アマゾン ウェブ サービス(AWS)ジャパンは7月20日、中堅・中小企業向け事業戦略記者説明会を開催した。執行役員 広域事業統括本部 統括本部長 原田洋次氏は、中堅・中小企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むにあたり、人材・知識・資金・経験・経営者の意識の不足を課題としており、同社はこうしたユーザー課題を解決するサービスを作り上げていると説明した。
中堅・中小企業支援における5つのポイント
同社はこれまで、中堅・中小企業の支援として、「人材育成」「最新テクノロジーの取得」「無料利用枠・クレジット」「パートナー連携」を行ってきた。ここにきて、施策の強化を図るとともに、新たな支援を開始したという。
以下、提供を開始した支援および強化した施策について、5点紹介する。
クラウド移行支援パッケージ「ITX Lite」提供
大規模企業向けに提供していたクラウド移行支援パッケージ「ITX」を中堅・中小企業のニーズに即した形にした「ITX Lite」の提供が今年4月に始まった。原田氏は同サービスのポイントは「顧客の声から生まれたこと」と述べた。
中堅・中小企業の顧客から、「意思決定が進まない」という悩みがあると聞いたことから、「ITX Lite」では通常は2、3カ月かかる評価のプロセスを2週間程度に短縮して実施する。また、対象システムの規模も10台から100台程度を想定している。
デジタルイノベーション体験ワークショップの新設
経営層を対象としたカルチャー改革の支援策「デジタルイノベーション体験ワークショップ」がスタートした。同ワークショップでは、同社が実践している、顧客に求められないモノやコトを作らない「Working Backwards」の手法を体感できる。
このワークショップも大規模企業向けに提供されていたもので、全国の中堅・中小企業のトップに向けて広く展開していく。
人材育成の強化
DX推進のカギとなる人材育成を支援するために、トレーニングと認定を提供する。トレーニングの受講料がネックとなるケースもあることから、各種助成金の対象となっているトレーニングの紹介を行うという。
最新テクノロジー取得支援の強化
最新テクノロジー取得支援の強化に関しては、世界中で注目を集めている「機械学習」「生成系AI」について紹介が行われた。
技術統括本部技術推進グループ 本部長 小林正人氏は、「Amazonは20年以上にわたり、機械学習によりイノベーションを進めてきた。AWSのミッションはすべてのユーザーに機械学習を届けること。中堅・中小企業は出来上がったものを素早く組み込みたいと考えていると思うので、そのためのサービスを提供している」と述べた。
小林氏は、AWSの生成系AI関連サービスとして、以下の5つを挙げた。同社は、企業が生成系AIを容易かつスピーディーに利用することを支援するサービスを提供している。
- 基盤モデルAPI サービス「Amazon Bedrock」(※現在は「Limited Preview」)
- 機械学習サービス「Amazon SageMaker」
- コードを自動生成する開発者向けサービス「Amazon CodeWhisperer」
- 機械学習向けアクセラレーター「AWS Trainium」
- 生成系AI向けアクセラレーター「AWS Inferentia2」
小林氏は、Amazon Bedrockについて、「ユーザーがインフラの管理をする必要がないのがポイント。基盤モデルを簡単に稼働できるので、ユーザーはアプリ開発に注力できる」と説明した。
パートナーとの連携を強化
中堅・中小企業には、専任のITスタッフが置かれていないケースも多い。そうした企業では、ITベンダーがDXを支援することになる。
そこで、AWSは中堅・中小企業のビジネスを支援できる能力・専門性・実績を認定する認定プログラムの立上げを10月初旬に向けて準備している。
温度データをクラウドに集約することで酒質を向上した鶴見酒造
続いて、鶴見酒造 代表取締役社長 和田真輔氏が、AWSの活用について説明した。鶴見酒造は愛知県津島市にある1873年創業の酒蔵だ。
和田氏は、同社が抱えていたビジネスの課題として、品質の良い酒造りの追究、杜氏の高齢化や人手不足、若手の人材育成、技術継承を挙げた。こうした課題の解決に向け、同社は、AWSのサービスを活用したラトックシステムの酒造品温モニタリングシステム「もろみ日誌クラウド」を導入した。
同システムでは、酒造りに欠かせない麹・酒母・もろみの温度データを集約して可視化する。この温度センシングの仕組みは、「製麹」「酒母造り」「もろみ造り」の工程で活用されているという。データはグラフとして可視化され、PCやスマートフォンからアクセス可能で、遠隔監視が行われている。
和田氏は、温度センシングの効果について、次のように説明した。
「日本酒は酵母菌や微生物を使って造っているので、同じ工程で造ってもタンクごとに味が変わる。今まで点で管理していた温度を経過曲線によって確認できるようになったことで、温度の予測を立てやすくなった。醸造技術の大きな進歩といえる」
さらなる効果として、和田氏は「酒質の向上」「労働環境の改善」「技術継承」を挙げた。酒質の向上の成果として、国内外の清酒品評会で金賞、優等賞などを受賞しているという。
また、これまで醸造期間中は蔵に住み込んで、2、3時間おきに温度を測定していたが、「もろみ日誌クラウド」の導入によりいつでもどこでも24時間温度を確認できるようになっため、泊まり込みの業務が廃止された。
さらに、温度データが可視化されたことで、若手の蔵人も温度の変化を把握できるようになり、技術継承が進んでいるそうだ。