住友生命は、「一人ひとりがよりよく生きる=ウェルビーイング」に貢献することで、「なくてはならない」生命保険会社を目指している。新しい価値・サービス提供の迅速化・業務効率化等のために、IT アーキテクチャ構想の策定およびデジタル化推進のためのプラットフォーム構築を進めている。

その内容について、住友生命 情報システム部 次長 兼 ITアーキテクチャ計画室長 石村忠宏氏が、AWSジャパンの年次イベントAWS Summit Tokyoで説明したので、紹介しよう。

  • AWS Summit Tokyoで講演する、住友生命 情報システム 部 次長 兼 ITアーキテクチャ計画室長 石村忠宏氏

    AWS Summit Tokyoで講演する、住友生命 情報システム部 次長 兼 ITアーキテクチャ計画室長 石村忠宏氏

異なる事業運営のため、SoRとSoEのシステムを併用

住友生命は、これまでの生命保険の事業に加え、顧客の健康を維持増進するプログラムであるバイタリティ(Vitality)の事業を2018年から開始し、生命保険と組み合わせて販売している。バイタリティでは、日々の運動や毎年の健康診断を受診することで保険料が変動したり、リワードと呼ばれるフィットネスジムの会費割引や旅行の割引が行われたりと、さまざまな特典がもらえる。

生命保険のシステム(保険契約管理・保険関連システム)とバイタリティのシステムはまったく異なる。保険会社のシステムは記録することを目的としたSoR(Systems of Record)がメインであり、バイタリティはエンゲージメントを目的としたSoE(System of Engagement)の典型だという。

生命保険のシステムは主にメインフレームで管理しており、営業職員や代理店などのチャンネルごと、また、保険金・給付金の支払い業務やコールセンターなど、保険業務ごとに保険関連システムや業務の専用端末がオープン系システムとして250近く存在している。そして、5年に一度、一定のコストをかけてシステムの更改作業、リニューアル作業を繰り返してきたという。

  • 保険契約管理・保険関連システム

    保険契約管理・保険関連システム 出典:住友生命

一方、2018年に構築したバイタリティシステムは、日々の歩数や心拍数などをウェアラブルデバイスやスマホ経由で取得しており、健康診断のデータもスマホアプリでアップロードしてもらっている。これらをポイント化して、目標を達成した顧客にリワードとして特典を提供する仕掛けも搭載している。

  • バイタリティ(Vitality)システム

    バイタリティ(Vitality)システム 出典:住友生命

リワードを提供する企業は現在24社に拡大し、双方の会員情報やサイト連携をしてリワードの提供を実現している。また、外部サービスとしては、利用料のクレジットカード収納やメール配信だけでなく、キャッシュバック相当のコイン付与や電子マネーのギフト交換、コーヒーチケットの発行サービスなど、多様なベンダーと協業して実現しているという。基本的にこれらはすべて、AWSのクラウドサービスと外部サービスを組み合わせて構築している。

また、蓄積したデータを活用し、健康レポートや疾病予測の分析結果を提供するSoI(System of Insight)も2019年に環境構築し、2020年に本格的に利用を開始した。

  • SoI(System of Insight)システム

    SoI(System of Insight)システム 出典:住友生命

データレイクは、AWSの分析ツールとして、Amazon SageMakerやNECのdotDataなどを活用して分析する環境を整えている。現在、20人規模のデータサイエンティストのチームを組成し、バイタリティの健康レポート、疾病予測、リワードの効果など、各種データ分析を行っている。

次世代アーキテクチャにシフト

同社は、経済産業省が「2025年の崖」を発表する以前の2016年から既存システムのリスク分析・点検を開始した。その後、次期アーキテクチャ構想が必要だという結論に達し、2019年にデジタルにシフトしていくために、次期アーキテクチャ構想推進に取り掛かった。

ただ、もともと収益を生み出す元となる大半のシステムやそれに携わるシステムは既存のアーキテクチャに基づいていた。そのため、経済合理性を踏まえ、システムを作り変えるという発想はなく、既存アーキテクチャを生かしつつ新しい技術を取り入れて次世代アーキテクチャを作り、両輪で動かしながら段階的にシフトしていく方針だという。

次世代アーキテクチャは、従来の業務システム単位の設計アプローチではなく、SoE、SoI、SoRのエリアを7つのプラットフォームに分類し、顧客、データを中心とした販売サービス提供のシステム構造とすることを目指している。

  • 次世代アーキテクチャ概要

    次世代アーキテクチャ概要 出典:住友生命

ネットワークについては、コロナ禍で在宅勤務が増え、社外からの利用が増えたことで、閉域ネットワークからインターネット中心のアーキテクチャに変更することにした。

認証については、自社内の各アプリケーションだけでなく、社外の提携企業とのアプリ連携が増えることで、個別にならないように統合・共通化する方針としている。

これまでシステムはデータセンター内に集約されていたが、今後はシステムやデータが分散されることを前提とした世界観でシステム全体を構築していく。そのため、自社データセンターを含め、SoCクラウドをデータハブで結び、シームレスに連携して、データセンターが分散しても最適なデータ配置ができるように考えているという

  • 次世代アーキテクチャ全体像

    次世代アーキテクチャ全体像(出典:住友生命)

なお、既存システムは一気にクラウド化するのではなく、5年に一度のシステム更改のタイミングでクラウドに移行する方針だ。既存アプリ資産のすべてを次世代アーキテクチャに作り変えることは、経済合理性の観点からも見合わないことから、顧客やユーザー接点部分を中心に見直していくという。

また、メインフレームの保険契約管理についても、塩づけにするのではなく、段階的にクラウドへの移行に取り組んでいる。具体的にはスピード、製品、テクノロジー、コスト最適化の点を考慮し、改めてクラウドファーストの方針も社内で打ち出している。

今後の新規システムの開発はもちろん、既存システムについても、リニューアル、システム更改案件については原則クラウドを利用する。そのベースとなるクラウドとしてAWSをメインに利用する方針だ。

「なくてはならない」生命保険会社に向けてデジタルビジネスを加速

同社では、2030年時点のありたい姿を、ウェルビーイングに貢献するなくてはならない保険会社グループとし、今後の3年間は、2030年に向けて飛躍するための軌道を確立する3年間としている。

具体的には、これまでにアーキテクチャの土台を作っており、バイタリティを中心に新しいデジタルビジネスを推進、加速していく3年間になるという。

クラウド推進の取り組みについては、下図のようにクラウド戦略、ガバナンス、人組織、プラットフォーム、運用保守、セキュリティという6つのエリアに分けて取り組み内容を整理している。

  • クラウド推進の取り組み

    クラウド推進の取り組み 出典:住友生命

ロードマップとしては、基幹系システムの移行は昨年度から開発に着手。2024年度から本格的にAWSに本番移行していく。最終的には2027年をめどにクラウドシフトが完了する予定だという。