東海大学は7月14日、自身の体臭が周囲の人たちに咳やくしゃみなどのアレルギーに似た症状を引き起こすと訴える「People Allergic To Me(私に対するアレルギー)」(以下「PATM」)の患者20人の皮膚ガスを測定・分析した結果、体表面から人工化学物質や硫黄化合物、不安効果を与える成分などが多く放散されていることを突き止め、その皮膚ガス組成には共通の特徴があることを解明。同時にこのような皮膚ガス組成には、化学物質に対する代謝能や酸化ストレスが関与している可能性も示唆したことを発表した。

同成果は、東海大 理学部化学科の関根嘉香教授(東海大 先進生命科学研究所員兼任)、AIREXの笈川大介氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

自分の体臭が周囲の人に不快な思いをさせていないか、特に今のような夏場の時期に汗をかいた後などは、誰もが気にしたことがあるのではないだろうか。ヒトの体臭は、皮膚表面から発せられるいくつかの揮発性化合物で構成されており、これらはヒトの「皮膚ガス」として知られている。体臭がヒトの健康に悪影響を与える可能性については、これまでほとんど研究されてこなかったが、近年、自分の皮膚ガスが周囲の人々に、くしゃみ、鼻水、咳、目のかゆみ、充血など、アレルギー様の反応を引き起こすということを、SNSなどを通じて訴える人が増えてきているという。

このような症状はPATMと呼ばれており、その患者の多くは心理的面でも不安を抱えることがあり、その症状が原因で仕事を辞めざるを得なくなる人もいるというが、PATMに焦点を当てた科学的な研究報告が不足しておりその実態はわかっていなかったとする。

そこで研究チームは今回、PATMであると主張する人々を対象に、容易に皮膚ガスの捕集を行える小型器具「パッシブ・フラックス・サンプラー」(PFS)と、主に揮発性成分を分析対象とする分離・分析装置「ガスクロマトグラフ/質量分析計」(GC/MS)を使用して、皮膚ガス75種類の放散量を測定することによって皮膚ガス組成の特徴を調査したという。

  • この研究で使用された75種類の皮膚ガスを測定するためのPFSの外観図

    この研究で使用された75種類の皮膚ガスを測定するためのPFSの外観図(出所:東海大Webサイト)

その結果、PATMグループと非PATMグループの間にはいくつかのガスの皮膚放散量に大きな違いがあることが判明。具体的には、PATMグループでは「トルエン」や「キシレン」などの人工化学物質、「メチルメルカプタン」などの含硫黄化合物、不安効果を与える「ヘキサナール」のような成分の放散が多く、芳香を有する成分の放散は比較的少ないことが明らかになったとする。

  • 代謝産物ベンズアルデヒドの皮膚放散フラックスとトルエンとベンズアルデヒドの比の比較

    非PATMグループとPATMグループのa)トルエン、b)その考えられる代謝産物ベンズアルデヒドの皮膚放散フラックス、およびc)トルエンとベンズアルデヒドの比の比較。箱ひげ図中の×印は平均値。(出所:東海大Webサイト)

現時点で、PATMグループの特徴的な皮膚ガス組成を説明するメカニズムの提示は困難であるものの、トルエンとその代謝物である「ベンズアルデヒド」の比率は肝臓の薬物代謝酵素である「シトクロムP450(CYP)」の活性と関連する可能性があり、PATMを示唆するバイタルサインと考えられるとした。

またヘキサナールは皮脂の酸化生成物と考えられ、その放散には酸化ストレスが関与している可能性があるとし、その放散量はPATMを主張する人々の体臭に寄与するレベルだったという。研究チームは、これらの発見によりPATMがさらなる研究の価値があり、まだ医学的に解明されていない現象または症状として学際的なアプローチが必要であることを示唆しているとしている。