東日本電信電話(以下、NTT東日本)は5月12日、2022年度の決算と2023年度の業績予想を発表した。2022年度の営業収益は前年度比で158億円減となる1兆7022億円だったものの、営業利益は前年度比で65億円増の2854億円で11期連続の増益、かつ過去最高益となった。

2022年度決算、11期連続で増益

営業収益の内訳を見ると、東京2020大会関連の反動を受けて固定音声関連(専用線)が315億円減となった。また、Wi-Fiの大口顧客の解約などもあったという。高付加価値サービスの拡大や不動産の売却などを実施したものの、結果的に158億円減となっている。

  • NTT東日本の2022年度決算概況

    NTT東日本の2022年度決算概況

営業費用には、燃料費の高騰に伴う電気料金の値上げが響いた。電気料金だけでも187億円の増加となり、大きな影響を与えたという。一方で、エヌ・ティ・ティ・ブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)の減損損失や販売経費の効率化により、223億円の減額に成功している。

NTT東日本社長の澁谷直樹氏は「全社的にDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを進めている結果がようやく出始めている。営業費用を何とか減らすことができた結果、営業利益は前年度比で65億円増の2854億円となった」と振り返った。

  • NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員 澁谷直樹氏

    NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員 澁谷直樹氏

2023年度は引き続き12期連続の増益を目指す。特に中小企業向けの高付加価値サービスと、政府・自治体向けのクラウドサービスで拡大を図る構えだ。コンタクトセンターなどのBPO(Business process outsourcing:外部への業務委託)事業も順調に伸びているという。

10ギガビット / 秒の高速サービス「フレッツ光クロス」、法人向けの2回線目の利用など、フレッツ光サービスの需要も高まっている。これを受けて、フレッツ光純増数は20万件を見込む。

  • 2023年度の業績予想

    2023年度の業績予想

澁谷氏は「今年度までにDXによって2万人の人員を削減する目標を立てていたが、実際は2万4000人を削減しており、目標を上回るほどDXの成果を上げている。この人員はクラウドや農業など新しい成長戦略分野にシフトしつつあり、今年度中には新しい成長戦略分野の人員数と設備投資が全体の50%を超える見込み」と述べた。

先行的に設備投資や人材を新たな成長戦略分野へと投入することで、2025年度までにこれらの分野の売り上げも全体の50%以上となるよう、拡大を図るとのことだ。澁谷氏は、経営目標として回線に依存しない収益構造を掲げた。

  • 循環型の地域社会に資する取り組みを拡大する

    循環型の地域社会に資する取り組みを拡大する

地域社会のエンジニアリングを支える新会社を設立

NTT東日本は今後、スマートインフラや農業、産業、観光、防災など、循環型の地域社会を支えるための基盤づくりを進める考えだ。そのためにも、まずは足元のネットワーク信頼性の向上に資する取り組みを強化する。具体的には、以下の4点に取り組む。

デジタル社会を支えるアクセスネットワークの進化

時代の要請に対応するネットワークを展開するために、今年度中に幅広いサービスの提供を開始する。マスユーザー向けには今年3月にIP電話サービス「ひかり電話ネクスト」を提供開始しているが、これに加えて今後ワイヤレスの固定電話サービスもリリースする予定だ。メタルサービスのマイグレーションを加速する。

また、自治体や法人からのリモートワーク需要の高まりを受けて、無線を含めたアクセスサービスを展開する。例えば、2020年から提供しているシンクライアント型VPNを活用した「シン・テレワークシステム」について、今後さらに機能を拡充する方針。

データセンター事業者やハイパースケーラに対しては、3月に発表した「APN IOWN1.0」および端末装置「OTN Anywhere」を先駆けて発表している。今後は、データセンター間を光ファイバー網で直接つなぐようなレディメイド型の通信サービスも展開する予定だという。その他、信頼性を向上させるために、光ファイバーをループ状で提供する多段光ループアクセスも検討中だ。

  • ネットワークサービスの展開

    ネットワークサービスの展開

お客様のオンプレミス環境を支える統合マネージドサービス

ネットワークに加えて、オンプレミス環境の支援も強化する。農場や工場、空港などでIoT(Internet of Things:モノのインターネット)端末の導入が進む中で、特にIT管理者の不足が懸念される中堅・中小企業向けのサービスを拡大する。

そこで、有線および無線を含めたアクセスサービスやデバイスを含めたLAN環境の情報を一元化して支援する「マネージドLAN」サービスを、6月から提供開始する予定だ。まずはIT管理者の問い合わせ対応業務の代行などを実施するプロアクティブサポートから開始し、ダッシュボード機能などを順次追加する。

「当社の強みである現場密着型のエンジニアリングを生かして、お客様の高度化するデジタル環境を支えたい」(澁谷氏)

  • マネージドLANを提供開始する

    マネージドLANを提供開始する

地域社会のレジリエンスを支えるエンジニアリング

NTT東日本は、道路や橋梁などのインフラにおいても現場密着型のエンジニアリングを発揮する。ドローンや画像処理技術を活用した次世代インフラ点検によるスマートインフラ、自治体向けの防災コンサルティング、脱炭素に向けた自然エネルギーの活用などに取り組む。

特に人材不足が進む地域社会を支えるために、同社グループの人材を終結して、2023年10月をめどに総合エンジニアリング会社を立ち上げる計画だ。既存のNTT-MEを基盤としながら、全国約1万人の人材を集約して設備のシェアや運用BPOを手掛ける。

  • 地域を支えるエンジニアリング会社を新設するという

    地域を支えるエンジニアリング会社を新設するという

日本のインフラを支えるネットワークのさらなる信頼性向上

さきごろNTT東・西に発生した通信障害は、機器メーカーも未確認の不具合が原因だった。こうした経験も踏まえて、ネットワークの信頼性を高めるために業界横断的な取り組みを進める。通信機器メーカーと協力したリスクの洗い出しや検証を強化する。

また、ネットワークの保守・運用にAI(Artificial Intelligence:人工知能)やドローンなどの先端技術を取り入れて強化を図るほか、外部の有識者を交えたクオリティアシュアランスチームの立ち上げおよびガバナンスの強化なども実施する。ここで得られた知見やノウハウはホワイトペーパーなどでオープンに公開し、インフラ業界全体の信頼性向上に寄与する方針だ。

  • 業界全体の信頼性向上を目指すという

    業界全体の信頼性向上を目指すという