早稲田大学大学院経営管理研究科教授・入山章栄〈両利きの経営とは何か?〉

日本でイノベーションが起きない理由は何か?

 ─ 〝失われた30年〟と言われる中で、日本の経済再生をどう図っていくか。入山さんはどこから手を付けていけばいいと考えますか。

 入山 日本の課題は山積しているんですが、わたしは多くが経営の問題だと思います。

 われわれ学者が言うのも偉そうですけど、わたしは日本の経営というのは長い間、欧米のグローバル基準に比べると3~4周遅れだと思っているんですね。別に欧米の企業が偉いわけではありませんが、最大のポイントは日本の会社がイノベーションを生み出せていない、あるいは生み出せそうに見えないということだと思います。

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 ─ しばらくイノベーションが起こっていないと。

 入山 ええ。例えば、東京証券取引所が、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割っている東証プライム・スタンダードの上場企業に対して、改善策の開示を要請しましたよね。

 わたしも経済産業省から相談を受けて、経団連の加盟企業を一緒に調査したんです。PBRが1以下の会社というのは理論上潰れた方がいいし、少なくともそんな企業をバックアップするのは止めた方がいいと思っていたんですが、驚くことに、経団連加盟企業の半分以上がPBR1以下でした。

 ─ 実際、かつての東証一部、今のプライム市場でも約5割がPBR1倍割れです。

 入山 そうなんです。何もPBRの数字にとらわれすぎる必要はありませんが、株価が低いというのは、早いうちは未来が無いと思われているわけです。

 では、その状態を脱出するために何が必要かと言ったら、わたしは「両利きの経営」と言っているんですけど、絶え間なく長期的にイノベーションを生み出す仕組みをつくることです。

 ─ なるほど。入山さんはかねてから「両利きの経営」を提唱していますが、改めて、両利きの経営とは何なのか説明してもらえますか。

 入山 要するに、結論から言うと「知の探索」と「知の深化」の両方をやるということです。

 イノベーションの第一歩は新しいアイデアを生み出すことです。では、新しいアイデアがどうやって生まれるかと言うと、知と知の組み合わせなんです。それも自社の知と異業種の知を組み合わせることで、新たなビジネスモデルやサービスが生まれてくる。探索というのは遠くのことを幅広く見て、異なる領域の知を探してくることです。

 ところが、人間は認知に限界がありますから、放っておくと自分が認知できる目の前のことだけを見てしまう。だからこそ、遠くをたくさん見る必要があるんですね。

 ─ 人はどうしても目の前のことで精一杯になりがちですからね。

 入山 仰る通りです。実際に遠くをいっぱい見るのはとても大変です。だから結局、無駄なことのように感じてやらなくなるんですね。

 一方の深化というのは、儲かりそうな知を深掘りすることで知を磨き、商品やサービスの改善につなげることです。こうした知をいっぱい組み合わせて、ここが儲かりそうだと思ったら徹底して、深掘りすると。深掘りして、効率化して、磨き込んで収益化していく。わたしはこの探索と深化のバランスが重要だと思っていまして、それを両利きの経営と呼んでいます。

 ただ、どうしても企業は探索がおろそかになりやすい。無駄なことをしているように感じてしまうので、深化だけをやろうとするんですね。深化すれば短期的には目の前の収益がアップしていいかもしれませんが、長い目で見るとイノベーションを起こすための探索をしていないから、結果的にイノベーションを起こすことはできない。それが日本の現状だと思います。

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