トヨタ自動車(トヨタ)は、5月26日~28日に開催された日本の耐久レース「ENEOS スーパー耐久シリーズ 2023 第2戦 NAPAC 富士 SUPER TEC24時間レース」に、液体水素を燃料とするレース用車両の“水素エンジンカローラ”こと32号車「ORC ROOKIE GR Corolla H2 Concept」で参戦したことを発表した。

  • 液体水素を燃料として搭載した水素エンジンカローラ。

    液体水素を燃料として搭載した水素エンジンカローラ。(出所:トヨタ)

この32号車は、スーパー耐久シリーズを運営するスーパー耐久機構事務局が認める、ほかの8つのクラス(全9クラス)に該当しない開発車両のための「ST-Qクラス」に参戦。唯一の水素エンジン車であることもあって(ほかはカーボンニュートラル燃料のエンジン車など)、クラス順位は6台中6位だったが、開催コースである富士スピードウェイを358周し、24時間の完走を果たした。なお、ドライバーの1人としてMORIZOこと豊田章男前社長が乗車し、59周を走行した。

トヨタは、「マルチパスウェイ」の考え方を軸に車両を開発しており、現在はガソリンエンジン車から電気自動車まで、数多くのパワートレインを搭載した車両を市販している。そして現在、モータースポーツの場で研鑽を続けているのが、水素を燃焼させることで動力を得る水素エンジンだ。

これまでトヨタは、2021年から気体水素を燃料とする水素エンジンでスーパー耐久シリーズに参戦してきた。そして2023年からは液体水素に変更しての参戦を発表。エンジン自体は、気体水素を搭載していた時と同様のものが使用されているが、燃料供給装置を液体水素向けに大きく変更しての参戦となった。

燃料を液体水素に変更することでの最大のメリットは、体積あたりのエネルギー密度が上がるため、満充填からの航続距離が気体水素と比べておよそ2倍となることだ。

また気体水素の使用で必要だった圧縮機や冷却用プレクーラーなどの設備が不要になるため、サーキットで使用する移動式液化水素ステーションをコンパクト化できた点もメリットの1つとする。さらに設置に必要な面積は、気体水素使用時の4分の1程度までコンパクト化され、ガソリン車と同じようにピットエリア内で燃料の充填を行えるようになったという。

加えて昇圧の必要がなく、複数台連続の充填が可能になったこともメリットだとする。そのため充填時間(給水素ノズル装着後で実際に水素が流れている時間)は、これまでと同じ約1分半が達成されている。

一方で液体水素は、充填や貯蔵の際に-253℃よりも低い温度に保つ必要があり、扱いが難しい点が大きな課題だ。そのため、低温環境下で機能する燃料ポンプ技術をいかに開発するか、またタンクから自然に気化していく水素にどう対応するか、車載用液体水素タンクの法規をどのように作り上げていくか、などの課題があるという。

水素エンジンカローラは当初、2023年3月18日・19日に開催された鈴鹿サーキットでの第1戦「SUZUKAS耐5時間レース」で、初レースに挑む予定だった。しかし、それに先立つ同月8日に富士スピードウェイで実施された専有のテスト走行において、エンジンルームの気体水素配管からの水素漏れによる車両火災が発生(ドライバーは無事)。車両の復旧が間に合わなかったため、今回の第2戦からの出場となった(第1戦は代替のガソリン車で出場)。

欠場から約2か月、安全最優先の考えのもと、「水素配管を高温部から離す」、「水素配管ジョイントの緩み防止機能追加」といった変更に加え、万が一水素が漏れた際にも水素をキャッチして検知器に導く機能を兼ね備えたセーフティーカバーを装着するなど、車両火災の原因となった水素配管の設計変更が施された。

  • エンジンルーム水素配管の改良。

    エンジンルーム水素配管の改良。(出所:トヨタ)

また2か月前と比較し、車重を50kg以上も軽量化することにも成功。それにより、2021年5月に水素エンジンカローラが気体水素を燃料として初参戦した際のラップタイムを上回る性能が実現されたという。

  • 水素エンジンカローラに搭載された車載用液体水素システム。

    水素エンジンカローラに搭載された車載用液体水素システム。(出所:トヨタ)

なお、今回の液体水素エンジンの開発成功により、気体水素エンジンの開発は終了となるわけではないといい、気体水素には液体水素と比べてシステム構成がシンプルというメリットがあるとのこと。それぞれ異なるメリットや課題があり、特性を活かした使い方をしていくため、トヨタは引き続き、気体水素と液体水素の両方の開発に力を入れ、燃料搭載方法の選択肢を広げていくとしている。

そして今後も、液体水素システムの軽量化や小型化、エンジン性能向上、航続距離の伸長、充填時間の短縮などに向けて、大学(京都大学・東京大学・早稲田大学)や企業(川崎重工・岩谷産業など)と共同研究を進め、年間を通じてさらに性能を改善していくとしている。