ミスミグループ本社は6月2日、2019年よりサービスを開始した機械部品調達のAIプラットフォーム「meviy」のこれまでの軌跡を振り返り、それらの経験をもとに新たなサービスを開始したことを明らかにした。
meviyを統括する同社常務執行役員の吉田光伸氏は、「meviyのこれ迄の歩みと進化の鍵」と題し、これまでの歩みを説明。meviy立ち上げの背景には、設計、調達、製造、販売というものづくりのサプライチェーンのデジタル化において、調達がほかの3つに比べて遅れており、ボトルネックになっていると感じ、デジタル化による時間の価値創出を目指そうという思いがあったとする。
2つの視点で時間価値を創出
「設計は3D CADを使ったデジタルだが、調達の際に2Dの図面にわざわざ落として、それをFAXで送信するといったことが多かった。これをデジタルデータのままクラウドにアップロードして、meviyが形状を自動認識し、製造プログラムも自動生成し、それに見合った価格と納期を即時に回答する。これにより顧客にとってのイノベーションが生まれる」と吉田氏はmeviyのメリットを説明する。また、「ものづくり側としても、従来は紙の図面を見ながら工作機械を動かすためのプログラムを構築する必要があったが、受注と同時に工場に製造プログラムを転送し、それを受け取った装置が自動で製造を開始。これにより即時見積もり、最短1日出荷という時間の価値を創出することができるようになった」と、ものを実際に作る側もイノベーションを生み出せるようになったともする。これまでのお互いのやり取りまで含めてかかっていた膨大な時間を短縮することで、「同じ時間総量で考えれば、新たに別の作業に取り組める時間が創出されることになる。そうした意味では、meviyが提供するのは部品ではなく、時間」であることを強調する。
meviyは、この「顧客時間価値」の創出に向け、2019年4月に日本でサービスの提供を開始して以降、段階的に機能向上を果たしてきた。2020年にはコロナ禍における中小企業支援などを念頭にしたシステム基盤の刷新を実施。その結果、レスポンスタイムはそれまでのシステム比で15倍に向上されたほか、2021年にもユーザーエクスペリエンスの向上に向けたユーザーインタフェースのリニューアルの実施やトヨタ自動車と共同で同社の3D CAD上で設定した加工データをmeviyに自動反映する機能も開発。そして2022年にはグローバル展開の本格化を目指す動きとして、meviyのシステム開発を担当するIT子会社「DTダイナミクス」を設立。インド法人と時差を生かした開発の加速を図っている。
こうした主にIT関連を中心としたバックエンドのさまざまなリソースの拡充を進めてきたことで、ユーザーがアップロードするデータ数も2019年度は250万件ほどであったのが2022年度には1200万件まで拡大。海外からのアップロード数も増加傾向にあり、2023年度中にもすでにサービスインしている日米欧に加え、中国ならびにアジアでもサービスの提供開始を計画しているとする。
ものづくり人材育成をmeviyが支援
同社はこれまでも教育機関向けの支援として、同社の製品を1団体あたり10万円(もしく5万円)相当分無償で提供する「学生ものづくり支援」というプログラムを展開してきた。
今回、こうしたプログラムをmeviyにも適用することを明らかにした。「顧客からmeviyを使うと、若手の設計能力が向上する」という声も同社の元には届いているとのことで、そうした顧客の反応と、ものづくり人材育成支援活動の一環という意味合いなどを含めた取り組みで、「実はmeviyにアップロードした時点では、そのままでは作れない設計データが結構存在している。そうしたデータはmeviyのAIが、どこが悪いのかを教えてくれる。例えば、金属の曲げ加工部と穴開けの距離が生産技術要件を満たさず、近すぎたりする場合は、アラートとその理由、解決に向けた解説までセットで提示することで、加工を学ぶ人にとっての教師的なこともできる。実際に大学や高専などを中心に活用していただくシーンもあり、こうした製作の可否判断のみならず、加工条件によってどのように価格が変動するのかを見つつ、設計の調整を進めることで、コストと設計のバランスを学んだりすることもできるようになっている」(同)とのことで、実際に大量のアップロードを行って、見積もりまでは入手するものの、そこから先の注文を行わないユーザーもおり、そうしたユーザーが、そういった教育用途で利用している層ではないか、と同社では分析している。
新たに提供される教育機関向け特別支援プログラム「meviy for Education」は、最大50団体にそれぞれ10万円相当のmeviyでの部品購入を無償で提供しようというもの。また、出張授業やものづくり業界をけん引する著名人による特別講座なども提供する予定だという。
2023年度の応募期間は2023年6月2日~2023年7月31日までで、応募対象者はものづくりに挑戦する大学、大学院、短期大学、専門学校、高等専門学校(高専)、高等学校のいずれかに所属し、学校に属する管理者(教職員)が存在する学生団体(学生が応募する場合は、担当講師の許諾が必要)。3D CADを使用してものづくりに挑戦していることが前提で、商品の提供後、事後レポートやアンケート、取材や調査に協力することが条件となる。
選考基準は、同社が用意した専用応募フォームからの申し込みを実施後、その内容をもとに、「ものづくりへの好奇心・情熱・チャレンジ精神をもっている」、「ものづくりの未来に貢献したいという志をもっている」「ユニークな取り組みをおこなっている」という3点を中心に選考を実施。選考結果は2023年8月31日までに申し込み者のメールに送られる予定だという。
支援期間は2023年9月1日~2024年8月31日までの1年間で、1団体につき1口の応募で、複数回の応募は無効となるほか、応募フォームに記入不備があった場合や、連絡先が不明であったりする場合、当選権利が無効・取り消しとなる場合があることに注意する必要がある。
2D図面でもmeviyが利用可能に
このほか、同社は試験的なサービスとして6月1日より2D図面を使ってmeviyを利用できる「meviy 2D」の提供も開始した。従来のmeviyのようにリアルタイムまでは行かず、見積もりには最短でも1日ほどかかるが、通常2D図面を使ったやり取りの場合、1週間ほどかかるので、そうした従来のやり方と比べれば、十分に顧客の時間価値を創出できるサービスになるものと同社では語っている。
ただし、3Dデータを自動で2D図面に落とし込む機能は提供を開始しているが、2D図面から3Dデータを生成することは公差を含め、高精度に形状を形成するには現時点では難しいとしている。現在、同社ではAI活用の加速に向けた組織「meviy Lab」を立ち上げており、今後はそうしたAIの活用、ならびに技術の進化に向けた研究開発が進められており、そうした技術が進歩すれば、将来的にはできるようになる可能性があるが、それがいつになるのかについては未だ見えていないとしている。