• H3ロケットの打ち上げ失敗によって、光学地球観測衛星「だいち3号(ALOS-3)」は失われた。不測の事態を受けて次期光学衛星の開発が急がれる中、その方向性として打ち出された3案を比較していく。

    H3ロケットの打ち上げ失敗によって、光学地球観測衛星「だいち3号(ALOS-3)」は失われた。不測の事態を受けて次期光学衛星の開発が急がれる中、その方向性として打ち出された3案を比較していく。(Credit: JAXA)

2023年3月7日、H3ロケット試験機1号機の打ち上げ失敗によって、12年ぶりの打ち上げとなるはずだった宇宙航空研究開発機構(JAXA)の光学地球観測衛星「だいち3号(ALOS-3)」が失われてしまった。ALOS-3は、2006年から2011年まで運用されたJAXAの陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」の後継機にあたる。同じ後継機の「だいち2号(ALOS-2)」はALOSからレーダ観測機能を受け継いだもので、ALOS-3は可視光で地表を観測する機能を受け継いでいる。2011年から、ALOS-3の当初の打ち上げ予定の2020年まで、9年もの間JAXAの光学地球観測衛星にはブランクがあった。さらにH3ロケットの打ち上げが2年延期されたことで、空白期間は12年に及んでいる。

2022年秋に設立された衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)では、同コンソーシアム内で「次期光学衛星の検討を加速する」ことを決定。6月8日に「次期光学ミッション」というALOS-3の後継ミッション構想を取りまとめ、文部科学省へと提案した。3カ月弱の早急な検討作業だが、あまり時間がかかると光学衛星の空白はさらに長くなってしまう。スピードは重視しつつも、実際のミッション開始時期にどんな衛星データを市場が求めているのかまで予測しなくてはならない。6月27日に開催された宇宙開発利用部会での議論をふまえ、「次期光学ミッションコンセプト検討の結果について」からCONSEOが提案した次期光学ミッション3案の詳細を解説する。

ALOS-3を2機ペア体制で運用へ 「Challengers for NEXTAGE」提案

  • 「Challengers for NEXTAGE」の提案資料。

    「Challengers for NEXTAGE」の提案資料。(出所:「衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)における次期光学ミッションコンセプト検討の結果について」より)

次期光学ミッションコンセプトの第1案は、衛星データサービス企画、三菱UFJ銀行、スカパーJSAT、日本工営、三菱電機、アジア航測の6企業グループが提案するもので、ALOS-3を2機新たに開発(作り直し)し、2027年度・2028年度に相次いで打ち上げ、ペア体制で観測しようというものだ。ALOS-3の特徴だった分解能80cm、6つの波長での観測機能はそのままに、2機体制にすることで観測幅(一度に観測できる東西方向の範囲)を70kmから2倍の140kmに広げる。衛星の開発は、だいち3号を開発した三菱電機が提案者の中に入っているため引き続いて担うことになるとする。

ALOS-3の技術や観測計画をそのまま引き継ぐことができるため、これまでの知見を活用することができるというのがメリットだ。気になる点といえば、まず開発にかかる時間だろう。3案の中で最も開発に時間がかかり、「ALOS-3R」の打ち上げは2027年度終盤(おそらく2028年初頭)まで待たなくてはならない。

また、同じ技術だからといって単純に作り直せるとも限らない。2023年度中に、ALOS-3と同等のコンポーネントを調達できるかどうかを調査するフィジビリティ・スタディの期間が必要になる。さらに、ALOS-3ミッションでは地上側のデータ配布を担当する予定だったパスコは次のグループに移動したため、ユーザーとのインタフェースになるデータ配布プラットフォームは、再び開発することになるはずだ。

世界中で利用されている欧州のSentinel衛星が広く受け入れられているのは、データ配布プラットフォーム「Sentinel Hub」がエンドユーザーにとって非常に使いやすいWebアプリであるところが大きい。そのSentinel Hubを開発したスロベニアのSinergiseが米・Planet Labsに買収されたことからうかがえるように、衛星データの活用は配布プラットフォームの使いやすさが左右するようになってきている。このチームの中で、これから4年の開発期間をかけて、ユーザー拡大の追い風となるようなプラットフォームの構築をどこが主導するのかという点は、今回の提案からはまだ見えていない。

「Challengers for NEXTAGE」 プロジェクト概要

  • システム構成:ALOS-3×2機
  • 観測幅:140km
  • 分解能:80cm(直下視)
  • 観測バンド:6バンド
  • 打ち上げ時期:2027年度末~
  • 官民分担:(官)ALOS-3×2機 (民)地上設備構築・運用および衛星運用費を負担