セールスフォース・ジャパンは7月19日、年次イベント「Salesforce World Tour Tokyo / AI、データとCRMがビジネスの未来を創る」を7月20日・21日の2日間にわたって開催することに先駆け、メディア向けにSalesforceの各種製品や最新イノベーションについて紹介する、記者向け事前ブリーフィングを実施した。
ブリーフィングには、セールスフォース・ジャパン 代表取締役会長 兼 社長の小出伸一氏、同社の専務執行役員 カスタマーサクセス統括本部 統括本部長の宮田要氏、同社のマーケティング統括本部 プロダクトマーケティング シニアディレクターの松尾吏氏が登壇。三氏はリアルタイムでパーソナライズされた顧客体験をより優れた信頼性と安全性で実現する機能や、Salesforceの生成AI関連サービスの紹介など、次世代CRMの最新イノベーションについて説明した。
「Salesforce World Tour Tokyo 2023」では、顧客・従業員・パートナーとより深くつながるための、ビジネスにおけるAIやデータの活用方法など、最新のテクノロジーや顧客事例が紹介される。
信頼できるデータの2つの要件は「データの質」と「データの管理」
開会の挨拶を述べた小出氏の次に登壇した宮田氏は、パブリッククラウド用のインフラ「Hyperforce」上でSalesforce Data CloudとSalesforce Marketing Cloud Engagement(Engagement)が、2024年1月までに国内で利用可能になることを発表した。
「お客様が信頼して利用できるサービスを提供することが私たちの使命であり、とても大切な事だと考えています。AIを活用する上で、前提となるのは『信頼できるデータ』の存在です。私たちは、信頼できるデータには2つの要件があると考えています。1つは『データの質』というデータ自体に関すること、もう1つは『データの管理』や『データの保護』というデータの取り扱いに関することです。本日発表する内容は、この信頼できるデータを実現するセールスフォースの取り組みを強化するものです」(宮田氏)
宮田氏によると、Data CloudとEngagementが国内で利用可能になることで、CRMにおいて生成AIを活用してリアルタイムのカスタマーエンゲージメントを強化し、よりパーソナライズされた価値のある顧客体験を提供できるようになるという。また、Hyperforceを利用することで、企業は国内にデータを保存し、コンプライアンス、拡張性、可用性、俊敏性といった利点を享受するための選択肢を得られるようになるそうだ。
Data Cloudは信頼できる唯一の情報源(SSOT:Single Source of Truth)を構築し、エンゲージメント、アナリティクス、機械学習、アクションにつなげるための単一の統合されたビューを提供する。この独自のデータ基盤は、調整・一体化済みの一元的な顧客プロファイルを作成し、Real-time AutomationとReal-time Einstein AIによって次世代Customer 360製品全体にわたって、顧客ごとにパーソナライズされたサービスの提供を支援するため、企業は顧客を中心に据えることが可能になるという。
Data Cloudを利用することで、企業はビッグデータを最大限に活用し、あらゆるチャネルやタッチポイントにおいてリアルタイムで顧客との関係を築くことが可能。また、Data Cloudは信頼性の高いHyperforce上にネイティブに構築されていて、かつ、セキュリティ要件や拡張性要件を満たしており、日本企業は日本でホストされているData Cloudを利用できることになる。
「Engagementは、マーケティング担当者がAIを活用してパーソナライズされたマルチチャネルキャンペーンを実施し、顧客と長期的な関係を築くために役立ちます。Data CloudとEngagementを組み合わせて利用すると、すべてのメッセージがそれぞれの最終顧客との文脈に沿ってパーソナライズされるため、一つひとつの顧客インタラクションがより有益なものとなります。それと同時に、Data Cloudと Engagementによって、スマートデータと強力なメッセージング・プラットフォームが組み合わさることで、マーケティング活動を促進し、マーケティングのROIを全体的に改善することができます」(宮田氏)
Hyperforceは、Salesforceのパブリッククラウド向けインフラストラクチャアーキテクチャを再構築したもので「信頼性」を提供する。現在、データのセキュリティと保管がますます重視されるようになり、規制の厳しい業界においては地域の企業にとってもグローバル企業にとっても現地にデータを保管することが求められるようになっている。そうした中、Hyperforceによって、規制の厳しい業界に属する日本のグローバル企業も、日本を含む各国の要件に対応するための選択肢を得られるようになるという。
AIは「あれば便利なもの」から「企業の成功になくてはならないもの」へ
最後に登壇した松尾氏は「Salesforceの生成AIの取り組み」を紹介した。
「多くの経営者がAIへの投資、そして戦略におけるAIの必要性を認識しています。多くの企業がAIに関して『どう活用すれば良いか』を検討し始めている段階だと思います。これまで従業員が当たり前のように行っていた手間がかかる作業や時間のかかるタスクについて、AIを利用することで生産性を上げ、顧客対応の時間を短縮し、また顧客体験を変えていく。こういったことに、AIはますます活用されていくことになります。AIは『あれば便利なもの』から『企業の成功になくてはならないもの』に変化していくと考えています」(松尾氏)
しかし松尾氏は、AIの信頼性には5つの代表的な懸念点があると指摘した。
「1つ目は個人情報を含む『プライバシー』に関する懸念です。個人情報がどこまで学習に使われるかなどの懸念を持つ方が多く存在します。2つ目は生成AIが生成するもっともらしい嘘を意味する『ハルシネーション』です。公開されている生成AIは、与えられたデータや学習されたデータから出力しているにすぎないため、その回答が真実かどうかを判断しているわけではありません。そのため、あたかも真実のように生成された嘘の可能性やリスクがあります。残りの3つの懸念点は、『データコントロール』『バイアス』『有害性』です」(松尾氏)
セールスフォースのAIは、最近始まったものではなく、「salesforce Einstein」というCRM向けに「信頼できるAI」として2016年から提供しており、提供開始から約10年もの間、開発と改善を繰り返してきたという。
加えて、セールスフォースは生成AIに関しても製品の機能を拡充していく方針だという。そして生成AIを効果的に活用するために「信頼」「データ」「アプリケーション」という3つの柱の下で、施策を進めていくという展望を明かした。