理化学研究所(理研)は6月5日、シリコン中の電子スピンによる量子ビットを、測定結果に基づくフィードバック操作によって初期化する技術を開発したと発表した。
同成果は、理研 量子コンピュータ研究センター 半導体量子情報デバイス研究チームの小林嵩研究員、同・樽茶清悟チームリーダーらの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の量子コンピューティングや量子通信などの量子情報に関するオープンアクセスジャーナル「npj Quantum Information」に掲載された。
量子コンピュータは、その最小構成単位である量子ビットをどのような物理系で実現するかによって分類される。さまざまな種類がある中で、既存半導体産業の有する集積技術との相性の良さから、大規模量子コンピュータの実装に適していると期待されているのが、シリコン中の電子スピンを用いて量子ビットを形成するシリコンスピン量子コンピュータだ。
しかし、現実に大規模な量子コンピュータを開発しようとすると、一般的にデバイス中の不純物や不均一性などの不完全性によって、設計通りの性能が得られないことが危惧されている。この問題に対処するには、デバイスの製造技術を高めて不完全性を抑制する方針に加え、不完全なデバイスでも性能を発揮できるような操作を開発することが考えられるという。
そうした中で、量子ビットの状態を測定し、その結果に基づいて量子ビットを操作するフィードバック操作は、量子誤り訂正をはじめとした重要なプロトコルに要求される技術だ。しかし、デバイスの不完全性により量子ビットの測定が不正確な場合は、必要な操作を実行できない可能性があり、実装の障害となっていた。裏を返すと、測定が不正確な場合であっても正確にフィードバック操作を実行する方法を見出すことができれば、大規模な量子コンピュータの実現に向けた前進になるとする。
そこで研究チームは今回、測定結果に基づくフィードバック操作を実現し、それを利用してシリコンスピン量子ビットの初期化処理を実装したという。量子ビットの初期化は量子コンピュータの動作に必須な処理で、特にフィードバック操作を用いて行うものは量子誤り訂正との技術的な共通点が多く、この処理を正確に実行することは重要な試金石になるといえるとしている。