岐阜大学、東京工業大学(東工大)、国立遺伝学研究所(NIG)の3者は7月13日、ワサビのゲノム配列を染色体レベルにまでつなぐことに成功し、ハプロタイプレベルでの高精度な全染色体参照ゲノム解読に成功したことを発表した。
同研究成果は、岐阜大 応用生物科学部の山根京子准教授、同・山本祥平学部生(研究当時)、東工大 生命理工学院の伊藤武彦教授、同・田中裕之研究員、同・堀立樹学部生(研究当時)、NIGの豊田敦特任教授、東京都立大学の矢野健太郎客員教授などの研究グループによるもの。研究の詳細は、2023年7月11日に英科学誌「Nature」の姉妹誌である「Scientific Data」のオンライン版に掲載された。
日本原産の香辛野菜であるワサビは、日本食文化に欠かせない重要な食材であり、近年の和食ブームに伴って世界的に需要が増加している。また近年では、その抗酸化作用やがん抑制作用など、機能性食品としても注目されている。
ワサビが属するアブラナ科は、ダイコンやカブ、キャベツなど、経済的にも重要な野菜が数多く含まれ、すでに約90種類のゲノムが解読されている。しかし、同科植物が過去にゲノム重複を繰り返していることに加え、ワサビが4倍体である上に極めて高いヘテロ性を維持していたこともあり、大量のDNA断片配列をつなぎ合わせることでゲノム配列を復元する「アセンブル」を高精度に行うことが非常に困難だったとする。
そこで今回の研究では、次世代シーケンサー(PacBioおよびIllumina)と、Hi-Cと呼ばれる染色体立体配座補足法を用いて、染色体スケールのアセンブリを行ったとのこと。なおその対象としては、全国わさび品評会でも高い評価を受け、現在最も市場価値が高い品種の1つとされる「真妻(まづま)」が選ばれた。
研究チームは実験の結果、ワサビは7本の染色体が4組からなる異質4倍体生物であることを解明するとともに、合計28本(7本×4組)の染色体から構成される合計1512.1Mbの配列データを明らかにしたとする。なお、つなげた配列の長さを示す指標であるN50の長さは55.67Mbだったとのことだ。
さらに研究チームは、リードマッピングと系統解析により、28本の染色体を2組のサブゲノム、さらにそれぞれを2組のハプロタイプの割り当てに成功。それを3種類の方法で評価した結果、得られたゲノム配列が高品質で完全性の高いものであることが示されたとしている。
今回の研究成果は、遺伝や進化といった基礎研究をはじめ、品種改良など多くの分野での活用が期待される。研究チームは今後、「ワサビはなぜ辛いのか」などの基本的かつ重要な疑問の解決に向けて、辛味成分の進化や栽培起源の解明を目指すとともに、優良品種の育成に有用なデータを収集することで、ワサビの貴重な品種や在来種、および野生集団の保全に役立つ情報の整備を行う予定だとしている。
2024年4月18日訂正:記事初出時、東京都立大学 矢野健太郎氏の役職を教授と誤って記載しておりましたが、正しくは客員教授となりますので、当該部分を訂正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。