日本マイクロソフトの津坂美樹社長が取材に応じ「マイクロソフトは、最も多くの引き出しを持った会社であると感じている。また、米Microsoft CEOであるサティア・ナデラ氏のリーダーシップと、マイクロソフトを変革した新たな企業カルチャーに惹かれたことが、この仕事を引き受けた理由」と語り、「日本に必要とされるテクノロジーレボリューションを起こしたい」と抱負を述べた。津坂社長がメディアのインタビューに応じたのは今回が初めてとなる。
ボストンコンサルティングから日本マイクロソフトの社長就任
津坂社長は2023年2月1日付けで、日本マイクロソフトの社長に就任。「あっという間の4カ月半だった」と振り返りながらも「私の入社と、生成AIの広がりが、ちょうどリンクした4カ月半でもあった。いいときに入ったと周りから言われる」と笑う。
日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)が2023年6月13日に開催した総会懇親会で津坂社長が乾杯の音頭を取り、その挨拶で「少し緊張しているので、読ませていだたきます」と、メモを取り出して挨拶を始めた。
だが、読み終わると、「いまのは、Bing経由でChatGPTによって作成した挨拶文です」と語り、笑いを誘うユニークな一面もみせた。そのあとに続いた挨拶にメモはなく、自らの言葉で、業界関係者に向けて、抱負を述べてみせた。
日本マイクロソフトに入社する前は、ボストンコンサルティンググループ(BCG)のシニアパートナーマネージングダイレクターとして、国内外の企業の成長戦略策定や実行支援、収益向上、組織再編、DX(デジタルトランスフォーメーション)に関するコンサルティング業務に従事。消費財や流通、金融、保険、製造、ハイテク、メディア、通信など、さまざまな業種を担当してきた。
BCG 東京オフィスに入社したのが1984年。その後、ニューヨークオフィスに20年間勤務し、2008年から東京オフィスに在籍し、2期6年に渡るエグゼクティブ・コミッティ(経営会議)メンバーを務め、チーフ マーケティング オフィサー(CMO)にも就いた。1988年には、ハーバード大学経営修士課程を修了している。
津坂氏は「ニューヨークで20年間、東京での15年間にわたる経営コンサルティングの仕事を通じて感じていたのは、やっている仕事の半分以上がデジタルであり、ビジネス変革はテクノロジーがないと進まないということであった。そうしたなか、日本マイクロソフト社長就任の打診を受けた。数あるテクノロジー企業のなかで、マイクロソフトは最も引き出しが多い会社である。そして、CEOのナデラのリーダーシップと、マイクロソフトを変革した新たな企業カルチャーに惹かれた」と、マイクロソフト入りの背景を語る。
ナデラCEOとは、コロナ感染拡大前のタイミングに、会合で同席する機会があったことを明かし「エンジニアとしても、経営者としても、人間としても素晴らしいと感じた」と振り返る。これも、今回のマイクロソフト入りに影響しているようだ。
最初に使ったパソコンはNECの「PC-9800シリーズ」
2023年2月に、日本マイクロソフトの社長に就任してからは、まずは社員と話す機会を増やしたという。
津坂氏は「社長を務める知人から、新しい会社に行ったら、トップフロアの人間と話しているだけではダメだ。現場に出ろと言われた。その言葉を実行し、数百人の社員たちと会話をした」と振り返る。
社長就任後、シアトルの米本社には2回訪れ、マイクロソフトアジアの拠点があるシンガポールにも2回訪れた。そこでも、幹部だけでなく、現場の社員との対話を重視したという。
そして、同氏は「最初は、7割ぐらいの時間を社内に使っていたが、いまは6割強を社外に向けている。お客さまや、パートナーと対話する時間を増やしている」というのがいまの状況だ。
そのうえで、津坂社長は「東京だけでなく、日本各地に積極的に行きたいと思っている」とし「前職に比べると出張の移動距離は短いですからね」と、脚力に自信をみせる。同社の新年度がはじまる7月も、約1週間、日本の顧客と米国本社を訪れる予定であり「6週間に1回ぐらいのペースで米本社に行くことになるだろう」と話す。
ちなみに、津坂氏が最初に使ったパソコンは、NECの「PC-9800シリーズ」だったという。「そのときは、パソコンを使えることに対して、大きな喜びがあった。その後はテクノロジーの進化とともに、Webで検索ができるようになり、さらにスマホが登場し、パソコンの環境を持ち運んで利用できるようになった」とし「生成AIは、それらと同じような大きな波が訪れていると感じる。仕事や生活を大きく変える可能性がある」と指摘する。
日本に必要な技術革命を
先に触れたように、津坂氏の社長就任を前後して、日本でも生成AIが一気に盛り上がりを見せている。
自らも積極的に利用しているようで「GPT-3.5とGPT-4では、日本語環境の出来がかなり違う。一方で、ChatGPTは2021年9月までの学習データしか、情報として持っていないが、Bingを利用すれば新しい情報にアクセスすることができる。また、その答えをどの情報ソースから持ってきたのかも示してくれる。たとえば、金融機関が業務利用する際には、有価証券報告書の情報や特定の信頼できるメディアの情報、特定のアナリストが発信している情報だけに限定するといったように、ソースを指定したり、限定したりした使い方ができる」と説明する。
そして「GPT-4を実装したNew Bingの利用者数は、米国以外では、日本が最も多く、日本のユーザーが新たな技術に対して強い関心を持っていることが裏づけられる。より多くの方々にBingを使ってもらいたい」と語る。
実は、津坂氏は2023年2月に社長に就任して以降、メディアを対象にした就任会見や事業方針説明会は一度も行っていない。そして、単独取材にも応じていない。
その背景として同氏は「外からやってきた私が、就任直後に、一体何を言えるのか。正直な言い方をすれば、会見はやりたくないと、広報部門に言った。もう少し考え、行動してから、しっかりとした形で、お話をしたいというのがその理由」と語る。それは、津坂氏の信念から来たものだろう。
今回の取材に許された時間は極めて短かったが、津坂社長は「日本に必要なテクノロジーレボリューションを起こしたい」と、日本の成長を強く意識した姿勢もみせた。
2023年7月から、日本マイクロソフトは新年度がスタートする。いよいよ津坂社長体制の動きが本格化することになる。そこで、どんな方針を打ち出すのか。そして、メディアを通じてどんな発信をするのか。本格始動に向けたギアチェンジが始まる。