化が実現された。

誘電層と電極層の薄層化はMLCCの小型化と性能向上に不可欠だが、同時に、薄層化によって生じるふぞろいなBTO粒子間の隙間に、電極材料である金属が侵入することでリーク電流が発生し、コンデンサの信頼性が低下するという問題が発生してしまう。これまでの、従来の金属電極の代わりに、今回の交互積層構造でも使用した厚み約2~3nmの多層グラフェンを電極層として用いることで、BTO粒子間の隙間への電極材料の侵入によって引き起こされるリーク電流が低減されることがわかっていたとする。このリーク電流の低減効果と併せ、今回開発された技術はMLCC内部の積層構造の薄層化技術におけるブレークスルーとなることが期待できるとした。

今後は、今回作製された積層構造のコンデンサ性能向上に向けた熱処理などのプロセスの最適化を行うと同時に、量産化が可能なプロセスの開発に取り組むことにより、MLCCの飛躍的な小型化や大容量化につながる次世代プロセス技術の実現を目指すとしている。