産業技術総合研究所(産総研)は8月18日、リサイクルが難しい「高機能熱可塑性樹脂」、いわゆる「スーパーエンジニアリングプラスチック」(以下「スーパーエンプラ」)を、直接的に原料物質に分解する技術を開発したことを発表した。

同成果は、産総研 触媒化学融合研究センター ケイ素化学チームの南安規主任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する化学に関する全般を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「JACS Au」に掲載された。

  • 今回の研究の概要。

    今回の研究の概要。(出所:産総研Webサイト)

スーパーエンプラは、耐熱性が高く耐薬品性や機械的強度などの点でも優れた素材だ。その中でも、「ポリスルホン」(PSU)、「ポリエーテルスルホン」(PESU)、「ポリフェニルスルホン」(PPSU)などのポリスルホン樹脂は、医療用品、電子機器部品、食品加工分野など、素材の安全性が求められる製品において広く利活用されている。

しかしその一方で、プラスチックが環境に与える負荷が大きいことから、スーパーエンプラについても環境負荷の少ないリサイクル技術が必要とされている。しかし、高い化学的安定性を有するスーパーエンプラは、分解して原料物質を再生することが困難なことが課題だった。

そうした中で、スーパーエンプラのケミカルリサイクルを念頭に、化学反応を用いた分解反応の研究を進めてきたのが研究チームだ。今回の研究では、ポリスルホン樹脂がその構造中にビスフェノール類の分子、特に「ビスフェノールS型」の骨格を有する点に注目したという。

ビスフェノールSはPESUの原料であり、さらに水酸基を変換することにより、さまざまなポリスルホン樹脂の原料としても利用可能だ。そのことから、ポリスルホン樹脂を分解し、ビスフェノール類を効率よく得ることができれば、同樹脂のケミカルリサイクルに応用可能だと考察。そこで、ポリスルホン樹脂からビスフェノール類を効率よく生成するために、PSUやPESU、PPSUの炭素‐酸素結合を選択的に切断する新たな解重合反応を開発したとする。

今回の研究で着目されたのが、高い塩基性を有し、ヒドロキシ基を与える求核剤である水酸化アルカリだ。PSUを同アルカリで解重合できれば、ビスフェノールSと「ビスフェノールA」が得られるという。一方で、水酸化アルカリを用いた解重合反応により水が生成され、その水によって反応効率が低下することが予測されたため、適切な反応条件を見出す必要があったとする。

こうした構想のもと、2mm程度のペレット状のPSUを、安定な高沸点溶媒の「1,3‐ジメチル‐2‐イミダゾリジノン」(DMI)中、求核剤の「水酸化セシウム」と脱水剤である「水素化カルシウム」を適切な比率で混合し、150℃で攪拌することによって、選択的に解重合反応を進行させることに成功したとのこと。これは、通常のプラスチックのガス化温度の600℃以上、熱分解温度の400℃~500℃、亜臨界水を用いた分解温度(250℃程度)よりもはるかに低い温度となる。

そして、PSUに対して19時間の反応後に抽出操作を行うことにより、PSUやポリカーボネートなどを、ビスフェノールSとビスフェノールAとに分離回収できるとする。加えて、ビスフェノールSの水酸基を変換することにより、PSUのもう1つの原料となるモノマーのビスフェノール類分子「ビス(4‐フルオロフェニル)スルホン」も合成可能だという。このモノマーはPSUに加え、PESUやPPSUの原料、および各種有機製品の原料にもなる。このことから研究チームは、今回の手法がPSUのアップサイクル法にもなり得るとしている。

  • PSUのビスフェノールへの解重合。※原論文の図を引用・改変したものが使用されている。

    PSUのビスフェノールへの解重合。※原論文の図を引用・改変したものが使用されている。(出所:産総研Webサイト)

また、脱水剤として水素化カルシウムを必要としない反応条件や、高価な水酸化セシウムの代わりに水酸化カリウムを用いる反応条件などについても調査を実施。すると反応効率は低下したが、解重合反応が進行することも確認されたとする。

今回確認された解重合反応は、PSU以外のポリスルホン樹脂、あるいは「ポリエーテルエーテルスルホン」、「ポリエーテルエーテルケトン」などにも適用可能だ。たとえば、PESUに対し適量の水酸化セシウムとDMIを用いて150℃で4時間反応させると、ビスフェノールSが収率90%以上で得られるという。さらに、市販のPPSU製哺乳瓶を細かく裁断し、適量の水酸化セシウムと水素化カルシウム、DMIを用いて解重合すると、ビスフェノールSと「4,4’‐ジヒドロキシビフェニル」を含む解重合混合物が得られることが実証された。

  • PESU、PPSUのビスフェノールへの解重合。※原論文の図を引用・改変したものが使用されている。

    PESU、PPSUのビスフェノールへの解重合。※原論文の図を引用・改変したものが使用されている。(出所:産総研Webサイト)

今回の研究により、さまざまなスーパーエンプラの解重合反応が見出され、それぞれのモノマーとなるビスフェノール類を回収できることが判明した。研究チームは今回の研究成果をもとに、プラスチックをリサイクルする社会の実現に向けて、解重合反応の改良、解重合反応に適した触媒の開発、スーパーエンプラ以外の難分解性プラスチックの解重合反応を開発し、社会実装を目指すとしている。