いちい、岡山理科大学、NTT東日本は、完全閉鎖循環式陸上養殖のビジネス化に向けた実証プロジェクトを2022年1月21日より開始。その進捗に関する記者会見を2023年7月20日に開催した。

同実証プロジェクトは、岡山理科大学保有技術の好適環境水・養殖ノウハウと養殖プラントシステム、NTT東日本グループの持つICTを組み合わせることで、ベニザケ生育速度の向上、生産に関わる作業の効率化・最適化・自動化、陸上養殖に最適な設備構築を検討・実証するもの。

生産段階のみの評価では終わらせず、水揚げ後の加工・流通・販売における評価も福島県内のいちい店舗での販売を通じて実施し、トータルバリューチェーン全体の観点からビジネス化に向けた評価・検討を行う。7月21日より、ICHII'S ロシナンテ MARKET 福島西店にて養殖したベニザケの試験販売が行われることになり、今回の記者会見が開催された。

記者会見には、いちい 代表取締役社長の伊藤信弘氏、岡山理科大学 学長の平野博之氏、NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員の澁谷直樹氏が登壇。プロジェクトの成果報告や陸上養殖のプラントの概要などが紹介された。

  • 左より、NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員 澁谷直樹氏、いちい 代表取締役社長 伊藤信弘社長、岡山理科大学 学長 平野博之氏

「創業は魚屋」と語る、福島でスーパーマケットを中心とした事業を展開する、いちいの伊藤社長は、震災以降、デリケートになっている魚の扱いや環境問題、燃料代、円安などの観点から、厳しい商売になっている現状を明かした。

そして、「将来的には自分たちで魚を作っていかなければならないのではないか」という冗談のような話が、今回のプロジェクトにつながったと振り返った。今回、同氏はこれまで世界的にも成功例がなかったベニザケの陸上養殖にチャレンジし、店頭販売にこぎつけたことに安堵の表情を浮かべながら、「安心・安全な環境で育った魚です」と自信をのぞかせた。

  • いちい 代表取締役社長 伊藤信弘氏

陸上養殖の鍵を握る“好適環境水”の提供や、養殖プラントの構築、飼育技術やノウハウの提供を行う岡山理科大学の平野学長は、海水魚と淡水魚を分け隔てなく、同じ水槽の中で飼育できる好適環境水の強みを紹介。

好適環境水は、海水の中から、海の魚に必要な成分をナトリウム、カリウム、カルシウムなどに絞り込んだ人工飼育水で、魚だけでなく、野菜の安定供給にもつながると、この先の展望を明かした。さらに、SDGsの観点からも、同技術は非常に親和性が高く、画期的で、夢のような技術であると強調した。

  • 岡山理科大学 学長 平野博之氏

NTT東日本の澁谷社長は、ちょうど震災の時期に福島支店長として復旧活動や復興活動に関わっていた当時を振り返りながら、新しい産業を興せる可能性がある画期的なプロジェクトを福島で発表できることについて「感無量です」と笑顔を見せた。

澁谷社長は「グループ会社であるNTTアグリテクノロジーを中心に、一次産業の担い手不足や食の安定供給などの問題をデジタル技術やICTを活用しながらサポートしていきたい」として、農業だけでなく、漁業にも力を入れ、日本発の技術として、いつか海外にも展開していきたいとの抱負を語った。

  • NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員 澁谷直樹氏