東京大学(東大)は7月21日、産業用として幅広く利用されている重要な溶媒だが、生体に対して毒性のある分子「N,N-ジメチルホルムアミド」(DMF)の水溶液内における選択的なセンシング原理を開拓したことを発表した。

  • 今回の研究で開発された分子センサのイメージ。

    今回の研究で開発された分子センサのイメージ。(出所:東大Webサイト)

同成果は、大阪公立大学 工学研究科の桐谷乃輔准教授(現・東大大学院 総合文化研究科 准教授)、同・藤村紀文教授、同・池野豪一准教授、同・福井暁人大学院生(研究当時)、慶應義塾大学の尾上弘晃教授、物質・材料研究機構の長田貴弘グループリーダー、北海道大学の土方優特任准教授(研究当時)らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するさまざまな分野の境界におけるナノサイエンスとナノテクノロジーに関する包括的な内容を扱う学術誌「ACS NANO」に掲載された。

DMFは、アクリル繊維やウレタン繊維の紡糸、人工皮革、有機合成の溶媒として広く使用されている重要な溶媒の1つだ。それに加え工業的にも重要であり、たとえば、医薬・農薬産業におけるペプチドカップリング、セルロースのアセチル化触媒、ブタジエン、アセチレン、エチレン、プロピレン、硫化水素、NO2ガスの吸収剤としても使用されている。

しかしこのDMFは、人体に容易に吸収され、肝臓において強い毒性を持つ「N-メチルホルムアミド」へと代謝されることに加え、濃度1v/v%以上で細胞の約半数が死滅(LD50)する細胞毒性があるとの報告もあるという。そのため、溶液夾雑下におけるDMF分子のリアルタイム・モニタリングは重要な課題だとする。

一般に、DMF溶媒は明確な酸化還元活性能を示さないことが報告されている。つまり、電気化学的な方法は、溶液環境中のDMF濃度のモニタリングには直接適用できないという。これまで、ナノ材料を用いた溶液内のDMF分子を検出した報告はあるが、溶液中のDMF分子をリアルタイムでモニタリングするためには、溶液が連続的に循環する環境下において、機械的・化学的な堅牢性が課題となるとする。またそれに加え、溶液ベースのセンサとして展開するためには、1v/v%などの高濃度のDMFまで測定できることが望ましいという。そこで研究チームは今回、水溶液中のDMFを選択的かつリアルタイムでモニタリングするコンセプトを提案したとする。

研究チームはまず、2次元半導体をチャネル材料として用いた電界効果トランジスタを作製した。それをマイクロ流体デバイス内に組み込み、溶液を連続的に入れ替え、溶液内分子を検出できるシステムを構築したとする。同システムを用いることで、DMF分子のリアルタイムモニタリングへの可能性が示唆された上、作製された2次元半導体トランジスタは、DMF分子への特異的な応答性を有することも示唆されたとしている。

  • 2次元半導体MoS2の電界効果トランジスタを内部に有するマイクロ流体デバイスの模式図と、DMF分子とMoS2表面の相互作用の模式図。

    2次元半導体MoS2の電界効果トランジスタを内部に有するマイクロ流体デバイスの模式図と、DMF分子とMoS2表面の相互作用の模式図。(出所:東大Webサイト)

その特異的な相互作用は、2次元半導体「MoS2」(二硫化モリブデン)面内の酸素置換サイトと、アミド基のプロトンを介した水素結合による配向であると考えられるという。そしてこのような配向状態は、MoS2表面に欠陥部位がない場合には得られないことも示唆されたとのこと。つまり、化学的に組成の崩れた非理想性的な欠陥サイトを持つ表面において、DMF分子の特異なセンシングへとつながっていることが考えられるとする。

研究チームは今回の研究成果について、2次元半導体における欠陥部位を応用することにより、シンプルかつ選択性の高い分子センサ構築につながるコンセプトを提案するものとする。そして今回のコンセプトを応用することで、DMF分子に限らず、酸化還元活性能を持たないほかの分子種に対しても、センサの構築が可能になるものと考えているとしている。