アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS ジャパン)は6月26日、日本独自のクラウド移行支援プログラム「ITトランスフォーメーションパッケージ」に関する記者説明会を開催した。説明会には、同サービスを利用しているビックカメラの野原昌崇氏も登壇し、同社のクラウド移行を含めたDX(デジタルトランスフォーメーション)の進捗状況を説明した。
クラウドネイティブな移行を支援する「ITX パッケージ 2023 ファミリー」
「ITトランスフォーメーションパッケージ」は提供が始まり3年目となるが、アマゾン ウェブ サービス ジャパン執行役員 事業開発統括本部長 佐藤有紀子氏が、「ITX パッケージ 2023 ファミリー」について説明した。
同サービスは「ITX for Cloud First」「ITX for Cloud Native」「ITX for MCP Partner」「ITX for Lite」から構成されている。
「ITX for Cloud First」は、クラウドへのリフトおよびシフトのプロジェクトを支援するプログラム。評価、準備、移行という3つのフェーズに分けて支援を行う。
「ITX for Cloud Native」はクラウドならではの技術を活用 した移行を支援するプログラム。検討、評価、準備、移行といった4つのフェーズに分けて支援を行う。同サービスの肝となるプログラムだ。
「検討」のフェーズではModernization Strategy Workshopを実施する。対象となるシステムは、AWSにリホスト済みのオープン系(Linux/Windows )システムやマイグレーションプランを視野に入れた大規模システムだ。
Modernization Strategy Workshopは、「ビジネス戦略・IT戦略・課題の整理」「システムの特性分析」「モダナイゼーション対象システムの選定と方針作成」「移行ロードマップ策定支援」といった4つのステップで進められる。
「評価」のフェーズでは、「アーキテクチャ検討支援(MODA)」が行われる。これは、AWSの専門チームが特定業務システムをさまざまな観点から評価・分析するもの。成果として、モダナイゼーションのポイント、ToBe アーキテクチャ案が提示される。
「ITX for MCP Partner」は、MCPパートナーと AWS による移行モダナイゼーションの統合オファリング。佐藤氏は、「日本の企業の多くはパートナーと共に、クラウド移行を行っている」と、日本のIT事情を鑑みたプログラムであることを示唆した。
「ITX for Lite」は、中小規模の企業を対象とした支援プログラムだ。佐藤氏は、同プログラムを提供するに至った背景について、「中小規模企業のクラウド移行において、大企業向けプログラムの活用が難しかった」と語った。評価、準備、移行という3つのフェーズにおける支援は、大規模向けプログラムと同様だという。
OMO、基幹システムのモダナイゼーションを実施するビックカメラ
続いて、ビックカメラ 執行役員デジタル戦略部長兼ビックデジタルファーム代表取締役社長 野原昌崇氏が、「ITX パッケージ」を活用したDXの取り組みについて説明した。
ビックカメラは昨年6月、店舗とECのシームレスな結合を通じて顧客体験を向上するOMO(Online Merges with Offline)戦略を推進するとして、「DX宣言」を発表した。
その際、DX宣言の実現に向けて、AWSとの連携を強化することも発表。AWSが提供する「ITX 2.0」を採用し、OMO戦略の根幹となるデータ活用基盤の整備、AWS 活用を自社で推進できる内製組織の構築を目標として掲げていた。
野原氏は、家電小売業の特徴について、「他の小売業よりもDXが未開拓だから、DXが効きやすい。また、購買履歴のデータベースが役に立たないという特徴がある。例えば、お客さまは毎年有機ELテレビを買わない。つまり、客が購入したデータは役に立たない」と説明した。
こうした背景から、同社はビジネスを変革する“新しい顧客体験の創出”に向けて、顧客を中心に置いたビジネスを再構築するDXが必要だと考えているという。
新しい顧客体験とは、長期的な関係を意味する。「お客さまが今年買おうとしているモノは何か、お客さまが欲しい除法を届けるには、長期的な関係構築がカギとなる」と、野原氏は語った。
OMO戦略
そこで、ビックカメラは上述したように、DXとして、AWSをフル活用して「OMO戦略」「基幹システムのモダナイゼーション」「システム内製化」に取り組み、コストダウンと事業のアジリティ性向上を狙う。「DXによって、“お客様喜ばせ業”の深化を目指す」と野原氏。
「OMO戦略」の具体的な取り組みとして、「ご購入前ご関心 DB」が紹介された。家電小売業の場合、一度購入したものをすぐに再び購入するケースは少ない。それゆえ、購買履歴ではなく、購入前の関心をつかむことが重要になるというわけだ。野原氏は、「クラウドだからこそ、新しい取り組みの仮設検証をアジャイルに推進できる」と述べた。
基幹システムのモダナイゼーション
基幹システムのモダナイゼーションは、今秋に、AWS環境へのリフトを完了した後に、本格スタートする計画だ。古い基幹システムをクラウドネイティブなアーキテクチャで作り直す。
野原氏は、「基幹システムを、一度に、リフトしてモダナイゼーションにするのは難しいので、2つのステップを踏むことにした。大きなシステムなので、最初からクラウドネイティブにするのは難しい。小さなシステムなら、最初からクラウドネイティブにすべき」と説明した。
さらに、野原氏は基幹システムのモダナイゼーションにおけるポイントについて、次のように話した。
「ITベンダーにも得手不得手がある。計画策定の段階で、クラウドネイティブ、サーバレス、コンテナでいきたいと指定する必要がある。ただし、これを行うには内部の人材が必要」
野原氏は、「ITトランスフォーメーションパッケージ」のメリットについては、「一般的にクラウドが浸透してきたとはいえ、まだまだのところもある。経営者に対し、クラウドを活用したモダナイゼーションによるコスト効果や運用について説明する上で、役に立った。また、全額ではないが、クレジットがあったことも、経営層に対する後押しとなった」と語っていた。