JR西日本 デジタルソリューション本部 システムマネジメント部 担当部長 兼 グループEC事業準備室長 小山秀一氏

JR西日本 デジタルソリューション本部 システムマネジメント部 担当部長 兼 グループEC事業準備室長 小山秀一氏

JR西日本では、コロナ後の新しいビジネスモデルの検討を開始し、デジタルソリューション本部という新組織を立ち上げ、CRM環境の再構築に取り組んだ。

その内容を、同社 デジタルソリューション本部 システムマネジメント部 担当部長 兼 グループEC事業準備室長である小山秀一氏が、7月に開催された「Salesforce World Tour Tokyo 2023」で説明した。

本稿では、小山氏の講演の模様を紹介しよう。

新領域を手掛ける「デジタルソリューション本部」を立ち上げ

同社は、2020年からのコロナ禍において、運輸、物販、飲食、ショッピングセンター、ホテル、旅行業などのすべて事業が移動需要の喪失に伴い、総崩れという状況になったという。このような急激な環境変化に対して、代表取締役社長兼執行役員である長谷川一明氏は、「コロナ後における新しいJR西日本の姿を検討せよ」と指示し、20人の社内プロジェクトチームが発足した。

プロジェクトチームでは、3カ月ほどの議論の末、既存事業の構造改革に最優先で取り組みつつも、「移動に頼らないビジネスモデルの構築」、「従来の成長モデルの磨き込みによる高付加価値化と新たな移動の創出」を実施する結論を導き出したという。

  • プロジェクトチームが導き出した打ち手の方向性

    プロジェクトチームが導き出した打ち手の方向性 出典:JR西日本

「新しい領域に打って出るにあたっては、いかに従来のやり方にとらわれず、あらゆる手段を駆使して迅速に施策を実行し、手数を増やして成功の種を見つけることを重視してアプローチを検討しました。その結果、中心にデジタル技術、データ活用を据えて変革に挑戦していこうという結論に至りました」と小山氏は説明した。

同社では、これらを推進するための新たな組織として「デジタルソリューション本部」を2020年11月に立ち上げ、戦略の軸として「顧客体験の再構築」、「鉄道システムの再構築」、「従業員体験(働き方の)再構築」の3つの再構築に取り組んだ。

ライフデザイン分野における売上比率を全体の40%程度に

さらに同社は、今年4月に新中期経営計画を発表。同計画では、大阪関西万博などの大きなイベントを契機として、着実に地域の成長に貢献し、2027年にはコロナ前の水準まで収益を回復させることを目標にしている。

さらに、街づくりにデジタルサービスを掛け合わせた価値創出を図っていくことで、ライフデザイン分野における売上比率を全体の40%程度まで拡大していくという目標を掲げている。

  • 中期計画における長期ビジョン実現へのチャレンジ

    中期計画における長期ビジョン実現へのチャレンジ 出典:JR西日本

それに向け同社は、移動のみならず、暮らしをより豊かに快適にしていくことを目的として、ショッピング、ビジネス、観光、日々の暮らしなどに彩りを添えるサービスを用意していくという方針で、各種施策に取り組んでいる。

中でも最近注力している施策は、JR西日本グループ共通ポイントサービス「WESTERポイント」だ。「WESTERポイント」の成長に向け、モバイルICOCAなどの決済サービスを強化していくほか、顧客にお得で楽しい消費体験を提供するため、グループ各社のサービス群をデジタル上で整備していく。

  • デジタル戦略による多様なサービスを展開

    デジタル戦略による多様なサービスを展開(出典:JR西日本)

そうしたサービスの一つである「WESTER」アプリでは、鉄道に限らずさまざまな移動手段を駆け合わせた経路検索機能、AIを搭載したスタンプラリー、行き先をサイコロの出た目で決めるという偶発的な旅行を提供するサイコロ切符という機能を提供している。

また「tabiwa」というアプリでは、デジタルチケット一つで切符代わりに移動でき、観光施設を周遊できる機能を搭載している。

  • 「WESTER」アプリと「tabiwa」アプリ

    「WESTER」アプリと「tabiwa」アプリ(出典:JR西日本)

CRMを再構築、成果と反省点は?

これら施策を支えるシステム基盤がCRMだ。

同社グループの以前のCRMデータは、グループ各社でバラバラで、分析リソースも乏しく、施策実行も力技になり、長いリードタイムが必要だったという。そこで、これらを解決するための手段として、データを統合する基盤をSalesforceで構築。各社の分析者に対しては、検討段階からデータを可視化して、利用可能な環境を整備。施策実行はマーケティング・オートメーションで自動化し、顧客接点はアプリでワンストップ行う構想で進めた。

これを繰り返すことで徐々に顧客理解を深め、2025年度には個人のリアルタイムレコメンドなど、AIを活用してライフスタイルに寄り沿った自然な心地よさを感じてもらえるようなサービスを万博開催のタイミングで関西から提供していく。

「これまでマスマーケットに対して施策を実行してきましたが、第一歩としてIDを一つにし、データをひも付けて統合するところからスタートしました。あわせて、データも取得できたものから少しずつ可視化して、小規模でもクイックにマーケティング・オートメーションを使いながら仮説検証が行えるようにしました」(小川氏)

  • CRM上の機能と利用イメージ

    CRM上の機能と利用イメージ 出典:JR西日本

ただ、CRMの再構築では反省点もあるという。

検討初期、単純に「グループで共通化して施策を実行しよう」というプレゼンテーションを行っため、各社からは自主的な顧客基盤が台なしになるとの懸念の声が多数出たという。

そこで、個社起点と事業横断起点という2つの施策に分割し、個社においては既存顧客のエンゲージメントをまず優先し、事業横断側はサービスの組み合わせにより、新たな顧客を把握する点や、一連の体験とを作り上げて体験価値を向上することに重点を置いた。

  • 個社起点と事業横断起点

    個社起点と事業横断起点 出典:JR西日本

「結果的に、グループとしてのロイヤリティ向上に重きを置くために分担し、相互に連携していくという絵を描きました。将来の拡張を見据え、分析にTableauを導入して施策の立案、計画確定までを行い、実行手段としてマーケティング クラウド エンゲージメントを活用することで、一気通貫のPDCA関係を構築できるという構想を描いています」(小川氏)

  • 実現に向けたロードマップ

    実現に向けたロードマップ 出典:JR西日本

今後はレコメンドエンジンの活用、SNSの広告最適化などへの拡張も検討している。また、街、社会とのつながりを進化させ、心を動かす、未来を動かすを実現するためにCRMに取り組むという。そのためには、これまで以上に生活に密着した環境を作るため、新たな決済サービスの導入なども構想として考えているとのことだ。

  • 今後、目指す姿

    今後、目指す姿 出典:JR西日本