国立がん研究センター(国がん)、東京大学(東大)、横浜市立大学(横市大)の3者は3月14日、国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC-ARGO)における国際共同研究として、日本人の胃がん症例697症例を含む総計1457例の胃がんゲノム解析を行い、新たな治療標的として有望なものも含めこれまでで最大となる75個の「ドライバー遺伝子」を発見したことを発表した。

同成果は、国がん がんゲノミクス研究分野の柴田龍弘分野長(東大 医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター ゲノム医科学分野教授兼任)、横市大大学院 医学研究科 肝胆膵消化器病学教室の中島淳教授らを中心とする国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の遺伝学全般を扱う学術誌「Nature Genetics」に掲載された。

日本で罹患者数と死亡数がともに上位に位置する胃がんは、病理組織学的に「腸型」と「びまん型」に大別される。胃がんの治療は年々予後が改善しつつあるものの、スキルス胃がんに代表されるような、びまん型胃がんについてはいまだに予後が不良だ。

また胃がんの発生要因としては、ピロリ菌感染およびEBウイルス感染が重要なリスク因子で、特にピロリ菌感染を契機とした慢性胃炎は発がんの温床となり、炎症に伴う再生性変化が腸型胃がんの発症と強く関連している。一方で、びまん型胃がんについては発症要因については未解明となっている。

今回の研究では、日本人胃がん症例697症例に、米国(442症例)・中国(217症例)・韓国(52症例)・シンガポール(49症例)における胃がんゲノムデータを加えた総計1457例となる世界最大の症例コホートを用い、全エクソン解読(1271症例)および全ゲノム解読(172症例)、RNAシークエンス解析(895症例)を実施したとする。

喫煙や紫外線などがんの発生要因は、細胞のDNAに特徴的な変異(変異シグネチャー)を起こすことから、がん細胞に生じた変異シグネチャーを解析することで、そのがんの発生要因を推定することが可能だ。今回の胃がんのゲノム解析においては、14種類の変異シグネチャーが同定され、中でも「SBS16」は、びまん型胃がん・東アジア人種に多く、また男性、飲酒量、アルコールを代謝しにくい体質(分解能が弱いゲノム多型)と有意な相関が示されたという。

さらに、びまん型胃がんの発症において鍵となるドライバー遺伝子「RHOA遺伝子」の変異がSBS16で誘発されることも示された。飲酒に関連したゲノム異常がRHOAドライバー変異を誘発し、びまん型胃がんを発症することが、ゲノム解析から明らかにされたのである。なおドライバー遺伝子とは、異常を起こすことによってがんの発生や進展に影響を与える遺伝子の総称だ。