米宇宙企業のヴァージン・ギャラクティックは2023年6月30日、サブオービタル宇宙船「スペースシップツー」による、初の商業宇宙飛行に成功した。

これまでは自社資金による試験飛行を繰り返してきたが、今回初めて、イタリア空軍が顧客となり、運賃の支払いを受けて行われた飛行となった。

8月には一般の旅行者を乗せた飛行も予定しており、今後は毎月1回の飛行を予定するなど、宇宙飛行ビジネスを本格化させるとしている。

サブオービタル飛行をめぐっては、すでにAmazon創業者ジェフ・ベゾス氏のブルー・オリジンも参入しており、いよいよこの分野における競争が本格化することになる。

  • a宇宙に向けてロケット・エンジンを噴射して飛行するスペースシップツーの「VSSユニティ」

    宇宙に向けてロケット・エンジンを噴射して飛行するスペースシップツーの「VSSユニティ」 (C) Virgin Galactic

サブオービタル宇宙船「スペースシップツー」

ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)は、実業家のリチャード・ブランソン氏らが立ち上げた米国企業で、サブオービタル飛行のビジネス化を目指している。

サブオービタル飛行とは、宇宙の入り口とされる高度80~100kmまで到達したのち、すぐに降下して帰ってくるような宇宙飛行のことである。地球の軌道に乗る宇宙飛行とは異なり、宇宙空間にいられるのはわずか数分間だが、窓から青い地球や黒い宇宙空間を眺めることができ、船内は微小重力(いわゆる無重力)状態にもなるため、宇宙旅行を手軽に実現できる方法として注目されている。

また、微小重力環境を生かした実験や、天体観測といった科学研究の需要も見込まれているほか、都市間を結ぶ超音速旅客機(2地点間輸送機)としての使い道も考えられている。

その実現のため、ヴァージン・ギャラクティックは「スペースシップツー(SpaceShipTwo)」という宇宙船を開発している。スペースシップツーは翼のついた、小型のスペースシャトルのような機体で、2人の乗員と最大4人の乗客を乗せることができる。設計を手がけたのはスケールド・コンポジッツ(Scaled Composites)で、数々の独創的な航空機を生み出してきた同社らしく、SFに出てくる近未来の宇宙船のような美麗なボディをしている。

後部には宇宙へ飛行するためのロケット・モーターが装備されている。このロケット・モーターは、ハイブリッド・ロケットと呼ばれる安全性が高いもので、爆発などを起こす危険性が低く、取り扱いもしやすく、さらに万が一機体にトラブルが起きても燃焼をすぐに停止させることができるといった特徴をもつ。

そして、スペースシップツーの最大の特徴が、ロケットのように地上から打ち上げられるのではなく、専用の飛行機を使って空中から発射される点にある。その母機となる「ホワイトナイトツー(WhiteKnightTwo)」もスケールド・コンポジッツが設計したもので、双胴機と呼ばれる、2つの飛行機を合体させたような独特の形をしており、2つの胴体をつなぐ主翼の下にスペースシップツーを吊り下げるように搭載して運ぶ。

  • スペースシップツーとホワイトナイトツー

    スペースシップツーとホワイトナイトツー (C) Virgin Galactic 2020

スペースシップツーを搭載したホワイトナイトツーは、高度約15kmまで飛行したのち、スペースシップツーを分離して投下する。そして、スペースシップツーはロケット・モーターに点火し、宇宙空間へ向けて駆け上がる。

ロケットの燃焼が終わると、慣性でそのまま上昇を続けるとともに、船内は無重量状態となり、乗客は窓から外の景色を楽しんだり、宇宙実験を行ったりできる。

スペースシップツーは最終的に、高度約85kmまで到達することができる。国際航空連盟(FAI)が宇宙と定める高度100kmには到達できないものの、米国宇宙軍や米国連邦航空局(FAA)、米国航空宇宙局(NASA)は、高度80km以上を宇宙としている。

やがて下降を始めたスペースシップツーは、主翼の後ろ半分を60度ほど折り曲げる「フェザー・モード」に移る。フェザー(feather)とは羽根という意味で、この形態になることで、降下のスピードを抑えつつ、機体を安定させることができる。原理としては、バドミントンのシャトルが、後方の羽根のおかげで、つねに球の部分を前に落ちてくるのと同じ理屈である。

大気圏に再突入したスペースシップツーは、ある程度降下したところで翼を元の状態に戻す。そしてグライダーのように滑空し、滑走路に着陸する。機体はメンテナンスを受け、ホワイトナイトツーと結合され、新しい乗客を乗せてふたたび飛び立つ。

  • ロケット・モーターを噴射して宇宙へ駆け上がるスペースシップツー

    ロケット・モーターを噴射して宇宙へ駆け上がるスペースシップツー (C) Virgin Galactic 2018

スペースシップツーはこれまでに「VSSエンタープライズ」と「VSSユニティ」の2機が製造され、ホワイトナイトツーは「VMSイヴ(Eve)」の1機のみが製造されている。

宇宙飛行は当初2014年にも実現できるとされていたが、スペースシップツーに搭載するハイブリッド・ロケットの設計が二転三転したり、ホワイトナイトツーの主翼に亀裂が入ったりといった問題が相次いで起き、さらに2014年にはVSSエンタープライズが墜落事故を起こすという悲劇にも見舞われ、開発・試験計画は大きく遅れた。

その後、2016年には2号機のVSSユニティが完成し、大気圏内での試験飛行を経て、2018年には宇宙への飛行試験に初めて成功した。その後もトラブルなどで飛行停止していた時期はあったものの、これまでに4回の宇宙飛行を実施している。

そして今回、初めての商業宇宙飛行、すなわち運賃を支払った顧客を乗せて行う飛行ミッション「ギャラクティック01 (Galactic 01)」に臨んだ。