理化学研究所(理研)は8月1日、2つのジョセフソン接合がコヒーレント結合した際に、一方の電流方向のみで電圧が生じる「超伝導ダイオード効果」が発現することを発見したと発表した。
同成果は、理研 創発物性科学研究センター 量子機能システム研究グループの松尾貞茂研究員、同・樽茶清悟グループディレクター、米・パデュー大学のマイケル・マンフラ教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の物理学全般を扱う学術誌「Nature Physics」に掲載された。
2つの超伝導体の間に絶縁体もしくは伝導体が挟まれたジョセフソン接合は、電極間に超伝導電流が流れることを特徴とし、量子コンピュータ技術などにおいて重要な役割を果たしている。そして2つのジョセフソン接合をコヒーレントに結合させた素子では、単一の同接合が持ち得ない、もしくは実現が難しい特性を作り出すことができると期待されている。
松尾研究員らのこれまでの研究から、隣接したジョセフソン接合において、コヒーレント結合が形成されるという実験的証拠が明らかにされていた。しかし、コヒーレント結合の導入によって超伝導素子の新しい特性を発現できるのかという点については不明だったとする。
そこで研究チームは今回、マンフラ教授らが作製したインジウムヒ素の半導体基板上に、超伝導体としてアルミニウムを用い、1つの超伝導電極を共有する2つのジョセフソン接合(JJ1とJJ2)の電子素子を作製し、詳細を調べたという。
同素子の特徴は、JJ2が超伝導体のループ内に埋め込まれた構造になっていることだ。ジョセフソン接合を流れる超伝導電流の大きさは、2つの超伝導電極間の位相の差に依存して変化する。この位相差は超伝導ループ内を貫く磁場によって決まっているため、超伝導ループ内の接合であるJJ2の位相差を磁場の大きさで制御することが可能だ。そこで研究チームは、磁場を制御しながら、つまりループ内のJJ2の位相差を制御しながら、極低温10mK(約-273℃)において、ループの外にあるJJ1における電子輸送を測定したとする。
そしてその測定結果から、電流を0から掃引した時にJJ1の電圧が有限になる電流値(臨界電流)について、電流方向が正および負の場合について絶対値での評価が行われた。まず、JJ1の臨界電流の絶対値が磁場に対して周期的に振動している様子が観測されたが、これは、JJ1とJJ2がコヒーレント結合していることを意味している。
また、正負それぞれの臨界電流の絶対値が異なる磁場領域が系統的に現れたという。正負の臨界電流の絶対値が異なることは、超伝導ダイオード効果が発現していることを意味しており、JJ2の位相差の制御により同効果の発現が可能であることが明らかにされた。特に、臨界電流の絶対値が小さくなる磁場領域の付近において、同効果が強く発現していたという。さらに磁場の掃引によって、系統的に臨界電流の絶対値の大小関係が反転する様子が観測されたとする。