初の商業飛行ミッション「ギャラクティック01」
ギャラクティック01は、イタリア空軍が座席を購入して行った研究ミッションで、飛行中の環境が人体に与える影響や、微小重力環境での物質の実験など、計13の研究や実験が行われた。さらに、イタリア空軍とイタリア学術会議(NRC)の創設100周年を記念する意味合いもあった。
研究ミッションそのものには「ウィルトゥーテ1(VIRTUTE 1)」という名前が与えられた。Virtureとはラテン語で「勇気」という意味で、イタリア空軍のモットー「Virtute Siderum Tenus (勇気を持って星へ)」にもちなんでいる。
搭乗員として、イタリア空軍の軍人2人と、NRCの研究者1人が参加した。また、コマンダーとパイロットとしてヴァージン・ギャラクティックの2人が搭乗したほか、宇宙飛行をサポートするインストラクターとして同社社員1人も搭乗した。
6人を乗せたVSSユニティは、VMSイヴに搭載され、日本時間6月29日23時30分、ニューメキシコ州にあるスペースポート・アメリカから離陸した。そして約1時間後の0時28分、高度約14kmで分離され、ロケット・モーターに点火し、大空を駆け上がっていった。
スペースシップツーはそれから約2分半後、高度約85kmに到達した。搭乗者たちは宇宙空間と微小重力環境を楽しみつつ、研究や実験を行った。
やがて機体は降下を始め、大気圏に再突入したあと滑空飛行して、0時42分にスペースポート・アメリカの滑走路に無事に着陸し、ミッションは完全な成功を収めた。
ミッション成功を受け、ヴァージン・ギャラクティックのマイケル・コルグラジア(Michael Colglazier)CEOは「今日、私たちのチームは、 VSSユニティで6 人の人と十数個の研究ペイロードを宇宙に飛ばすことに成功しました。VSSユニティはユニークな”サブオービタル科学研究所”として機能しました」と語った。
「私たちにとって最初の商業飛行であり、そして最初の本格的な商業研究ミッションであり、民間の乗客と研究者が、宇宙に繰り返し可能で信頼性の高いアクセスを行うという、新時代の到来を告げる歴史的な飛行となりました」。
イタリア空軍から参加したWalter Villadei大佐は「この歴史的な宇宙飛行に参加できたことをとても誇りに思います。このミッションはイタリア初の商業サブオービタル研究宇宙飛行であり、イタリア空軍とNRCの長期にわたる協力によって可能となった驚くべき成果です」と語った。
「両機関の創立100周年にあたり、私たちは歴史の最高点へと到達しました。この画期的な協力関係により、イタリアは商業宇宙飛行の新時代の先駆者となり、イノベーションを促進し、この戦略的領域におけるさらなる技術強化への道を切り開きます。ヴァージン・ギャラクティックと協力して、私たちは将来の取り組みとその先にある無限の可能性の前例を築いたのです」。
“宇宙旅行”は8月にも、次世代機の開発も進む
今回の成功を受け、ヴァージン・ギャラクティックは、次の宇宙飛行ミッション「ギャラクティック02」を、8月に実施することを計画している。同ミッションは同社にとって初となる、民間宇宙飛行士、いわゆる宇宙旅行者による飛行ミッションとなる。
同社はかねてより、一般向けのチケットの販売を行っており、チケットは現在1人あたり約45万ドル(現在の為替レートで約6500万円)で販売されている。以前は25万ドルで販売されていたが、前述した墜落事故を受けた改修や、追加の開発や試験などが影響したものとみられ、倍近くにまで値上がりした。
宇宙旅行のチケットは、これまでにF1ドライバーやNBLなどのスポーツ選手、俳優、デザイナー、YouTuberなどが購入したと伝えられている。
コルグラジアCEOによると、「VSSユニティは毎月宇宙ミッションができるようになるでしょう」と語っており、8月以降、少なくとも月1回は宇宙飛行が見られることになろう。
同社はまた、スペースシップツーに続く次世代の宇宙船「スペースシップIII」の開発も進めている。
スペースシップIIIは、基本的な姿かたちはスペースシップツーと同じであり、乗員数や到達できる高度などの性能もほぼ同じである。
一方、目立つ違いはその塗装で、スペースシップツーは基本的に白色に塗られているが、スペースシップIIIは全体が光を反射する鏡面塗装になっている。同社によると、この塗装には耐熱効果があるとし、また「地球から空、そして宇宙へと飛行する間に、反射した色が変化し続ける様子を楽しんでほしい」としている。
そして最も大きな違いが、製造効率や飛行頻度、メンテナンス性の向上を目指し、モジュール式の設計を採用したところである。その詳細は明らかにされていないが、胴体や翼、ロケット・モーターなどが簡単に付け替えられるようになっているものとみられる。
鏡面塗装にしたということは、スペースシップツーでは耐熱が不十分だったことを示唆している。また、姿かたちは似ているとはいえ、内部が大きく変わっているということは、まったく別物の機体といえる。
また細かい点だが、スペースシップツーは数字の部分が英語で“Two”と表記されていたが、スペースシップIIIではローマ数字の“III”となっている。
同社によると、スペースシップIIIはより将来の宇宙船の設計、製造の基礎になるものだとし、また各宇宙港ごとに年間400回の飛行を目指すうえでの重要なマイルストーンだとしている。
スペースシップIIIは現時点で、1号機「VSSイマジン(Imagine)」、2号機「VSSインスパイア(Inspire)」が製造されている。
さらに同社は、「デルタ級(Delta class)」という、さらばる新型宇宙船の開発も進めている。デルタ級は、最大6人の乗客を乗せることができ、メンテナンス性などを向上させ毎週1回の飛行が可能になるなど、より商業運航に適した宇宙船になるという。
デルタ級宇宙船の生産は今年から始まる予定で、2025年後半から実験装置などを搭載した飛行を開始し、2026年には乗客を乗せた商業運航を開始する予定だとしている。
サブオービタル宇宙飛行をめぐっては、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏率いるブルー・オリジンも、「ニュー・シェパード」という宇宙船を運用している。すでに商業飛行も始まっているが、昨年9月に無人での打ち上げが失敗したことで運航が止まっている。ただ、原因の特定は完了しており、同社では対策を施したのち、できる限り早期に運航を再開したいとしている。
ブルー・オリジンに続き、ヴァージン・ギャラクティックも商業飛行を始めたことで、いよいよサブオービタル飛行における競争が本格化することになる。需要、市場がどれくらいの伸びをみせるのか、そして誰もが気軽に宇宙へ行ける時代は来るのか。今後に注目したい。
参考文献
・Virgin Galactic Completes Inaugural Commercial Spaceflight | Virgin Galactic
・(17) WATCH LIVE: Galactic 01 Spaceflight - YouTube
・Spacecraft Fleet | Virgin Galactic
・Virgin Galactic Announces ‘Galactic 01’ Crew Onboard the First Commercial Spaceflight | Virgin Galactic