経済産業省(経産省)傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は8月9日、政府が目指す「2050年カーボンニュートラル」を実現するために、新たに「製造分野における熱プロセスの脱炭素化」プロジェクトを開始することを発表した。

今回、目指す熱プロセスの脱炭素化とは、具体的には「カーボンニュートラル対応工業炉に関する共通基盤技術の開発」、「金属製品を取り扱うアンモニア燃焼工業炉の技術確立」、「金属製品を取り扱う水素燃焼工業炉の技術開発」、「電気炉の受電設備容量等の低減・高効率化に関する技術の確立」の4テーマの研究開発とその実証を目指す研究開発プロジェクトを始めることを指している。今回の研究開発とその実証によって、「カーボンニュートラル対応型の工業炉を実現させ、脱炭素化を強力に実現させる有力な手段を入手することを目指す」と、グリーンイノベーション基金事業をさらに拡充することを図る意向だ。

今回の「製造分野における熱プロセスの脱炭素化」には、まず研究開発予算として304.1億円が投じられる(実施期間は2023年度から2031年度の予定)。この実施期間の2023年度から2031年度の途中には、2028年度までにステージゲート審査を行い、その研究開発成果の達成度や計画見直しなどを行う計画だ。

日本政府は2020年10月、「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする目標を掲げ、その具体的な対応策を実現させる研究開発とその実施策として、経産省がNEDOにグリーンイノベーション基金事業(総額2兆円)を設けていた。今回の「製造業における熱プロセスの脱炭素化」プロジェクトは、そのグリーンイノベーション基金事業の取り組みの延長線上にある。

具体的には同基金事業に、令和4年度(2022年度)の第2次補正予算から3000億円が積み増しされ、さらに令和5年度(2023年度)の当初予算によって4564億円が積み増しされており、「今回のグリーンイノベーション基金事業の拡充策が実行される運びになった」と、担当する省エネルギー部は説明する。

筆者注:グリーンイノベーション基金事業の全体については、NEDOのグリーンイノベーション基金事業統括室が担当している

日本のCO2排出量の約30%を製造業が占めているという現実の中で、特に金属を加熱する熱プロセスを担う工業炉がCO2を多く排出しているとされている。工業炉は燃料を燃やす工業炉と、電気で加熱する電気炉の2種類があるが、このうち天然ガスなどを燃料とする工業炉に対し、燃焼時にCO2を出さないアンモニア(NH3)や水素(H2)を燃やす工業炉の実用化に向け、プロジェクトでは、「製造分野の熱プロセスの脱炭素化」をテーマに、その研究開発に取り組む企業や研究開発機関を募集した結果、「脱炭素産業熱システム技術研究組合」を幹事機関とし、中外炉工業、三建産業、ロザイ工業、IHI機械システム、関東冶金工業、富士電子工業、東京ガス、キャタラーが参加するコンソーシアムを実施予定者として採択したと公表している。

  • 製造分野の熱プロセスの脱炭素化を研究開発する脱炭素産業熱システム技術研究組合とその参加企業

    製造分野の熱プロセスの脱炭素化を研究開発する脱炭素産業熱システム技術研究組合とその参加企業 (出所:NEDO)

なお、同コンソーシアムでは、「カーボンニュートラル対応工業炉に関する共通基盤技術の開発」、「金属製品を取り扱うアンモニア燃焼工業炉の技術確立」、「金属製品を取り扱う水素燃焼工業炉の技術確立」、「電気炉の受電設備容量等の低減・高効率化に関する技術の確立」の4つの研究開発項目を担当する予定だという。